第206話 クリフの家に帰って

盗賊の撃退以降しばらくは小雪達3人と少しギクシャクしたものの、とりあえず理解はしてくれて、無事にクリフに帰ってきた。


「へー、1戸建て。大きいわね……結構広い庭まであるじゃないの。何、朝未。何のバックアップも無いのにこんな家に住んでるの?いや、考えてみたら朝未達から借りた武器もかなり高そうな武器だったわ。朝未どんだけ稼いでるのよ」


クリフに戻り、ギルドで、護衛の完了報告を済ませると、まずは家で落ち着いて話そうってことになったのだけど、玄関をくぐったとたんに真奈美が騒ぎ出した。小雪と大地さんはポカンと口をあけているわね。


「どんだけ稼いでって、これでも4級ハンターパーティーだからね、それなりには。それに庭は魔法の練習をするのに必要だったから……。それについでに言えばここ借家だからね。そんな極端に高いものじゃないし」

「うん?でもハンターギルドには練習場があるって聞いたことがあるんだけど」

「ある、けど……」


あたしは口ごもって瑶さんに視線を向けた。


「安原さん。朝未の魔法は見る人が見ればどれも聖属性が乗っているのがわかるんだよ。ギルドの練習場は、誰に見られるかわからないからね。そういうところで聖属性の魔法は、ね。色々と面倒を引き寄せかねないからってことでギルドマスターに忠告を受けてってとこだね」

「あ、聖属性ってやっぱり希少なんですね」

「希少というのと、神殿と王族が囲い込んでいるので、色々とやっかいみたいだね」



「さて、やっと自宅に帰ってきたことだし、今日の昼食ははうどんにしたいと思うんだけど、他に希望のある人いる?」

「え、うどん?この世界にもうどんってあるの?お醬油とか、お出汁とか手に入るの?」


真奈美が食いついてきたわね。


「色々買い集めて、あたしの自作です」

「うわー、移動中の食事も美味かったけど、うどんまで作れるんだ。久しぶりにうどん食いたい。贅沢を言えばカレーうどんが食べたい、けど、これはさすがになあ」


大地さんはカレー派なのね。でもカレーは、まだもう少しって感じなのよねえ。前に作った時はたまたまいい香辛料が手に入っただけで、代わりを探しているんだけど、微妙に納得がいかない。


「カレーねえ……。まだ未完成だけど、それっぽいものなら作れるよ。ただし、この世界って香辛料が値段は高いし、そもそも手に入りにくいから、そうたくさんは作れないけどね」

「え、まじ?!それは食べたい。未完成でも食べたい。お願いします。神様、仏様、朝未様」


「じゃあ、あたしはうどん作ってきます。瑶さん、部屋割りをお願いしてもいいですか?」


「わかった。大見栄君はちょっと狭い部屋で悪いけど、その代わり1人部屋。安原さんと最上さんは2人部屋。ただし、まだ家具が揃ってないから部屋割りだけで、せめてベッドが届くまでは宿に泊まってもらう事になるけど」

「え?ベッドなんて良いですよ。床に毛布でも……」

「いやいや、この世界って部屋の中まで靴で入るからね。作りもそのようになっているからベッドが無いと辛いと思うよ」







「できましたよ。テーブルについてね」


あたしは、人数分より多めのうどんを準備して声を掛けた。うどんは3種類。ボア肉を使った肉うどんと、茹でて灰汁抜きをした野草をトッピングした野草うどん、それとカレーうどん。本当は野草は天ぷらにしたかったんだけど、脂が中々手に入らないのよね。今度肉屋さんにボアの脂をとっておいてもらおうかしらね。それぞれのうどんを器によそって各人の前に3杯ずつが並んでいる。


「おお、凄い。美味しそう。いただきます」


みんなの声が揃った。


「いや、この世界に来て和食系はあきらめるしかないかと思ったんだけど。おいしい。本当にこれ全部朝未が作ったの?いや、日本にいた頃も時々料理してたのは知ってるけど、食べさせてもらってたけど、おいしかったけど。ここだと色々違うでしょ?」

「え?うん。小麦の選別からしたから、ちょっと手間は掛かってるわね」


そう言えば日本にいた頃にも小雪には手料理を振舞っていたわね。


「こんな料理上手、朝未って将来いいお嫁さんになりそうね」


小雪の何気ない言葉にドキッとしてしまった。こっそり瑶さんをみると、ちょっと困ったような顔をしているわね。


「将来も何も、朝未様は瑶様の奥様ですが?」


そこに今更何を言っているのかというような口調でマルティナさんが口を挟んできた。

このあたり、どうしても日本人としての感性と違うのよね。

それに、瑶さんもあたしに対して親愛はあっても恋愛感情は多分無いんじゃないかしら。






「それで、朝未達3人で暮らしてきたのよね。朝未の部屋見せてよ」


という小雪の希望で、いま部屋に案内してきたのだけど。


「家具以外何もないじゃない」

「だって、部屋でやることってあまりないのよ。日本でならゲームしたり、小説読んだり、テレビ見たりって色々あったけどさあ」

「でも、着替えとか、身だしなみチェックの鏡は?」

「着替えは、チェストの中に一通り。この世界の鏡ははっきり言って使えないわよ。少なくとも普通に手に入る鏡は」

「えー、そうなの?そりゃ日本のみたいに綺麗じゃなかったけど普通に使える程度の鏡あったわよ」

「それは小雪達が居たのは王宮だったからでしょうが。このクリフって上級ハンターが多いから高級品が手に入るけど良い鏡は見たことないわよ」

「ふーん、そうなんだあ。でも、服は色々と持ってるわね。あら?これ?え?ブラ?日本から持ってきたわけじゃないわよね。どうしたのよ」


チェストの開けて眺めていた小雪が迫ってきた。


「そ、それは先代勇者が女の人だったとかで、作ったらしいの。それを売ってる店を見つけて、ね。ちょっと距離があるからサイズだけ伝えて知り合いの商人さんに仕入れてもらっているの。小雪の分も頼んであげようか?」

「う、でも、他人にサイズ伝えるのはちょっと恥ずかしくて……」

「商人さんも女の人だから大丈夫よ」

「……う、うん、じゃあ、次の時にお願いしようかしら。……あら?これは」


「あ、それは瑶さんのよ」

「え?ここ朝未の寝室じゃないの?」

「あたしと瑶さんの寝室よ」

「え、一緒の部屋で?え?でもベッドひとつしか?どこで寝てるの?まさか一緒に?マルティナさんが言っていた閨を共にってそういうこと?」


「一緒のベッドで寝てる。そうじゃないと寝れないの」


あたしが瑶さんと一緒に寝ている理由の説明をすると、小雪も仕方ないと納得してくれた。


「でも、これからはわたしと一緒に寝ましょ。それなら大丈夫でしょ?」

「え?嫌よ。あたしは瑶さんと寝るわよ」

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