第39話

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 万事風雲、急を告げている。


 戦況と同じで天候が回復するきざしは全くない。それと同じで、この筑羅者ちくらもの(ならず者)の将軍の耳に届いた唯一の例外である、朗報は、糞生意気な金髪の青年の伝令が、エリオスに抗命こうめいしたことをとがめられ、頭を殴られたことぐらいで有った。

 

 その青年の伝令は蟀谷こめかみから流血し、頬桁ほおげたを伝い顎まで、一縷いちるの真紅の線を描いたが、表情は全く変えず、剛腹ごうふく心胆しんたんの持ち主と、周囲の軍人に認識されただけであった。


 秋霜烈日しゅうそうれつじつの軍律を誇る公国陸軍において、無論、抗命罪こうめいざいは重罪である。


 しかし、マンソンが不満なのは、軍法会議には掛けられず、前線の伝令という役職を褫奪ちだつし、中堅の新兵の所属を戻しただけのエリオスの下した裁量さいりょうであった。


(まあ、よい。)


 とも思う。結局この戦場で落命らくめいするかもしれない。


 一応、騎乗はしているが、マンソンの馬は駄馬だばであり、重量は百キロ程しか運搬出来ない非力さであった。(これは通常の軍馬の半分ほどである)


 ただ、今回は攻城戦なので馬の優劣はあまり、関係がない。それだけが救いであった。


 もう一つ気に入らないのは、投石器があるのにそれで攻撃する前に、瀬踏せぶみを兼ねて貴隊が先陣を切れと、最高指揮官が命令してきたことだ。


 まさに死に兵である。向こうは銃眼じゅうがんなどから一斉に射かけてくるのは、自明の理である。


 流石に、監獄付近まで近づけば、クロス・ボウ応射おうしゃはしてくれるようだが・・・。


 あと、魔薬異能力者が居るのならば、とっとと前線に送り込んで欲しいというのが、正直な所であった。


 そんな秘密兵器が有るなら、出ししみせず、とっとと使うべきだ‥と思うのは人情であろう。


 そのような事を思案している間にマンソンの頭上を、一本の鳴矢なりやが、甲高かんだかい音を曳航えいこうながら、豪雨の中を切り裂いていった。


 無頼漢ぶらいかんの将領は仕方なく全隊に突撃命令を出した。


(ええい、ままよ)


 このあぶものの生き方そのままのいい加減な開戦であった。

 

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