第203話 あたしが今世の聖女です
「見つからないな」
「そうなんですね」
「街の被害はでているのか?」
「いえ、この8日ほどは、ぱったりと被害がなくなりました」
オペドのハンターギルドで瑶さんが受付のお姉さんと白々しい会話をしている。
「私達としては、既にヴァンパイアは、別の場所に移動したとみている」
「可能性はあるかとは思いますが、私どもハンターギルドとしましては確証がありませんので、何らかの情報が欲しいのですが」
「それは、別途依頼をだす案件だろう。私達は、あくまでもこの近くにヴァンパイアがいるらしいという情報があったから来ただけで、別に依頼を受けてきたわけではないからな」
お姉さんも4級ハンターパーティーに正式な依頼を出す場合の依頼料は分かっているからか、あまり強くは言えないでいるわね。
「そ、そこを何とかお願いできませんか?」
「ふぅ、しかたないな」
「それでは……」
「あと3日だけ探索しよう。それで手掛かりが見つからなければ私達”暁影のそら”は、この案件からは手を引かせてもらう」
「3日……。わかりました。よろしくお願いいたします」
お姉さんもさすがにそれ以上は無理と引き下がってくれたわね。でも、ごめんなさいね、あたし達は探索をするつもりないの。そもそも対象のヴァンパイアは、斃しちゃってるしね。
3日というのも、実は最後になったラグビー兄さんの解呪がその頃に終わる予定なのが理由だもの。
それでも、毎日森に入ってほどほどに狩りはしている。これは瑶さんが魔石くらいは納品しないと探索しているのか疑われかねないと言ったからなのだけど。
今日もとりあえず、森に入った。ほんの数日前までヴァンパイアが統率していただけにアンデッドはそれなのにいる。
「朝未、いつもの通り大きめの群れで軽く連携の確認。そのあと1時間程度をめどにアンデッドの駆除。そこまで終わったら彼らのもとに向かうよ」
「はい。……左前方に丁度よさそうな群れがいます」
そして、そんな狩りのあとは、小1時間走って雪ねえ達のもとへ。
「雪ねえ、どう?感じはつかめてきた?」
「うーん、まだなんとなくって感じね。それでも魔力の動きがあること自体はわかるようになってきたわ」
「じゅうぶんよ。自分の中の魔力ならともかく、自分の外の魔力を感じるのは本来大変らしいから」
「何よ、本来はって。朝未は違ったの?」
「あたしの場合は、ほら全属性の探知魔法が使えて、そっちでかなり熟練度上げてきてて、その応用でできたから。そういう意味ではこの1年ずっと訓練してきたようなものだもの」
「ふーん、でも探知魔法ってそんなに使う?」
「何言っているの雪ねえ。探知魔法って他のどんな魔法より使うわよ。それこそ寝てるとき以外はずっと使いっぱなしっていっていいくらいよ」
「え?なんで?」
「この世界、人の命はとっても軽いわ。この場所はあたし達が来るたびに瑶さんが周辺の魔物を狩っているから安全地帯になっているけど、普通は街の外にこんなゆっくり休める場所は無いわ。それにそれこそちょっと気に入らないというだけで剣が振るわれる。他にも、知ってる?街道脇のブッシュで休んでいたら問答無用で攻撃魔法を撃ちこんで当たり前なのよ。ハンターの狩場では罠に嵌めて気に入らないハンターを殺すなんて事も少なくないわ。日本にいた頃ならお話の中でしか聞いたことのない盗賊なんてものが普通にいて、金品だけじゃなく命を奪っていく。そんな世界なの。そんな世界であたし達みたいな異世界人が安全を確保するには敵意や害意に敏感である必要があるの。でも、あたし達に、そんな感覚や常識はないでしょ。だからあたしは、そういった感覚の代わりにいつでも探知魔法を使っているの。生き残るために」
あたしの言葉に雪ねえは呆然としている。
「でも、街には衛兵さんとかいるわよね」
「いるけど、衛兵の目を盗んで悪さをする人たちも大勢いるわ。そういう人達は見つかったら他の街に逃げればいいって思ってるわよ。地球でみたいに犯罪者を指名手配とか普通しないから。それこそ貴族に喧嘩売るとか、街に大きな被害を与えるとかでもしなければね。それに被害を受けてからじゃ衛兵が掴まえてくれたって遅いでしょ?ま、被害を受けてからじゃ遅いのは日本でも一緒だけどね」
ちょっと雰囲気が重くなったのでペロリと舌をだして雰囲気を和らげてみる。
「じ、じゃあ瑶さんは?あの人物理系の人よね」
「あー、瑶さんも探知魔法は使えるのよ」
「え?あんなに物理で強くて魔法も使えるなんて、伝説だって話に聞いていた過去の勇者みたい。朝未だって全属性魔法が使えてリザレクションなんて……え?あれ?リザレクションって聖女しか使えないって聞いて。え?」
雪ねえ気付いてなかったみたいね。
「はい、あたしが今世の聖女です」
ちょっと時代がかったポーズで茶化してみた。
「あ、朝未が聖女?」
「そうみたいなの。でも、めんどうな人達が寄ってきそうだから秘密ね」
そう言って、あたしは軽く魔力を練り上げた。
「ファイヤーアロー」
聖属性の青白い光を散らしながら炎の矢が左手の木の影から出てきたマッドボアの頭を吹き飛ばした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます