第10話

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 空は何処どこまでも晴れ渡っている。雲一つ無い。快晴かいせいといって良いだろう。

 

 「いやぁ、こんな事って有るんだねぇ。・・・しかし・・・お兄ちゃん、もっと注意して歩いた方が良いんじゃない?命の恩人に恩をあだで返すなんてさ。それに比べて白金の騎士様は格好かっこう良かったなぁ!いつか、おれもああいう風になるんだ!!」


 エピは上から目線で、フェーデに話かけている。丁度ちょうど生意気盛なまいきざかりなのだから、仕方が無いのだろう。勿論、白金の騎士の正体は秘密である。

 

しかし、その様子を見ているアイバァは、内心、苦笑にがわらいが止まらない。無論むろん、フェーデの命の恩人と思っている、エピの命の恩人が自分なのだからだ・・・。


 「まったく、その通りだね。もっと気をつけて歩かないとね。」フェーデはがえんじた。


 「そうよ。そのうち、犬も歩けばぼうに当たる、フェーデも歩けば因縁いんねんをつけられる・・・なんて、落首らくしゅまれるわよ。」


 「いちいち、五月蠅うるさいな!!だいたい君が、この店の甘酒は格別だから、普通の店と比べて飲んでみろ・・・とか言うからだろうが!!・・・・そもそも、今日は昨日、連れて来れなかった友人を、連れてくるはずだったんだろ!!その事自体、を忘れてノコノコやって来た、君はなんなんだよ!!」


 まったく間抜けな話であるが事実であった。剽盗ひょうとう土匪どひの賞金首を、熟柿首じゅくしくびの様にしか見えない三界火宅さんがいかたく職能しょくのうく、この娘は、自由業独特の野放図のほうずさが有り、普通の肉体労働で、血税けつぜいを支払う若者には、理解不能におちいる事がかなり有る。


「まぁまぁ、落ち着いて。ジョークよ。ジョーク。・・・少しは冗談が通じる様になって来たと思ったんだけどなぁ・・・。」


その2人のやりとりに対し、疑惑の眼差しをしながら、エピが口を開けた。


「まあ、キャベツの事は弁償べんしょうしてくれたから、良いけど・・・、お兄ちゃんとお姉ちゃんどういう関係?」


戦友せんゆうよ!!共に何度も何度も死線しせんくぐった!!」

 間髪かんぱつ入れずにアイバァが返答する。


「軽く聞き流してくれ、エピ。また、たちの悪い冗談だ。・・・って言うか完璧かんぺきにでっち上げられたうそだ。この人のお陰で今日も予定が無茶苦茶だ。昨日の天気よりひどい。ハッキリ言って。」

 

 フェーデが白い眼でアイバァをにらむ。


「ふーん。・・・2人とも仲が良いんだね。」


「なんでそーなる(んだ)(の)よ!!!!!」


「いやぁ、持つべき物は友よねぇ!やっぱり!」


「おい!!何、勝手に話し進めてるんだよ!!迷惑だ!!」フェーデが語気を荒げる。


「あははは・・・本当に単純よねぇ!」アイバァは思う。


 しかし・・この他愛たあいの無い雑談だが・・・この若者の内面には、自若じじゃくとした何かが、有るような気がしてならない。


  この若年の女戦士は本能的に何かを、ぎ取ろうとしていた。それが、フェーデの事に興味や関心を持つ、根元の様な物かも知れないのだが・・・どうしてだろうか・・・?。


「そういやあ、エピ、君は家には戻らなくて、良いのかい?」

 

「うん、今日はおじさんが出張で帰りが遅くなるし、おばさんも教会の集会に行ってるから、家に帰っても一人なんだよ。」

 

「なるほどね。独りぼっちは淋しいわよね。」この大陸を縦横無尽に踏破とうはした、アイバァは孤独の厳しさは身にみている。


 「・・・ところで、俺達はあんたの友人の所に向かってるんだよなあ?」少し前から気になっていた事を、話柄わへいが暗くなりそうになったので、フェーデがアイバァにたずねた。


 「もう見えて来る筈よ・・・ほら!!・・・あれ!!あの建物!!」


 「あれって・・・」古めかしい厩舎きゅうしゃの様である。アイバァの友人とは、馬子か何かなのだろうか?

  

 平原の中の畦道あぜみちに切り立った断崖だんがいがあり、その横に今にも崩れ落ちそうなあばら屋のような、厩舎があった。

 

 近づくにつれ、それと分かる。馬の屎尿しにょうの悪臭、しくは異臭ともいうべき臭気が3人の鼻孔びこうから、百会ひゃくえ頭頂部とうちょうぶ経穴けいけつ)に貫徹かんてつするようである。

 

「うわぁ・・・凄いニオイ・・・。」エピが苦言をていする。


 「あはは・・・慣れれば大丈夫なんだけどね。それまでは結構、きついわよね・・・。」


 「・・・で、君の友達はどこだい?」その廃屋はいおくのような厩舎の中には馬が5頭程、びた鎖でつながれているだけである。誰も居ないのである。


 「馬丁ばちょうか何かなんだろ?その人は。今、丁度ちょうど仕事で外出中なのかな・・・?」フェーデがひとちるように、呟いた。

 

「・・・いや、目の前に居るわよ。」


 「えっ!?どこ!?どこ!?」エピが首を何度も横に動かす。しかし、何処にも人影は見つからない。

 

 フェーデがしびれを切らし始め、ややいらついたように、


「おい!!まさか!!また冗談だ・・・なんてオチじゃないだろうな!!」


 とアイバァに向かってえるように、かってきた。


 「じゃーん!!この子がその友達でーす。」とおどけてアイバァが紹介しょうかいし、かざした右手の先には・・・。

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