第33話

33


「雨風が強くなってきたな、風邪を引く兵士が少なければいいんだが。」


「ああ、まったく記念すべき初陣ういじんに似つかわしく、最高に良い天気ですなァ、旦那だんなァ・・・。」


「おい・・。」


「冗談、冗談だってばぁ、ジェームス!こういう最悪な時節だから、冗談を言うんだよ。順調に物事が進んでる時は、言う必要は無いんっだって。ばかばかしい方が、明るい雰囲気ふんいきができるだろう?」


「もう、良い・・。お前のらない口をもっと何かにかせねえかな・・・。」


「そう、口は減るもんじゃないから、いくらでも冗談を言えば良いんだよ!」


「おい、そこ!!私語はつつしめ!!」


「すみません!!失礼致しました!!」


(なにやってんだ、馬鹿!!)


(ちょっと、調子に乗りすぎたな・・。)


 トムは少し反省した、がジェームスもこの男と、ビルとは管鮑かんぽうまじわりを一生継続するだろう、と思いをせた。


 この白皙はくせき剽軽者ひょうきんものは後ろ向きの思考を母親の胎内たいないに置き忘れてきたような、不思議な所が有り、百叩きに有っても死にそうにない、図図ずうずうしさは軍人としては、生得しょうとくの宝物かも知れないと、この一諾千金いちだくせんきんの快男児は思いを巡らせた。


 これから、どのくらいこのような、修羅場を味わうのだろうか、そしてどの戦場でおのれの命を、投擲させるか・・・。


 豪壮果断ごうそうかだんだと信じていた自分は、存外に憶病なのかもしれない・・。ジェームスは切れれ上がった耳朶じだを揺るがせながら、前へ進む。


 それでもこの反乱鎮圧軍の行軍は粛々しゅくしゅくと続く。


 先に赫奕かくやくたる武勲が有ると信じて。

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