第29話

29


 スクワイア監獄の食堂にグレコ大佐指揮下(といっても、名目上のみ)の将卒が蝟集いしゅうしている。

 

 事実上の首謀者しゅぼうしゃは当然、ブライアン軍曹だが。


 食堂はアーチ状のホールになっており、天井が高く、6フィート1インチ(約185センチ)の軍曹はもとより、6フィート10インチ(約208センチ)のグレコ大佐の頭頂部まで、すっぽりとおおえる。

 

 開戦前に雨に打たれ体温が下がり、体力をいたずらに消耗するのも賢くないので、本来ならば先ほどの中庭でやろうとしていた、蹶起集会けっきしゅうかいをここでやることに変更したのだ。(ちなみに広間では暗すぎる為、無理だと判断した。)

 ただ。三百名全員は入りきれないので、各将校(これも勝手に自称している)

に、出席してもらっている。


 中央の壇上だんじょうにブライアンが歩を進める。廊下側の出入口付近の壁にどっしりと、大佐が腰を掛けている。少壮しょうそうの軍曹が樹齢何百年と言う貫禄かんろくならば、中年の大佐の方は、樹齢何千年の金看板きんかんばんである。


 「皆の者、よく聞け!!!オーヴィル公国は地に落ちた!!!かつてこの大陸を支配し、

肇国ちょうこくの英雄」と呼ばれたレオ・フェンダーの什器蔵じゅうきぐらの役割を、果たしたとされる、「オーヴィルの魔術師」はもはや、数万年前に絶滅し、後裔的存在こうえいてきそんざいの魔薬も、副作用が深刻で社会問題となって居るのは、周知の事実である!」


 「おおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


会場が燎原りょうげんの火が広がるがごとく、盛り上がる。


 「諸君!!我々は決して烏合うごうしゅうではない!五年前の大陸大戦のとき、我々は何のために戦ったか? 自分の為?家族の為?公国の為?」

 

 ブライアンは疑問符を聴衆ちょうしゅうに投げかける。


「・・・自分は、少なくとも自分は、公国の為に干戈を交えたのだ!屋烏おくうあいとも呼べる、動機で、公国に身を捧げたがそのあとに残ったものはなんだ?副作用で理性を喪失した魔薬異能力者、暗愚あんぐ怯懦きょうだな文官、守銭奴しゅぜんどの貴族、そして身勝手なだけの公国国民!」


 「そうだ!!そうだ!!そうだ!!!そうだ!!そうだ!!」


「・・・なるほど、確かにエリオス中佐のように骨の有る人物も、中には居る・・・。だがそれはほんの九牛きゅうぎゅう一毛いちもうだ!!!」


「おおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」


「公国軍の上層部はほとんどは、ひげちりを払うだけの、腰抜けばかりだー!」


 「そうだ!!!そうだ!!!そうだ!!!」


 「我々の第一目標はこのブラック・タートル領主のフェルナンデスだ!この賊徒ぞくとは、軍事産業を牛耳ぎゅうじり、私腹を肥やす事だけを考え、それを社会に還元しようとしない!!

そのくせ、オーヴィル公に伺候しこうする時は、領民を綏寧すいねいする発言に終始する、奸譎かんけつな偽善者だ!!!この、男の九族きゅうぞくまでを、鏖殺おうさつする!」


 「おおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ときのような、この日一番の歓声であった!!!


 これから僭主せんしゅになるであろう男は、壇上で右手の拳を、突き上げ、穹窿きゅうりゅうを突き抜け北辰(北極星)まで、届くかのごとき覇気はきであり、水平方面には率土そつどの果てまで届くかの様であった。

 

 まさにブライアン軍曹、一世一代の抜山蓋世ばつざんがいせいの演説であった。


かつての中年将校も横で、微笑んだように見えた。


天空は暗転し、スコールが来るだろう。


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