第202話 解呪

あたし達は、朝夕にオペドでハンターギルドに顔を出し、昼間はヴァンパイアの探索をしているふりをし、夜は雪ねえ達3人の護衛を兼ね一緒に野営をしてすごしている。

特に昼間は、雪ねえには魔力の扱いの練習をしてもらい、マーねえとラグビー兄さんにはエンチャントの練習をしてもらっていた。

その傍ら、あたしは雪ねえの隷属の魔法道具の魔力の流れを調べている。どうやら本当に闇属性の魔力を利用した呪いのようなものが付与されているのは分かってきた。あとはこれをどう解呪するか。マルティナさんが仲間になったときに思い付いた奴隷契約解除の方法を少しずつ試す。


「どんな具合?」

「これ、やっぱり闇属性の魔法に近いですね。呪いの部分だけじゃなくて、翻訳の機能も闇属性のマインドサーチに似た魔力の動きをしています」

「それで解呪は出来そう?」

「多分。今は闇属性の魔力の動きに合わせて聖属性の魔力を注ぎ込んでいるんですが、大体半分くらい解呪できている感じです」


瑶さんの様子伺いの言葉に、大体の進捗状況を話すと、雪ねえが驚いた顔であたしを見た。


「朝未って、そんなことまで分かるの?わたしにも出来るようになるかな?」

「雪ねえは聖属性魔法が使えるから、あとは闇属性の魔力を扱えるようにして、闇属性の探知魔法マインドサーチと聖属性の探知魔法マナセンスが使えるようになれば多分出来ると思う。あたしとしては、早めに覚えてもらって、あたしと瑶さんがオペドに行ってる間は雪ねえが解呪を進めてくれると良いなって思ってるのよね」

「ゲームや小説みたいに”リムーブカース!”って一発でできるものじゃないのね」

「うーん、多分単なる呪いなら、出来るかな?”リムーブカース”。成功するかどうかは別にして」

「え、出来るの?」

「うん、中級聖属性魔法にあるから”リムーブカース”」

「じゃあ、これは?」


雪ねえは、首に着けたチョーカー型の魔法道具を指した。


「単なる呪いじゃないみたいで、リムーブカースじゃ解呪できないの。だから雪ねえも頑張って闇属性の魔法使えるようになってね」


それからは、見張りの時間中この世界に来てからの事を色々と話しながら、あたしはチョーカーの魔法構造を調べ、雪ねえには、そのあたしの魔力の動きを感じる練習をしてもらって時間まで過ごした。




そんな過ごし方をして、4日目。


「は、外れた」

「え、あ、本当だ。本当に外れてる」


ようやく雪ねえのチョーカー型魔法道具を外すことができた。

あ、雪ねえが涙ぐんでる。


「朝未、ありがとう。本当にありがとう。わたしずっとあいつらの奴隷のままなのかと思って……」

「うぷっ」


突然雪ねえがあたしに抱きついてきた。日本にいた頃はあたしより高かった身長も、今ではあたしの目の高さくらい。抱きついて涙を流す姿に、あたしは雪ねえを抱き寄せて子供をあやすように撫でる。


「うんうん、もう大丈夫よ。これで雪ねえも自由だから」




しばらくそのまま雪ねえを抱き寄せて、雪ねえが落ち着いたところで、そっと離した。


「もう、涙と洟水でぐちゃぐちゃになってるじゃない。クリーン」

「う、ん。ありがとう」

「さ、これでそのチョーカーを外せることが証明できたわね」



「でも、小雪1人分を外すだけで4日でしょ。私と大地のチョーカーを外してもらうとなると、あと8日は掛かるってことね。そりゃ外してもらえるって分かっただけでもありがたいけど。これ外せるまで、行動に制限つくわよね」


マーねえがホッとしたような、それでいて疲れたように言った。


「あの、マーねえ、1回出来たので次はもう少し早いと思う。それに雪ねえも闇属性の魔力を少し扱えるようになってきたから、手伝ってもらえれば……」

「そっか、朝未ちゃんには助けてもらってばかりなのに愚痴を言っちゃってごめんね。それで、区切りがついたらトランルーノ聖王国から出るのよね」

「ええ、いくら髪色を変えたとは言っても、この世界では知られた技術なので、何かの拍子に気付かれるかもしれないので」

「そしたら、早めに移動した方がいいのよね本当は?」

「そう、だけど。帰還命令がセットされているでしょ?今の感じだとここでじっとしている分には許容範囲内みたいだけど、国外脱出ってなるとまず間違いなく命令違反になるんじゃないかと思うのよね」

「う、そうだった。そんなのがあったわね」

「それに言葉を覚えてもらったほうがいいと思うの」

「う、それもあった。あら、そういえば朝未ちゃんや瑶さんは翻訳の魔法道具無しで平気なのね」

「勉強したので」


マーねえの言葉に、あたしは胸を張って自慢してみる。


「勉強って、どうやって?テキストとか無いわよね」

「エルリックって街全体を翻訳の結界で覆っているの。そこで教えてもらったの。マーねえ達にはあたしと瑶さんが教えるから大丈夫よ。とりあえず、挨拶くらいできればあとは少しずつで大丈夫よ」

「今の朝未ちゃんだと違和感ないけど、実際には年下なのよね。そう考えるとちょっともにょるわね。でも、おねがいね」

「まかせて」



そして、それから5日程、ようやくマーねえとラグビー兄さんのチョーカーも解呪が終わった。


「瑶さん、解呪を終わりましたし、そろそろ偽装もいいんじゃないですか?」

「そう、だね。オペドに行ってキリをつけてこようか」

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