第220話 アラクネ

新たな魔法陣は輝きを増し、ちょっと直視が辛くなってきた。

そして、しばらくして輝きが収まったのを感じ、そちらに目を向けたあたし達の視線の先にとんでもないものが居た。


「イヤア!!!」


それを見たナミが悲鳴を上げる。


「あれは蜘蛛人間?」


瑶さんが疑問を呟いた。


「アラクネかしらね」

「アラクネでしょう」


あたしとユキが顔を見合わせて頷く。


「多分敵です。戦闘準備を。糸を吹きかけてくる可能性が高いです。絡み取られないよう注意してください。ひょっとしたら毒持ちの可能性もあります。あたしと瑶さん以外は爪や牙での攻撃にも特に注意を。特にユキは少し距離をとって。ダイさんは盾でしっかり守るのを優先。ナミはヒットアンドアウェイを心掛けて」


「え、朝未と瑶さんは毒を気にしないの?」


ユキが驚いているわね。そういえばあたしと瑶さんの毒耐性については話してなかったわね。


「あたしと瑶さんは毒耐性があるから。それと、強さもわからないし一応敵じゃない可能性もちょっとだけあるので様子見を……」

「ガー!!」

「あ、ダイさん……」


あたしが言い切る前にダイさんが突っ込んだ。いきなりシールドバッシュなのは、剣で切り込むよりはマシなのかしらね。

それにしても……。


「まだ補助魔法も掛けてないのに」


あたしは急いで補助魔法を掛けていく。


「グランエクストラプロテクション、グランエクストラシェル、グランブレス、グランアクセル、グランマッシブ……」


物理防御力アップ、魔法防御力アップ、状態異常耐性アップ、速度アップ……、様々な補助魔法をパーティーメンバー全体に拡張して掛ける。


「最後に、グランリフレク。ふぅ間に合った」


これまでなら、ここからあたしも短剣で切り込んだのだけど、今は前衛を任せられるメンバーが4人もいる。

となれば、あたしとユキがやるべきことは魔法での援護ね。


「ユキ。わかってるわよね」

「もちろん。わたし達は魔法で攻撃ね」

「ええ、幸いにしてといっていいのかしら、アラクネは身体が大きいから上半身を狙えば上向きの射線になるわ。外しても前衛メンバーに当たることはほとんどないからガンガンいくわよ。ラノベの知識ならアラクネの弱点属性は火よね」

「まあ、普通は火に耐性のあるほうが珍しいけどね」

「う、そうだけど、そうだけど。アラクネの糸とか火で焼き切るイメージあるでしょ」


たしかに魔物であっても火で焼けば普通に死ぬけど、それだけじゃないと思うのよね。


「と、とりあえずフレイムアロー」


火属性の単体攻撃魔法を撃って話題を変えることにした。

あまり魔力を込めなかったとは言ってもあたしの魔法。フレイムアローは今ダイさんに殴りかかろうとしていたアラクネの左腕を消し飛ばした。


「ギャー!!」


アラクネの悲鳴が響く。そして直後、あたし達は目を見張ることになる。

あたしが消し飛ばしたアラクネの左腕が再生した。


「な、再生能力持ちなの」

「再生は朝未の専売特許じゃないってことね」

「いえいえ、元々あたしだけしか出来ないわけじゃないから」


揶揄ってきたユキに反論しておくけど、再生能力持ちとの戦闘は長丁場って決まっている。少し落ち着いた方が良いわね。

それでも、何の代償も無く再生なんかできるわけない。あたしの場合、いえ、人の場合は聖属性への適性とそれなりに多くの魔力を消費する。エクストラヒールを覚えたばかりの頃のあたしは使うと意識を失うほどの魔力を消費した。

そこであたしは、ハッと気づいた。今ほどではないけれど当時でもあたしの魔力量は決して少なくなかった。むしろ人としてはかなり多かったはず。


「再生なんて消耗が激しいはずよ。何度でも再生させるわよ。あたしがマナセンスで消耗具合を探るから、どんどん攻撃して」


アラクネの再生を目にして怯んでいたみんなの目に光が戻り、攻撃に勢いがついた。

それを横目に、あたしはマナセンスを発動する。

アラクネの膨大な魔力量を感じる。でも、それも普通の人と比べた場合の話。ここにいるのは既に規格外のメンバーばかり。マルティナさんだけは、この世界の人だからなのか少し魔力量は少な目だけど、それでもこの世界の普通の人の数倍の魔力を持っている。アラクネの魔力量に絶望を感じるほどではない。


「大丈夫。あたし達なら十分に勝てるわ」


あたしが叫んだ、その時、瑶さんがアラクネの足のを3本まとめて切り飛ばした。

すぐに再生する、アラクネの足。

でも、マナセンスで見ているあたしはごまかせない。


「今のでアラクネの魔力の3割が消費されたわ。大丈夫。効いてる」


そこでアラクネが両手を前に突き出した。その指先から素早く糸が放たれる。

瑶さんとナミは素早く避けることに成功した。敏捷性が少し落ちるダイさんは、盾で受ける。


「ぐぅ、盾を持っていかれそうだ」


糸は随分と丈夫で強力な粘着力を持つ上に、アラクネの力も強い。ダイさんが引きずられている。

そのまま引きずらせるわけにはいかない。


「エアカッター」

「ファイヤーアロー」


あたしのエアカッターが切り割き、とユキのファイヤーアローが糸を焼き切る。


獲物を引き寄せることが出来ないと理解したアラクネが素早く移動し、今度はナミにその足を突き出した。

咄嗟の事にナミは身体を投げだし辛うじて避ける。

立ち上がったナミがガクリと膝をついた。え?今のはギリギリだったけれど避けたはず。

でも、よく見ると太ももの外側に僅かな切り傷が見える。掠っただけであれだけのダメージということは毒ね。


「キュア。ヒール」


あたしは、すぐに毒消しの魔法キュアと治癒魔法ヒールを使う。


「ありがとう」


一言感謝を告げると、ナミはアラクネに向かって行く。


「ナミ。距離を取って武器のリーチを生かして」


ナミは、あたし達の中で一番長い剣を使う。それはマルティナさんの槍ほどではないけれど距離が取れるはず。

そんな声を掛けていると、アラクネの手があたしに向いた。


すごい勢いで糸が飛んでくる。

でも、ターゲットがあたしでは運が悪かったわね。


「フレイムアロー」


あたしは火属性の中級魔法フレイムアローを5本まとめて打ち出す。

あたしの放ったフレイムアローはアラクネの糸を焼き飛ばしながら更にアラクネの上半身に大きな穴を穿った。

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