第38話

38


 スクワイア監獄は版築はんちくで、二重の白亜はくあの外壁に囲まれており、左右を、風雪ふうせつ彫琢ちょうたくされた、断崖に挟まれており、往古から国防戦略の要衝ようしょうであった。

 

 大手門側はまっすぐ一本道が有るだけで、付近は鬱蒼うっそうとした樹林地帯、獣道けものみち四足獣達しそくじゅうたちが、闊歩かっぽしているだけの小径こみちである。


 存立そんりつしている周囲は前人未到の陬僻すうへきであり、搦手門側からめてもんがわ峻険しゅんけん岨道そばみち四分五裂しぶごれつ盤根錯節ばんこんさくせつして羊腸ようちょうのように迷走しており、かつての、金剛不壊こんごうふえの砦の雰囲気が、まだまだ健在である。


 しかし、現況は轍鮒てっぷきゅうで、危殆きたいひんしていた・・・。


 ましてや、公国陸軍の最前線で、死戦しせん闘殺とうさつしつづけた、歴戦の勇士同士が、しのぎを削るのである。お互いに弭兵びへい(撤退)や潰走かいそうなど頭に、毫末ごうまつも無い。


劫初ごうしょ、攻城戦・籠城戦というものは、援軍や増援部隊頼りの戦況である。


 しかし、ブライアンにそのような鴻謨こうぼ(大きな、はかりごと)が、有ろう

はずもない・・・。それどころかエリオスは、この監獄を知悉ちしつしている・・。


(確かに、エリオス中佐は名参謀であったが、前大戦の戦場はほぼ、平野、原野であり、野戦であった・・。

今回は自身の仕事場でも有ったが、初の攻城戦となる・・。)とブライアンは顧念こねんする。

  

 ここに、勝機が有るか。城を抜くには数倍の兵力を、もってあたるのは常套手段じょうとうしゅだんではあるが、戦力・兵力は断然、鎮圧軍の方が上で有るのは、誰の眼から見ても、闡明せんめいたる事実であろう。


(やはり、魔薬異能力者である、俺とグレコ大佐でどれだけ敵軍の将帥しょうすいを、ほふれるかで勝敗が決まるか・・・。)


 玉座の上で、眉間にしわを寄せ、左手で頬杖をつきながら、足を組み、右手でダガーをペン回しの様に回し乍ら、思索しさくふけっている。

 

 表情も肉体も、疲弊しており、意識は過覚醒かかくせいで、放埓ほうらつ過ぎる精神(メンタル)を、隠忍いんにん自重じちょうするのに、四苦八苦していた。


卒爾そつじながら、ブライアン軍曹!敵軍の最前線の傭兵部隊は隊伍をほぼ、組み終えたようです。戦旗もひるがえさせ、軍楽隊もほぼ、整列する模様、戦鼓せんこが鳴り響き次第、我が砦に殺到してくるでしょう!!」


 物見櫓の衛兵からの注進である。遠眼鏡とおめがねで視認したのであろう。


「早まるな。投石器も確認できたのだ。射程にはもう届いている。エリオス中佐の事だ。その前に必ず嚆矢こうしを射かけてくる。それを、看過かんかするな。あの人の忠勇ちゅうゆうさは、俺は良く知っている。糞律儀くそりちぎな軍人だ。それが、宣戦の合図だ。」


「・・・ついに、開戦するのですね・・!大業たいぎょう左袒さたん(味方)の丹心たんしんを誓います!」


「さあ、各部隊に、伝えよ。宣戦の詔勅しょうちょく煥発かんぱつされた。尽瘁じんすい(労苦をかえりみず全力を尽くして)して抗戦せよ!・・と!!」


 付近の伝令、数名が一目散に命令伝達の為に走り去っていった。


 それを、聞いていたのかグレコは船をぐのは止めていた。


 勿論。詔勅など出まかせだ。ブライアンが下命として出しただけだ。だが、僭主せんしゅらしい事だといえば、そうかもしれない。


 スクワイア監獄攻防戦の輸贏しゅえい(勝負)は如何いかに。




 


 






























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