第34話

34



 薄暗い広間の、玉座でブライアンはうめいていた。先ほど、副作用止めの粉薬を飲んだばかりだった。が・・・。


(血をほっしている・・・!俺は・・・!どうしようもなく!!しかし、落ち着け!!天候も悪く、糧秣りょうまつの備蓄、兵站へいたんの確保、輜重しちょうの関連、物見ものみの帰還、・・・一軍の将として、やらなければならぬこと、考えねばならぬこと、山積している・・・!!)


 現在は人払ひとばらいしており、広間にはグレコ大佐以外は誰も居ない。


 ここにエリオス中佐が居れば・・・と、一瞬、頭をよぎったが、すぐに自虐的じぎゃくな笑みを浮かべ、震えるように、まぶたを閉じた。


 無論、現在はてき同士である。


 ただ、まずエリオスはこの戦の陣頭指揮をるだろうと、元・陸軍軍曹は予想していた。常に最前線で勇戦ゆうせん敢闘かんとうし続けた 、部隊の反乱である。当然、責任を取らされて(と、いっても完全な無茶ぶりだが)元・斬り込み隊の上官が当たる事は,、当たり前なのだ。


(さて、中佐はどういう戦術で来るか・・・。)

これからを、どう考えるかだ・・・!過去の事は済んだことだ、今、目の前のことに集中するのだ!


(今はかく、フェルナンデスという悪漢あっかんをいかに討滅とうめつするかを、考えろ!!)


 自分に懸命に言い聞かせた。ふと、大佐の方に目をやった。


 巨躯きょくを、壁にひっつかせながら船をいでいた。


 なんというか、忘我ぼうがの境地に達してしまった、人物は聖賢せいけんの精神レベルまで来てしまっているのだろうか?と・・ふとひらめいた。


 死屍累々ししるいるいの地獄絵図と化した、金甌無欠きんおうむけつとりでには似つかわしくない、可愛らしいくらいに牧歌的な、一幅いっぷくの淡彩画を見ているようだった。


はばかりながら!ブライアン軍曹殿!斥候せっこうに出してた者が帰還しました!」


 正面の大門扉だいもんぴからノックの次に叫び声が聞こえてきた。


「良し。通せ。」


 三人ほどのびしょ濡れの平服の男たちが、神妙しんみょうな足取りで、接近してきた。何か覇気はきが無いように感じられるのは、気のせいか?


「敵の情勢はどうだった?」


「・・・国道の街道を南下し、敵の総大将はエリオス中佐、前鋒ぜんぽうが約500名、中堅も500名程後衛は、遠くて視認できませんでしたが、恐らく数百。右翼、左翼も恐らくは500名ほどでしょう。ゆえに、1個聯隊いっこれんたいの兵力と思われます・・・。軍馬ぐんばは300頭ほど、騎兵は歩兵の10分の1くらい、投石器が20両ほど、魔薬異能力者は不明です。」


「・・・ふむ、他には?」


「・・・他には?と申されますと?」


「おそらく、公国の正規軍の前に傭兵部隊ようへいぶたいが来ると思っていたんだが・・・。」


「・・・ああ、あの連中の事ですかね。なんかマトモな装備もままならないような連中が堵列とれつした正規兵の横に寄生虫のように引っ付いていました。民間の義勇兵か野次馬か何かだと思ってました。」


「その連中の数は?」


「あーえー・・、そもそも正規軍だとは思ってなかったんで・・。まあ、数十から、数百は居たんじゃないでしょうかね・・。でもほかの部隊のように500は居なかったですね。」


「よし、まあ、仕方ない。間を取って2,300って所だろう・・。」


「・・・しかし、ブライアン軍曹殿、2個小隊で1個聯隊いっこれんたいに勝てるのでしょうか?」


「大丈夫。どうにかするさ。絶対に。」


 未来の僭主せんしゅは無理に微笑んだ。


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