第3話


栗色のショートカットに、エメラルドグリーンの瞳。深紅しんく鉢巻はちまきをして、若い娘らしく活発で明朗な性格。諸刃もろはの二本の短剣を腰の裏側で交差させ、差料さしりょうとしてる様だ。あの白金の騎士の威風堂々いふうどうどうとした重厚じゅうこうさは全く無い。軽装備の時と白金の鎧兜よろいかぶとまとった時は性格まで180度変わるらしい。


 若者は午前の職務中であった。人力車に配送先の積み荷を積んでいる所だ。そこにアイバァがおとずれてきたのだ。


「こんにちはーフェーデ君!」


「俺の名前はいつからフェーデになったんだ。」


「でも、名無しの権平ごんべえとかジョン・スミスとかじゃあね・・・。」


「・・・って言うか仕事中に尋ねてくるな。非常識だろうが。せいぜいこの前みたに昼休みにすべきだろう。こっちは忙しいんだよ。」


「あー・・・もーう、命の恩人になんて口の利き方するんだろねえーこの男はまったく・・・」


流石さすがに若者は二の句がげず、押し黙ってしまった。


「それに今日はお目出度めでたい事も有るんだよ!。」


「なんだよ・・・。お目出度い事って・・・。」


「なーんと!!今日は君のお給料日なのです!!」


「なんだそんなことか・・・。」


「ちょっと!!なによ!!その言い方!!」


「違うよ。俺、日雇ひやといだから、毎日給料日なんだよ。」


「あ、いや、ごめん、そう言う事じゃあなくてね・・・。運送屋さんからではなくてね、私から君にあげる給料なのよ。」


「いきなり何言いやがんだ。俺はいつあんたの部下になって仕事をした?気味が悪いことを言うなよ。」


「本当にあんたって冗談通じないわよね・・・。まあ、いいわ。今から説明して上げるから。」


っと言うとアイバァは説明を始めた。まず、この公国内には、秘密警察ひみつけいさつ的な組織がある事。そして、その広汎こうはんな情報網にあのブライアン軍曹との奇禍きか露見ろけんしていた事。それを関知され、庶民の助勢じょせいに入ったアイバァが報奨金ほうしょうきんを貰ったという事。


そもそも白金の騎士は群盗ぐんとう土冠どこうを狩る事を職能しょくのうとした賞金稼ぎなので、命懸いのちがけの稼業かぎょうゆえに報酬ほうしゅうは良いこと。


「まあ、秘密警察の存在の是非ぜひはともかく、失礼かもしれないけど、あんたお世辞せじにも裕福な生活してないでしょ。これでたまには美味しいものでも食べたら良いんじゃない?」


アイバァが差し出した金額はこの国の貨幣価値かへいかちで10万テスコ。若者の十日分の給与に当たる。


「・・・。悪いけどこれは受け取れない。俺はもう誰にも迷惑めいわくけたくないんだ・・・。、じゃあ、これから配達しなきゃならないから、今日はもうこれで。」


「うん・・・。分かったわ・・・。でも最後に命の恩人として我がわがままを聞いて。」


「なんだい。お手柔てやわらかに・・・あと、手短かに頼むよ。」若者はなか面倒めんどうになっていた。


「君の名前・・・、いや、ニックネームでも良いからフェーデ君って呼んじゃ駄目?」


「ああ、良いよ。好きにしてくれ。」若者は不承不承ふしょうぶしょううべなった。







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