第20話

20


「なるほど!では、・・・我々の部隊は要するに中堅の後詰ごづめを、担当すれば良いのだな!」


「はい!その通りであると思われます!」

 ビルは最後の伝令を、終えた。


「では自分は持ち場に戻ります。」と、壮漢そうかん部将ぶしょうに上告し、すかさず乗馬し、陸軍参謀本部に戻る。


 空を見上げると、雨雲が折り重なっており、圧迫してくるようだ。


(嫌な、雲行きだな・・・。この状況も、文字通り・・・風雲急を告げている・・・かのようだ・・・。)


 眉間に、しわが寄り、彼の顔色までがどんよりと、くもった。


(・・・しかし、俺なんかが、出来る事などたかが、知れている・・・。気を取り直して、さあ仕事!仕事!)


 そう思い直すと、自ら発破はっぱを掛けるように両手で、両頬りょうほほを叩くと同時に、感覚がほぼ皆無となった脚で、馬腹を蹴った。

 

 街道を、疾駆しっくし、3マイル(約4.8キロ)程到達した所で、人影が眼に入った。

まだ、ブライアンの謀反むほんの事件は、軍機なので、詳細は言えないが民間人を、監獄に近づけない様に、命令されていた。


「あの、すみませんが、そちらの方角には、行かない方が安全です!」


 いきなり、全力疾走してきた悍馬かんばまたがった兵隊が、出て来た途端大声で注意喚起ちゅういかんきうながしたのだから、彼等はひどく驚いた。


「うわぁ!吃驚びっくりしたあ!なんだよ!兄ちゃん!いきなり出て来て!」

突っ慳貪つっけんどんに、幼少の、男児に反駁はんばくされる。


(生意気そうな、子だな・・・!俺は、この子の隣の若い男女に向かって言ってるのだが・・・。)

たまらず、小さな溜息が出る。


 「あの、その甲冑かっちゅう、公国軍人の方ですよね?さっき、あっちの方角から、凄い煙があがったりして、物物ものものしい、人間の声なんかも聞こえてきた、様な気がするんですが・・・。」


 「ええ・・・、兎に角、スクワイア監獄で、不測の事態が起こってます。軍事機密により、詳しくは申し上げられませんが・・・。」

 ビルは恐懼きょうくしながら、答えた。


 沈鬱ちんうつな空気が、周囲を取り巻いたが、ビルはこれ以上、油を売るわけにもいかない。


「・・・お気遣い、痛み入ります。では、気をつけて。」

 

やや小柄な青年が慇懃いんぎんな、態度で応じた。


「では、小職しょうしょくはこれで、失礼します!」


 軍人らしい、勇ましい声を張り上げ、金髪の若武者は参謀本部に向かい、駆けて行った。


「・・・でもねえ・・・。」


「ああ・・・でもな・・・。」


「そうだよね・・・。」


「どうしようも、ないのよね・・・。」


「あの辺りが、一番良い獲物がれるからね・・・。」


「じゃあ、結局、今日も行くか?アイバァ?」


「まあ、仕方無いわよね、今の我々の生命線だからね。ああ、言われても。」


「多少、危険でも姉ちゃんは強いし!大丈夫だよね!」


 三人は、青年軍人の折角せっかくの忠告を、無視するしか方法が残されて居なかった。


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