第212話 模擬戦。暁影のそら V.S. 辺境の英雄たち
「やるのは良いけど、朝未、さっきみたいな技術レベルでの模擬戦はさすがに対パーティー戦では無理だと思うよ」
「ああ、そうですよね。技術自体はレアルさん達の方が上ですもんね」
あたしが対パーティー戦でも技術レベルを上げるために速さや力を抑えるつもりだったのを瑶さんには見抜かれてたみたい。それでも全力でやるのはちょっと違う気がするのよね。
「なら、補助魔法は防御だけ、身体能力は手加減無し。攻撃魔法は無し。この辺りならどうです?」
「いや、それだと模擬戦にならないと思うよ」
「むう、瑶さん意地悪しないで、教えてくださいよ。そう言うって事はアイディアがあるんでしょう?」
あたしが言うと、瑶さんはにっこりと笑いなが言った。
「対パーティー戦なら、こちらもパーティーを組めばいいんだよ」
そういう瑶さんの後ろではマルティナさんが槍を手にうっすらと微笑んでいるじゃない。さりげなくやる気をみせているわね。
つまり、あたし達3人対辺境の英雄たち5人で模擬戦をするって事?
「えと、それだとさすがに過剰戦力では?」
「魔法は防御魔法だけ。魔法攻撃は無し、エンチャントも無しにしたらある程度バランスとれるんじゃないかな?」
「ちょ、ちょっとまってください」
あたしと瑶さんの打ち合わせにレアルさんが口を挟んできた。
「レアルさん。どうかしましたか?」
「どうかしましたかじゃないですよ、姐御。素の戦力で姐御達3人の相手を俺達5人でするのは無理ですって」
「でも、レアルさんはあたしと模擬戦をしたじゃないですか。あのときあたしの手加減を期待していたわけではないでしょう?」
「そ、それはそうですけども。あれは、俺が強い姐御に鍛えてもらいたいからで、それに、姐御は魔法を使わなかったじゃないですか。それにその、それをパーティーメンバーに強要するつもりではなくてですね……」
何かしどろもどろになるレアルさんに、あたしはため息をついた。
「はあ、じゃあ、レアルさん達辺境の英雄たちにはあたしが全力で補助魔法を掛けてあげる。普段の数倍の力と速さ、それに感覚も鋭くなります。その状態で模擬戦ならいいでしょう。ただし、」
「ただし、なんですか、姐御」
「時間制限付きになります。さすがに模擬戦の途中で掛けなおすのは違うと思いますから。それと、覚悟が必要ですよ」
「時間制限はともかく、覚悟って。俺達は元々覚悟を決めてハンターをやってます。大丈夫です」
「そういう覚悟じゃないんですけどね。まあいいです。瑶さん、マルティナさん、こういうことになりました。いいですよね」
レアルさん達に補助魔法を掛け、あたし達は向かい合っている。そして、あたしは久しぶりに弓を手にしていた。さすがにレアルさん達には補助魔法を掛けたとはいえ全属性を扱えるあたしが魔法を使ったら模擬戦になんかならない。だからかわりの遠距離攻撃手段として弓を持つことにした。それに瑶さんにしても、聖剣を持ったらそういうレベルでは無くなる。マルティナさんにしても本来なら自力でエンチャントできるし魔力での身体強化も出来る。素の身体能力自体はマルティナさんはレアルさん達より少し上くらいだけれど、身体強化とエンチャント、さらにそこにあたしが補助魔法を使えば並みの5級ハンターでは目で追うのも難しいと思う。
そういう意味では完全にハンディキャップマッチ。でも、それでいいことにした。
「双方構え。始め」
ナミの掛け声に一斉に動き出す。最初は当然ながら弓の撃ちあい。
あたしは、できる限りの速さで連射した。辺境の英雄たちからもマットさんが弓で射かけてくる。
とはいえ、このレベルになると普段から使っている弓から正面から射た矢なんて当たるものでは無いのよね。
辺境の英雄たちから射かけられた矢は全て瑶さんとマルティナさんが剣と槍で叩き落している。あたしが射た矢だってレアルさんの双剣やマークさんの剣で切り捨てられているし、切り落とされなかった数本の矢は避けられている。
矢の速さは使う人の身体能力でなく、あくまでも使う弓の力に依存するからなのだけど……。そう考えると、あたしもそろそろ弓を更新するべきかしら。
そんな事を考えているとあっという間に接近戦が始まった。マットさんは後ろから牽制するように矢を射かけて来ているけど、ここからの接近戦ではそうそう弓で援護はむりだろう。
あたしも、弓を下ろし、今は短剣を手にして接近戦に移行している。
見れば、レアルさんはマルティナさんが槍の距離を生かして牽制、片手剣を使うマークさんと、大剣使いのライアンさんは瑶さんがうまくいなしている。あたしは周り込もうとしているスカウトのケヴィンさんの前を塞ぐ。
この中ではマルティナさんが一番苦戦しているわね。それでも、どうにか槍の位置でレアルさんの進路をコントロールして耐えている。瑶さんも補助魔法で能力が上がっている2人を相手にあまり余裕はなさそう。となれば、1対1で対処しているあたし次第ね。
実際のところ、1対1に持ち込んだ段階であたしの有利は動かない。
あたしはケヴィンさんに向かって一気に踏み込む。右手の剣を振り、ケヴィンさんが剣を意識したところで剣を引きながら、更に踏み込み左拳をケヴィンさんの死角からケヴィンさんの脇に突きあげる。
「ボゴゥッ」
吹き飛ぶケヴィンさんを横目にライアンさんの後ろをとり、首筋に剣を添える」
ビクリと一瞬硬直したライアンさんは、おとなしく戦線離脱した。マークさんだけを相手すればいいのなら瑶さんは大丈夫。あたしはそのままマルティナさんが相手をしているレアルさんに向かう。
そこに矢が飛んできた。この混戦の中あたしの動きに合わせて矢を射るマットさんの腕前は中々ね。
それでも、あたしは辛うじて矢を剣で絡めとり、直撃を避ける。
次の矢が届く前にあたしはレアルさんを盾にする。同時に驚いた顔のレアルさんの胴を剣で薙いだ。
その頃には瑶さんもライアンさんに剣を打ち込み勝負を決めていた。
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