第219話 転移

あたしと瑶さんが魔力を注ぐと、その効果は覿面だった。


「これで起動したのよね」


青白く光り始めた魔法陣の様子をみて、少し不安げな表情をみせながらユキが呟く。


「多分」

「何が起きるのかは、わからないからね。全員警戒して」


あたしが、起動したはずと言葉にすると、瑶さんが注意を促してくれた。そうよね、おとぎ話からは、具体的な内容は分かっていないのだから警戒は必要ね。

みんなが武器を構え警戒する構えを見せた。


「何も起きないじゃないか」


ダイさんが苛立たし気に声を荒げる。

でも、実際に何も起きていないのよね。

そこで、ふっと気づいた。


「ねえ、ひょっとして扉を開けられるようになっていたりしない?」

「お、それもありだな」


嬉しそうに、そう言うとダイさんが扉に駆け寄り、すぐに残念そうに首を振った。


「開かないな」

「ま、そこまで単純じゃないってことね。あとは、時間差で何かが起きるか……」

「あとは転移かな?」


ダイさんの残念そうな声にユキが言葉をかぶせ、あたしも思い当たることを口にした。


「とりあえず、少し待機だね。一応その間は交代で警戒をしよう」


瑶さんの提案にあたし達は頷き順番に体を休め、時間をつぶす。





「あれから3時間。何も起きないね」

「いえ、魔法陣の光が少し弱くなってきている気がします」


瑶さんが、この世界に転移してからも愛用してきている腕時計をのぞきながら口を開き、あたしは魔法陣の様子に首を傾げた。


「となると、時間経過が不足か、それとも転移?ってことかな?」

「可能性としては転移が高いと思います。でも、魔法陣に注いだ魔力が消費され切って何かが起きるというのも否定できないんですよね」

「ふむ、朝未は、この魔法陣で魔力が消費されきるのにどのくらいの時間が掛かるかわかる?」

「え?どうでしょう?ひょっとしたらマナサーチでわかるかもしれません。調べてみますね」


瑶さんの思いつきから、あたしはマナサーチで魔法陣を意識してみる。


「あ、なんとなくですけど、魔力の残りの量は感じられます」

「なら、どのくらいで消費しきるかはわかる?」


瑶さんの言葉に、もう少しマナサーチに意識を向け集中する。


「うーん、今現在の残りはわかりますけど、満タンの量とか減る速さとかはちょっと簡単には分からない感じです。時間をおいてどのくらい減ったかを調べて予想するしかないんじゃないかと思います」

「そうか。うーん、それじゃあ1時間ごとくらいに調べてくれるかな」

「わかりました。やってみますね」




そしてそのあと1時間ごとに5回調べてみた。その結果を瑶さんが何か計算してくれた結果。


「この感じだと、あと15から16時間で消費されきる感じだね」

「そうすると、ちょうど丸1日で消費しきる感じになりますね」


「あと16時間ですか。その間はどうします?単に待機だけですか?」


あたしと瑶さんが、残り時間の話をしていると、横からナミが聞いてきた。さすがに退屈してきたのかしらね。


「……そうだね。ここは今のところ安全そうだし、軽く模擬戦をしてみるかい?」

「はい」


あ、本当に退屈していたのね。瑶さんの提案にナミがとても嬉しそうに返事をしている。


「あ、でも模擬戦用の武器がありません。さすがに真剣ではちょっと、ですよね」

「大丈夫よ。このマジックバッグの中に木剣が入っているから。一緒に模擬戦をするようになるかもって思って、みんなの武器に近い物を用意したのが役に立ちそうね」


あら?ナミがちょっと不思議そうな顔をしているわね。


「どうかした?」

「ご飯の時にも思ったんだけど、朝未のマジックバッグの中ってどうなっているの?」

「え?なんというか、何かで使えそうなものはとりあえず入れてあるのよね。あ、生ものは普通にダメになるから最低限にしてるけど」

「うーん、でもそのマジックバッグって容量拡張だけなんでしょ、重くないの?」

「軽くは無いかな。でも前にも話したと思うけど普通に活動できる範囲に調整しているから平気よ」




模擬戦と食事で気分を変え丸1日経って、魔法陣の魔力が消費しきられた。


「何も起こらなかったね」

「起きませんでしたね」

「間違いなく魔法陣の魔力は空なんだよね」

「はい、壁の模様につながる魔力以外は感じられなくなってます」

「となると、転移?」

「他には思いつきません。多分魔力を補充してあの魔法陣に乗ると転移する仕掛けだと思います」

「わかった、じゃあ、朝未はあっちの壁、私は向こうの壁に前と同じように魔力を注ぎ込んだうえで、みんなで魔法陣に乗ろう」


「じゃあ、いちにのさんで、同時に乗るよ。念のためみんな手をつないでおこう」


瑶さんの提案で6人で手をつないで魔法陣に乗った。

そのとたん、魔法陣が輝きを増し、そのまぶしさに目を閉じる。


ほんの数秒だと思うけど、閉じた目に光を感じなくなったので目を開けると。


「また別の部屋?」


ユキの呟きが終わらないうちに、向かいの壁近くで新しい魔法陣が光を放った。

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