第221話 宝箱

「やったか?」


ダイさんが歓喜の叫びを上げる。

確かに普通の生き物ならお腹にあれだけ大きな穴があけば生きてはいられない。


「まだよ。まだ生きてる」


あたしのマナセンスには反応を弱めてはいるものの、間違いなくアラクネの反応が残っている。

あたしの言葉に瑶さんが一瞬聖剣に手を伸ばし、首を振って聖剣から手を離した。


あたしも聖剣を使わない事に賛成。聖剣はこういった閉鎖空間で使うには強すぎるもの。そうでなくても、脱出のためにどんな条件があるのかわからない。聖剣の強すぎる威力で脱出のためのギミックを壊してしまったら元も子もなくなる。


それでも、瑶さんは愛用の長剣を振るう。ダイさんも守りより攻撃にシフトして剣を打ち付けている。マルティナさんも距離をとらず槍で突いている。ナミも長剣を大きく振るう。


「ユキ、あたし達もやるわよ。アラクネがダメージで蹲っているから、わかっているわよね」


あたしとユキも一瞬顔を見合わせ、魔力を練り上げる。


「一気に決めるわ。回復の時間なんか与えない。ホーリーレイ」

「わたしだってやる。ホーリージャベリン」


あたしとユキが放った聖属性魔法が皆をすり抜けてアラクネに突き刺さる。


「・・・・・・!!!!」


アラクネが声にならない悲鳴を上げ反り返った。あたしとユキをその目に映すと、完全にあたし達2人をターゲットにしたみたいね。でも、糸を放つ両手を失ったアラクネは、その位置からあたし達に攻撃を届かせることは出来ないわ。


「!!」


そんな油断したあたし達に、アラクネがあろうことか自分の残った前脚の1本を飛ばしてきた。

でも、残念ね。あたしは短剣を振るい飛ばしてきたその前脚を打ち払う。

それを見たアラクネがまるで絶望した人のような表情を見せ、そのまま崩れ落ちた。

サラサラと粉になりアラクネが消えていく。


「さすがに、終わりよね」

「朝未、それフラグよ。ボス2連戦だったらどうするのよ。って朝未、ほっぺに傷が、今のアラクネの脚が掠ったんじゃないの?あれには毒が……」


あたしの顔を見てユキが慌てだしている。それにしてもリフレクをかいくぐってあたしに傷を付けるってどういうことかしら。

そんな事を考えながら一歩足を踏み出したところで”コトリ”とブレストプレートに引っかかっていた何か小さい物が落ちた。


「なるほどね、大きな脚はフェイクだったみたいね。まさかこんな小さな棘を一緒に打ち出していたとはね」

「朝未、落ち着いている場合じゃないでしょ。早く毒消しの魔法を」

「ユキ、大丈夫よ。あたしに毒は効かないわ。さっき言ったでしょ」

「で、でも傷も」


ユキの指摘に右の頬を右手の甲でこすると、僅かに血がついてきた。


「傷ね、ヒール。これで大丈夫。さあ、みんなのところに行こう」


あたしは手を伸ばしユキの手を取った。



「何も起きないわね」


アラクネを斃したのに、何も起きない。それでも一応残っているアラクネの魔石は拾っておく。

みんなが困惑の表情に変わったその時。


「ガラガラ……」


アラクネが背にしていた壁が壊れた。


「また、新しい部屋だね」


瑶さんがみんなを抑えながら壁の向こうをうかがっている。

またダイさんに突撃されても困るものね。


「瑶さん。何かありますか?」

「宝箱と、魔法陣。それと壁に絵が描かれているね」


しばらく待ったけれど、それ以上何も起きる気配がないので、みんなで部屋に移動して、今は宝箱の前に集まっている。


「どうする?」

「いや、宝箱だぜ、開けるに決まってるじゃないか」

「だから、いきなり手を出さないの」


みんなの結論が出ないうちに宝箱を開けようと手を出そうとするダイさんをナミが抑えにまわっている。


「あの、ダイさん。宝箱に罠が掛かっていて、もしダイさんが怪我したり、死んだりしてもあたしが治せるけど、でも宝箱がミミックだったりして食べられちゃったりしたらさすがに無理だからね」

「え?そんなのあるの?」

「いえ、可能性の話よ。もちろん、あたしとしては、ダイさんが漢解除してくれるのなら応援するけど、その場合、みんなを一旦部屋の外に退避させてからにしてね」


もちろんマナセンスで確認しているから、宝箱が魔物じゃないことはわかっている。もちろんマナセンスでは魔力を持つ存在でないことしか分からないのだけど。でも、ダイさんの考え無しのところは何とかしたいわね。


「はい、ダイさんいいわよ」


あたしは言葉通りにみんなを部屋の外に出して、ダイさんに合図をした。


「え?そこまでするほど?むしろこの方が怖いんだけど」

「ダイさん」

「え?何朝未ちゃん」

「大丈夫よ。さっきも言ったけど、ケガしても毒を受けても、死んでも治せるから。あ、ただ、毒ガスの罠だった場合、毒が消えるまで部屋に入れないかもしれないので頑張って生き残ってね。あとさっきも言ったけどミミックに食べられることだけは無いようにね」

「いや、それ死んじゃう奴だよね」

「大丈夫。リザレクションがあるから」

「え?やっぱり俺死ぬの前提なの?」


そろそろ脅しは良いかしらね。


「冗談よ。マナセンスで魔力のある魔物で無い事は確認してあるから。魔物じゃないわ。でも罠は分からないから気をつけてね。それと、はいこれ」


あたしはマジックバッグから竹竿を取り出した。


「これは?」

「竹竿よ。見て分からない?」

「いや、わかるけど、なんでこんなものまで持ってるんだ?」

「オタクを舐めないでね。宝箱があるとなれば準備しておくのは当然でしょ」

「よくわからんけど、わかった」


ダイさんは、あたしの渡した竹竿で宝箱をつつく。

しばらく、悪戦苦闘していたけ”ゴトン”と宝箱の蓋を開けることに成功した。蓋があいた瞬間に”シュッ”と風切り音がしたのはご愛敬ね。


「とりあえず毒ガスではなかったみたいね。中身は何かな」


ユキがさっそく宝箱の中身を確認に動く。

あたしと瑶さんは宝箱を開けた時の風切り音の元をさがしている。


「これかな?」

「これは、針?」

「罠としてなら毒針というのが定番だろうね」


あたしと瑶さんが見つけたのは長さ10センチほどの太めの針。何か液体ぽい物が表面に残っている。


「誰かに傷を付けてみれば効果も分かるんでしょうけど、そんなリスクを冒す必要は無いですよね」


あたしや瑶さんだと毒は無効化しちゃうから分からないのよね。


「それよりも、後は宝箱の中身と壁の絵ですね」



そして宝箱に入っていたものは。


「これはタリスマン?」


メダルに五芒星の刻まれたタリスマンだった。

この世界でも五芒星って刻まれるのね。

一応マナセンスで探ると、何か反応してくるわね。


「効果が分からないから装備するのはちょっと怖いわね。マジックバッグに仕舞っておいて街に帰って魔法道具屋でみてもらいましょう」

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