第19話

そこに、二人の若い、軍人がおどり込んできた。


はばかりながら、注進であります!エリオス中佐殿が御着到致しました。」

もう一人の口からも、続けて言葉が飛び出る。


「フェルナンデス伯爵殿は、心身に支障をきたし、自宅で療養したのち、せ参じるとの事であります!」


「なんと!・・・不甲斐ふがいない!!領主がこれでは・・・。」

当然、批判がくる。この一大事に、なんたる有様か。


 二人の若い軍人は、敬礼をしたのち、では、我々は持ち場に戻りますと、全員に告げ、廊下に、早足で出た。


 「全く、ジェームス。エラい事になったな!」


 「ああ、トム。本当だ。こんな事、予想の範疇はんちゅうを超えている。」

幾人もの、軍人、軍属が、廊下ですれちがう。みな、表情に緊張が強い。


「今日は,物凄い長い、一日になりそうだ。」


 戦争屋になるとき、命はいつでも、なげうつ、鉄腸てっちょうだったが、やはり、いざ有事となると、勝手が違うようだ。


「ビルの野郎、今頃、何やってるかな?」


「あいつは、今更、馬で駆け回ってるだろうさ!俺達と違って、馬術が達者だからな!さあ俺達も仕事!仕事!」


 二人は出窓から、地平まで続く、原野を眺め、同胞の身を案じた。


19


 まだ、朝方だがここだけは、いつも漆黒の闇である。

二人の獄卒ごくそつから、専用の鍵を、劫掠こうりゃくしたブライアンは、複雑な形の鍵を手首に絡めている。


 もう片方の手には、松明たいまつを前方にかざしている。

 める雰囲気はこれから、起こるであろう凄惨せいさんな情景を、期待していないが如く、泰然としている。

 

相変わらず、独特で不可解な異臭がし、永久に時が止まったような、錯覚を覚える空間を完全なる沈黙が、支配権を強権的きょうけんてきに行使しているようだ。


 前回はエリオスと二人で開けたが、今回は一人で開ける。

鋼鉄の大門扉だいもんぴなので、かなりの、力仕事なのだが、魔薬異能力、発動中の彼なら、小指一本でも、押し広げられる。

ギギギィィ・・・! ガチャアーーーン!!!


前回と同じく、眼の前に巨大な空間が現れた。

 光源は手にしている、炬火きょかと壁に、複雑な鳳凰ほうおう意匠いしょうの彫刻が施されている、篝火かがりびのみ、である。

 ひときわ、巨大な座敷牢ざしきろうのなかに、ある生物が、生息しているようだ。


「グルルル・・・。グルル・・・。」


ブライアンは敬礼をし、五秒間その体勢を維持したのち、珍しく相好そうごうを崩して、微笑み、優しい口調で切り出した。


「グレコ・ローマン大佐殿。もう、こんな最悪な環境から、出して差し上げますね。いままで、お辛かったでしょう。」


「グル??・・・ググゥゥ・・・!」


「これから、すぐに、眼前の土地が戦地と、なります。まず、このスクワイア監獄を占領せんりょうしましたので、ここを、根拠地とします。」


「グウウ・・・!」


「そして、ブラックタートル中央都市、のフェルナンデス伯の邸宅を襲い、彼を討ちます。」


「グルルゥゥ!!・・・ゥウウウ!」


「(赤銅しゃくどう魔獣まじゅう)と渾名あだなされた、斬り込み隊の最後の勇姿を、無能な官僚、閣僚に見せつけましょう!」


「グルゥウウウ・・・!!!」


 ブライアンは鍵穴に奇妙な形の鍵を、突き刺し、時計回りに回した。


 ガチャン!!!

  

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