第30話

30


「遅いなア、何やってんだろ・・。あの二人・・。」


街道沿いの河川の雑木林のにれの樹に、背をもたれ掛け、左手でおとがいを支え、右脚をつっかえ棒ようにし、躰をくの字に曲げている、女用心棒は、一人ごちた。


 無論、アイバァである。


 「まあ、大の方っぽいから、もう少し待っても不思議ではないか・・・?」


50フィートほど向こうの岩陰でエピが用を足しにいき、フェーデも付き添う感じで行った。

 

 最初は彼女も用心棒の、仕事からもっと近くで護衛すると、発言したのだがエピが無駄に高い、自尊心じそんしん羞恥心しゅうちしんを発揮して、断ったのだ。


 ダダダダダ!


須臾しゅゆの間にアイバァの側面を高嶺颪たかねおろしのように、疾駆していく粕毛かすげの馬が横切って行った。


「むぐうううーーーーーーだずずげえええーーーーー―!!!(ねえちゃーーーーん!!!!助けて!!!)」


その馬に背に一人大人の男と猿轡さるぐつわをされ、全身を縄で縛られたエピの姿が有った。


「どうしたの!?エピ!!?何が有ったの!!??」


 その言葉の追走すら振り切るように、驕児きょうじかどわかされていってしまった。


 すぐさま、二人が雪隠せっちん代わりに使った岩陰まで、八重葎やえむぐらき分けて行くと、エピと同じ姿にされた、フェーデを発見し、彼の箝口かんこうされた縄と後ろ手にされた縄を、女剣士はほどくと、「ちょっと、一体何が有ったの?」と青年に訊問じんもんした。


「いや、いきなり出てきた、男に山刀さんとうを向けられて、大声出したら殺すぞ、静かにしていたら活かしてやる、って言われて何も出来なかったんだ。でも秘密警察じゃないと思うな・・。」


「ええ、秘密警察じゃないわ・・って言うか、あの男は確かマンソンの部下の・・・。」


「え!!???じゃあ、知ってるのかよアイバァ、あの男の事を・・・」


「ええ。数年前に鼠賊そぞくで、賞金首として、マンソンっていう奴が居てその、右腕として働いていた男よ。でも、たしか今マンソンは服役が終わって灰猫傭兵団の団長をやってるはずなんだけど・・。」


「傭兵団の団長・・?」


「・・・あ。分かったわ!きっと、軍からの命令を受けて、スクワイア監獄に出兵したのよ!・・とすると・・。」


「まさか・・・・。」


「そのまさかよ・・・。だって、異常な雰囲気だったもん。あの監獄の大手門おおてもん。兎に角、エピを捜しにスクワイア監獄まで戻るしかないわね。当然あんたもよ。」


「しょうがないよな、厳しい選択だけど。」


 女用心棒は内攻ないこうが凄まじかった。自身の不甲斐無さ、誇負こふが彼女の微衷びちゅうを地獄の業火のように、焼き尽くしている。あまりに今回の失策は慙愧ざんきえない・・・。


(雨よ、もっと降れ・・・。もっと降って・・・、)


 と、胸中で祈念きねんした。私の憤懣ふんまんやるせない熾火おきびを鎮火してくれ、と


幸い、雨足は加速する一方だ。


彼女の念慮ねんりょは叶うだろう。

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