第23話

23


 エリオスは腕を組み天井を仰ぎ、長髪が豪奢ごうしゃ椅子いすから、項垂うなだれている。上にした右前腕の人差し指で、左の上膊部じょうはくぶを、トントンと叩く。


彼が懊悩おうのうしてる時のくせの仕草である。


(何か良いアイディアは無いか・・・?)

 

 次に間が持たないので、一番近くの出窓でまど迄赴までおもむき、参謀本部の外の風光ふうこうを眺めながら、思案を続けようと、その方向を目に入れた瞬間、真後ろからコツ、コツと乾いた音がした。


覚えのある一兵卒いっぺいそつの声がした。


 「僉議中せんぎちゅう、失礼致します。エリオス中佐殿、中央から派遣された実業家の方で、中佐にご要件が有ると言う者が、現れたのですが!どういたしましょう!?」


これには流石のエリオスもはらわたが煮えくり返った。


「ふざけるな!今、どういう状況か分かっているのか!?引き取ってもらえ!」


 端正な木彫もくちょうのドア越しに叫ぶ。


もう一人の兵士が口を開いた。


「いや、それがですね、奇妙な事に、詔書しょうしょを、持っておられるんですよ。」


「・・・な・・?誠か・・?良し、仕方無い・・通せ。」


「はっ。了解致しました。」


 ガチャ・・・。ギィ――――ツ・・。

身長は5フィート9インチ(約175センチ強)ほど、年齢は不惑ふわくを過ぎて2,3年くらいだろう。


 右目を眼帯で覆い、シルクハットの突端とったんを右手で持ち、胸に当て、全身を濃紺のスーツでまとった紳士が、エリオスに会釈えしゃくをしてきた。


「お久しぶりです。エリオス中佐殿。壮健そうでなりよりで御座います。」


「・・あ・・、貴方は・・・お、お久しぶりで・・。・・お元気でしたか?」


「はい。お陰様で。しかし、ここでは・・・。」


「そ・・そうですね。・・別室で・・・お、お話ししましょう・・・。」


 エリオスと不惑過ふわくすぎの紳士は、久闊きゅうかつじょしているようだが、何故か不自然のように二人の公国陸軍兵士の両眼には映った。


 実業家を名乗る紳士は会議室とは真逆の方向に、悠然ゆうぜんと歩を進めていき、しばし、間が空き公国陸軍中佐は、引っ張られよう歩き始めた。

そして10歩ほど歩いたころに、急に振り返り、


「アンダーソン二等兵、タイラー二等兵、このことは他言無用だぞ!」

くぎを刺した。


「は!取り次ぎは我々二人しかしておりませんので、ご懸念けねん無く!」


瞬時にトムとジェームスは、直立不動ちょくりつふどうとなり、敬礼し点頭てんとうした。二人の壮年が40ヤード(約37メートル)程先の、廊下を右折したのを、確認するとトムが切り出した。


「なんかエリオス中佐、やたら動揺どうようしてなかったか?」


「ああ、俺もそう思った。外柔内剛がいじゅうないごうの中佐らしくねえな・・・。」


「でも、何で他言無用たどんむようなんだろうな?」


「さあな、またどうせ軍機ぐんき(軍事機密)だろうな・・。とにかく持ち場に戻るぞ。


「また軍機、軍機、軍機。オーヴィル公国軍人は秘密が大好きですねぇー・・。」


「ふざけてねえで、仕事に戻るぞ!」

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