第210話 模擬戦1回目

「うわ、なんだこれ?」

「きゃっ、いやだこれなに?」

「うぅ、気持ち悪い感触」


ユキたちは、3者3様の悲鳴を上げながら、それでも入ってきた。


「とりあえず、あたしがエンチャントすれば入れるのよね」

「これも?」


ユキが一応気を使って言葉を選んでくれた。でも、実はここでならいいのよね。


「ここからは大丈夫よ。いまの膜みたいな結界?力場?みたいなものが魔法も遮断してくれるから」


ユキの顔がちょっと引き攣って、そのまま頭の上にはてなマークが浮かんでいるみたいになったわね。


「どういう原理かわからないんだけど、この中の事は外から確認できないの。だから外から目で見えてたのもそこの膜みたいな部分までで、それ以上中は見えてなかったでしょ。それに、この中に入ることが出来るのはあたしと、あたしが魔力をエンチャントした人だけだから、秘密のあれこれをするには一番なの」


「う、うん、朝未の言っていた秘密にする良い場所ってことは分かった。けど、その今更でもあるし言っては悪いけど、レアルさん達は良いの?」


ああ、そっか。ちゃんと説明しないとだね。


「レアルさん達は大丈夫よ。知ってるから」


そこで、あたしはレアルさん達との出会いから事情を知られるまでのいきさつを説明した。


「と、いうわけでレアルさん達辺境の英雄たちだけは秘密を共有してるの」

「朝未もお人好しね。でもまあ命が掛かってたら仕方ないか」


「納得してもらったところで、こっちよ」


瑶さんとあたしで先導して、復活している魔物を排除しつつ例のゴーレムのいた部屋を目指す。


「ね、ここなら広さは十分だし、人目を気にする必要もないわよ」


「確かに、ここなら十分に暴れられるな」

「そうね、今は無いけど私の使う長剣でも十分に振れるだけの広さがあるわね」


ダイさんとナミは納得してくれたわね。一方ユキが少し微妙な顔をしている。


「あのね、朝未。勢いでここまで来ちゃったけど、わたしって基本的に魔法で戦うタイプで武器は使えないのよ。身体能力も一般人に毛が生えた程度だし」


なるほど、そういう事ね。


「知ってるわよ。だから魔法を使えばいいのよ」

「いいのよって、武器と違って魔法は威力を落としたら発動時間が変わったりして模擬戦にならないじゃない」

「大丈夫大丈夫。魔法耐性を上げる補助魔法掛けておくから、存分に魔法を撃っちゃって。あ、当然物理耐性も上げておくからそっちも気にしないでね。それでもケガをした時にはちゃんと治癒魔法で治してあげるっていうかユキも治癒魔法使えるでしょ。模擬戦中はあたしは回復させないからユキ頑張って」


「本当に大丈夫?」

「大丈夫よ。さ、グダグダ言ってないで始めるわよ」


戸惑いながらも準備してきた木剣を構えるナミとダイさん。その後ろで魔法を展開する準備をするユキ。

対する辺境の英雄たちは、大剣使いのライアンさんを先頭に隊形を整えてあたしの合図を待っている。


「グランエクストラプロテクション、グランエクストラシェル」


補助魔法で物理耐性と魔法耐性を大幅に上げる。


「さ、遠慮なくやってね。はじめ!!」


あたしの合図にライアンさんがダイさんに向かって突っ込んでいく。そのすぐ後ろ左右に双剣を構えたレアルさんと片手長剣を右手にマークさんがフォローに入る。

スカウトのケヴィンさんは大回りにスキをうかがっているわね。

そして初撃は、辺境の英雄たちの弓師マットさんの矢がユキに飛んだ。


「はっ!」


気合と共にナミの剣が矢を切り払う。


「おいおい、マットの矢をこの距離で止めるか?すげえな、あの女の子」


辺境の英雄たちから感嘆の声が上がる。


「お返しよ、ファイヤーアロー」


ユキの放った魔法は、今度はレアルさんが切り払った。


「え!!まさか魔法を剣で!!」


目を驚いて見開いているユキのもとにケヴィンさんが死角から突っ込む。でも、探知魔法を展開しているはずのユキには奇襲にならないわね。それでも、身体能力が、この中では低めのユキは転がるようにして辛うじて避けるので精一杯みたい。


ダイさんとナミは既に辺境の英雄たちの前衛3人と切り結んで優勢ではあるけど、ユキの援護に周るのには少し時間が掛かりそう。


ユキはケヴィンさんの強襲を辛うじて避けたあと、どうにか立ち上がり魔法を撃とうとしている。

でもそれはちょっと悪手かな。


「ファイヤーア……」


言いかけたユキの肩に矢が当たった。鏃はついていないので刺さりはしなかったけれど、それでもユキの顔を顰めさせるくらいには勢いがあったみたい。


「ユキ、アウト」


あたしの判定にユキはおとなしく従って、あたしの横に来た。


「ちょっとしたスキを逃がさないって5級ハンターはやっぱり強いのね」


ユキがちょっとシュンとしているわね。


「うーん、それも無いじゃないけど、今のはダイさんとナミの責任も大きいかな」

「え、そうなの?」

「うん、まあ後でその辺りは話すね」


言っている間に前衛同士のぶつかり合いはナミとダイさんが制した。


「はい、ライアンさん、マークさん、レアルさん、そこまでです」


引き上げてくる3人をしり目に、そのまま弓師のマットさんにダイさんとナミの2人が向かう。うん、初回はここまでかしらね。


「はい、そこまで」


あたしが止めると、ちょっと消化不良の顔でダイさんとナミが、ホッとした顔でマットさんとケヴィンさんがあたしの前に集まってきた。


「いやあ、まさか前衛があそこまであっさり崩されるとは思いませんでした」

「矢をいきなり切り飛ばされたのも驚きでしたね」


「それでも、あっさりとわたしは落とされちゃいましたけどね」


そんな感想を言い合っているわね。


「はいはい、ちょっとこっちの話も聞いてね」


感想を言い合い、とまらないみたいなのであたしがパンパンと手を打って注目させる。


「今のは、ダイさんとナミが出すぎだったわね」

「え?ずっとこうやって魔物を斃してきてたんだけど」

「うん、知性の無い魔物相手ならそれで良いと思う。でも、人や、人でなくても知性のある魔物が相手の場合はダイさんとナミのどちらかがユキの護衛につかないとね。ユキは魔法で遠距離攻撃をしたり治癒魔法でケガを癒したりするんでしょう?後衛は落とされないように護衛しないとね。ナミがユキの護衛についていたら、こんなガチャガチャした形にはならなかったと思うわよ。辺境の英雄たちさんの感想はどう?」


「そうですね。姐御の言われる通りでしょうか。姐御が評価されるだけあってひとりひとりの戦力は間違いなく俺達より上ですね。でもちょっと個人の戦闘力に頼りすぎです。前衛同士では負けましたけど、今のままなら分断して勝ちを拾うのも難しくないと感じました」

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