第216話 突破

あたしとユキのホーリーの中であたしが放ったホーリーレイに魔法陣は震えながら耐えた。

あたしのホーリーレイが消えると最初より少ないながら魔物のリポップが再度始まった。ユキのホーリーが消え、あたしのホーリーも輝きを消しすとリポップは元通りになったみたい。

リポップした魔物は瑶さんとナミが剣で切り飛ばし、マルティナさんが槍で突き、ダイさんが盾で押し込める。


「ホーリーレイン」

「ファイヤー……」

「ユキ、近接で火属性はダメ」


まあ、本当は閉鎖空間で使うのもちょっとマズイはずなんだけど、そこは「ザ・ファンタジー」で何故か酸欠とかならないのよね。

とはいっても、ここはリアル、ゲームの世界と違ってフレンドリーファイヤーがある。魔物に近接しての範囲魔法は人間にダメージを与えない聖属性一択。それを火属性魔法をぶっ放そうとしたんだもの。そりゃ、あたしが補助魔法を掛けているから、そう酷い事にはならないけど、あたしの補助魔法ありきの立ち回りは良くない。


あたしの指摘にユキもホリーレインに切り替えた。

でも、今のままだと手づまりなのは確か。あたしはちょっと考えてみんなに声をかける。


「みんなちょっとやってみたいことがあるから少しの間、あたし抜きで支えてて」

「ん?朝未に何か考えがあるなら試してみよう」

「じゃあ、お願いね」


瑶さんの一言でみんなが頷いてくれたので試してみることにした。

あたしは集中して魔力を練り上げる。いつもより念入りに、より多く、より濃く、そして強くイメージをする。


「ホーリーレイ」


あたしは、いつもより魔力の量も密度もマシマシのホーリーレイを魔法陣に向けて撃った。正確に測る方法は無いけど、体感的には普段のホーリーレイの10倍は強いはず。


いつもより強い輝きを放つ聖属性のレーザーが魔法陣に突き刺さる。

魔法陣が揺らぎ、魔法陣の表面でホーリーレイが弾ける。このままだと、さっきの再現でしかない。


「お願い、効いて」


少しずつ魔法陣の揺らぎが大きくなってきた。

もう少し。


「ホーリー」


揺らぎながらも魔法陣が耐えているところに、ユキがホーリーを放ってきた。

ユキのホーリーで勢いが僅かに増し、魔法陣が歪み、ひびが入る。あと1歩。


「これで、どうだ」


そこに瑶さんが自力でエンチャントした剣を振り下ろした。


”パキン”


まるで、それまでがウソのように魔法陣が割れ、粉々になって消えていく。


あたしのホーリーレイが消え、ユキのホーリーが輝きを消した。

みんなが身構える。


そして数秒後、


”ガタン”


物音と共に奥にあった扉が自然に開いた。


「朝未の考えが正解だったみたいだね」


瑶さんが笑顔であたしの頭を撫でてくれる。

しばらく瑶さんに撫でられるままになっていたのだけど、気付くと周りから何か視線を感じる。

見回すと、何かマルティナさん以外が何か生暖かい表情であたしと瑶さんを眺めているじゃないの。

慌ててあたしは瑶さんから離れようとした。そう、離れようとしたのだけど、足がちょっとついてこなくて、躓いてしまった。


「ほら、危ないよ。戦闘は終わりみたいだけど、油断しちゃだめだよ」


転びそうになったあたしは瑶さんの腕の中に抱き留められて、転ばずに済んだ。それは良いんだけど、この体勢はちょっと恥ずかしい。耳まで熱い。


「瑶さん、ありがとうございます。みんな、どうやら魔法陣が壊れるとドアが開くようになっていたみたいね。これで奥を探索できるわね」


「朝未、そんな慌てて瑶さんの腕の中から離れて誤魔化さなくてもいいのよ」

「そうそう、2人は正式な夫婦なんでしょ」


う、うう、ナミとユキがここぞとばかりに揶揄ってくるから、ますます顔が熱くなってきた。

これは抵抗すればするほど揶揄われるパターンだわ。

それに嫌なわけじゃないし……。


あたしは瑶さんの腕の中に戻って甘えることにした。


「瑶さん。少しこうさせてね」


瑶さんの腕の中は、安心できる。この世界であたしが本当に安らげるただひとつの場所。

瑶さんの腕が、あたしを優しく抱き寄せる。あたしは、目を閉じてそれに身を任せた。

そっと、あたしを撫でる瑶さんの手を感じる。


「朝未、頑張ったね」


そっと囁く瑶さんの声に心がほぐれていくのを感じ、瑶さんの胸に顔を埋めた。



「ん、うん。確かに誤魔化さなくても良いって言ったけど……」

「うん、朝未、それはやりすぎ。少しは自重して。他のメンバーはみんなシングルなんだから」

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