第215話 モンスターハウス

「この部屋が?」

「そう、この部屋。この部屋と、あればその先以外は探索済んだのよね」


あたしとユキがこんな話をしている目の前にあるのが、至らずの洞窟であまりのリポップに探索が止まっている部屋。


「この部屋に入ると、室内にいる魔物が纏めて襲い掛かってくるモンスターハウスなのね」

「そう、入口から覗いているだけなら平気なんだけど、1歩足を踏み入れるととたんに亀が2本足で立ち上がったような魔物が大量にね」

「でも、朝未の魔法や、瑶さんが聖剣を振るったら一気に殲滅できそうじゃない?」


まあそう思うわよね。


「あたしの魔法は聖属性以外は中級止まりだし、聖属性魔法にはあまり攻撃性の高い魔法多くないのよね。範囲攻撃だとせいぜい自作のホーリーレインくらいね。これ結構効果は高いんだけど、物理的な力はないし、1発で全滅ってほどにはいかなくて、次を撃つ頃には全快してるのよ。瑶さんの聖剣での攻撃は単純に破壊力大きすぎね。生き埋めにはなりたくないもの」


あたしの返事にユキがちょっと首を傾げ、すぐに納得の顔を見せた。


「瑶さんが聖剣を振ると崩落するのね?」

「わからないけど、そんなの試したくないわよ。日本でだってトンネル掘るのは専用の機械で壁を作りながら掘るのに、いきなりあんな強い破壊力をぶつけるとか怖いじゃない」


当たり前よね。崩落するかどうかなんて実験、それをしないと命が無いって場合じゃなければやることじゃないわ。


「それでわたし達のランクが追い付くのを待っていたってこと?」

「そういうこと。3人が5級になってくれれば一緒に活動しても違和感持たれなくなるからね。3人が一緒に戦ってくれれば手数も増えるし、盾をもったダイさんが前線で抑えてくれれば安定すると思うのよね」


至らずの洞窟の隠し部屋で以前見つけた盾は、あたしはもちろん瑶さんの戦闘スタイルにも合わなかったので、唯一フィジカルで抑えつけるスタイルのダイさんに渡してある。言葉を選ばず言ってしまえば優秀な肉盾。


「この盾マジですげえからな。トランルーノ聖王国で最高級品だって言われて与えられてた盾なんか目じゃないくらいに。崩されるイメージがわかない。前衛での盾役はまかせてくれ」


ダイさんもやる気ね。


「じゃあ、打ち合わせ通り、まず入口の外からあたしとユキが魔法を撃ちこむから、ダイさんを先頭に部屋に突入。瑶さんとナミが両サイドで殲滅。その後ろからマルティナさんが槍で牽制。敵の動きを誘導してね。後衛としてあたしとユキが魔法を撃ちこみながら続く。あたしはユキの護衛を兼ねて後方支援。それぞれダメージを受けたら合図をすること。あたしとユキが適宜回復をするわ。敵のリポップ地点を制圧したらなんとかしてリポップを妨害する。できなければ奥に何かないか確認。今日はここまでね」


作戦の再確認をしつつみんなを見回す。落ち着いた顔を見せる瑶さんとマルティナさん。少しばかり興奮気味なダイさん。穏やかな微笑みをたたえているのに何故か恐ろし気なナミ。ちょっと緊張気味なユキ。


「さて、朝未の説明で、改めて目標を確認したところで始めようか。みんな準備はいいかな」


見回す瑶さんにあたし達は頷いて配置についた。あたしは補助魔法を全員に掛ける。


「カウントするよ、10,9、……0」

「ホーリーレイン」

「ファイヤーストーム」


うん?ユキは火属性の魔法。ちゃんと魔力を練り上げて強化しているわね。この世界標準のファイヤーストームより強力だわ。じゃあ追加。


「ウィンドストーム」


ユキの火属性中級魔法に合わせて風属性の中級魔法ストームを追加。予想通り、火勢が強くなった。

魔法がその力で部屋の中の魔物を蹂躙する。あたし1人で撃った魔法の場合の倍を超える魔物が地に伏した。

そして魔法が蹂躙した室内に盾を構えたダイさんを先頭に突入する。


「おらあ、お前たちの相手はこっちだ」


ダイさんが大声を上げ、魔物を挑発する。

ダイさんに意識の向いた魔物たちを瑶さんとナミの剣が薙ぐ。瑶さんもいつもなら抑え役を兼ねるところを攻撃に専念しているからか、斃す速さが圧倒的ね。ダイさんもあたし達が提供した盾で魔物を受け止め受け流し、うまく抑えているわ。

あたしと、ユキは奥に向かって魔法を放ちリポップしたての魔物を殲滅していく。

殲滅速度が、あたしたち3人だけの時に比べて大幅に上がっている。


おかげでどんどん奥に押し込んでリポップ地点にたどり着くことが出来た。


「これみたいだね」


瑶さんがリポップ地点で魔物を切り捨て指さした先にはうっすらと黒くゆらめく幾何学模様がある。


「これは、ひょっとして魔法陣?」


あ、ユキが言うように、魔法陣なのかもしれない。


「となると、これをなんとかすればリポップが止まりそうね」

「なるほど、むん」


あたしが口にしたとたんに瑶さんが剣を魔法陣に突き刺した。いえ突き刺そうとしたけれど弾かれているわね。


「瑶さんの攻撃が通らないなら物理での破壊は無理そうですね」


そんな話をしながらも、続々とリポップする魔物を処理している。

ならばと、あたしは魔力を練り上げる。


「ホーリー」


見た感じなんか禍々しい感じがしたので聖属性魔法で対抗してみることにした。


「む?リポップ速度が落ちたみたいだね」


瑶さんの言うように、リポップ速度は落ちたけれど、止まらないし、魔法陣自体はそのまま。


「止まりませんね。なら、ホーリーレイ」


あたしは聖属性のレーザーを魔法陣に向けて撃った。魔法陣が揺らぎ貫通するはずのホーリーレイがそこで弾ける。


「リポップが止まった?」


あたしの後ろでユキがつぶやいている。

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