第21話

21


 なんとかフェルナンデス伯爵はくしゃくは馬車を飛ばし、陸軍参謀本部りくぐんさんぼうほんぶに着到したが、

 

 会議室の円卓で議論は、紛糾ふんきゅうしていた。


「戦力は、こちらが圧倒的に有利。時間を掛けて押し潰せば良いだけでしょう。エリオス中佐殿。」


「確かに、金城鉄壁きんじょうてっぺき堅牢けんろうさを誇った、難攻不落のとりでといっても、それは過去の話。今は老朽化もはなはだしく、衆寡敵しゅうかてきせずで、攻落こうらくする事は時間の問題だと勘案かんあんしますが・・・。」



「ならば、話は単純明快。攻城戦の定石通り、補給路を断ち、増援部隊に留意りゅういし、間諜かんちょうらをあぶり出せば、一件落着と相成りましょう。ブライアンは一兵卒としては、有能だったかも知れないが、名軍師というワケでは無いだろうし・・・。」

エリオスは頬杖ほおづえをつき、大きな深呼吸を一回した。


「・・・そもそも、今回の事件は何故起こったと、思われます?フェルナンデス伯爵?」

自分より若干、年少の佐官の目尻が、野禽やきんの様に切れ上がった。


「・・・何故って・・・、そのブライアンとかいう下士官が、乱心して・・・。」

対面している,将校は小さく首を横に振りながら顔に手をやった。明らかに幻滅げんめつしている。


「・・・単刀直入に、申し上げます、フェルナンデス伯爵。ブライアンは魔薬異能力者です。」


「な!・・・誠か!」


「・・・伯爵、もう中央の方に真剣に、申し開きして下さいませ。これ以上の内輪もめは、公国の武力を疲弊ひへいさせる一方ですし、こういう内訌ないこうを他国が利用したら・・・、国家転覆こっかてんぷくの憂き目にあう、可能性もなきにしもあらずです。」

職業軍人と辺境の有徳人うとくじんは、汗顔している。


「・・・確かにブライアンの乱心と言えば乱心です・・・。しかし・・・、その遠因えんいんは間違いなく、魔薬ですよね・・・。ブライアン個人の責任にして良いかは、微妙な筈ですね・・・。」


「 しかし、その男は、監獄など、占拠せんきょして何をたくらんでいるのだ?」

又、話をらされたと、エリオスは忸怩じくじたる思いである。


「・・・目的はハッキリしていますよ。彼と小官のかつての上官を解放して、領主様をち果たす所存の筈です、」


「な!なんと!この私を・・・討つだと!!!」

怯懦きょうだ分限者ぶげんしゃの顔色が、みるみる青くなっていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る