第201話 200話突破記念SS 小雪の事情
「バガン!!」
わたしの放った火の玉が的に当たり爆発する。火属性の中級魔法フレアボム。爆発範囲にいたら鎧を着こんだ騎士でも打ち倒せる強力な魔法だ。
「さすがです。聖女様。この短期間で中級魔法まで操られるとは素晴らしい進歩です」
わたしに魔法を教えてくれているのは王宮付き主席魔法使いのヘスス・ナバスさん。元の世界でサッカー選手に似た名前の人がいた気がするけど、別に転移転生召喚のどれでもないらしい。そしてそんな彼らが言うにはわたしは聖女だとのこと。召喚されて聖属性魔法が使えるのが理由らしいけど、聖女ねえ。
そして、この世界に召喚され1年近くが経ったけれど未だに元の世界に戻るめどは立っていない。恐らくこの国は、わたし達を返すつもりはなのだろう。いや、ひょっとすると返す方法自体無いのではないかと思い始めている。
「不本意ながら、国の言う事を聞いていくしかないのよね」
ぼそりと呟きつつ、次の魔法の的がセットされるのを待つ。
「至高なる力、万能なる力の根源よ。我が祈りに応えたまえ。我が魔力を対価とし水の力を顕現させ強大な氷の槍をもって我が敵を貫き斃したまえ。アイシクルランス」
わたしの放った水属性魔法の氷の槍が的を貫いた。
そんな訓練をしていると、練兵場の方から数人の騎士が身体を引きずるようにしてやってくる。向こうでは大地や真奈美が騎士を相手に戦闘訓練をしているから、手加減を間違えてケガをさせてしまったのだろう。
召喚された当初こそ、騎士の技術に打ち負かされていた2人だけど、召喚で手に入れた身体能力に慣れるにしたがって模擬戦では騎士団より戦闘能力で上回ってきた。ただ、特に大地はフィジカル頼みのぶちかましが多いからか、相手にケガをさせることも多い。
そんな場合、わたしが聖属性魔法を使えることもあり、魔法の練習を兼ねて治療はわたしがするようになっている。
「聖女様。治療をお願い致します。本日は3人です」
「はい、こちらへどうぞ」
1人は肘の捻挫。1人は、ああ胸部を強打したみたいね、鎧の胸部が大きくへこんでいて呼吸も苦しそう。最後の1人は……。
「ひっ」
太ももから骨が突き出している。
「急いで治療します。至高なる力、万能なる力の根源よ。我が祈りに応えたまえ。我が魔力を対価とし聖なる力を顕現させ慈悲の力をもってこのものを癒したまえ。ハイヒール」
青白い光がケガをした騎士を包む。そして光が消えた時には飛び出ていた骨も戻り、破損した鎧以外にはケガをしていたなんて分からない。
あとの2人にも治癒魔法を施す。
「聖女様、ありがとうございます」
「いえ、わたしの仲間との訓練でのケガですよね。むしろ申し訳ありません。ただ、わたしはまだ訓練途中なのでハイヒールまでしか使えません。欠損の治療は出来ないので、そのあたりはご注意くださいね」
「なんとお優しいお言葉。聖女様のお言葉心に刻んで精進いたします」
少しばかり居心地の悪い思いを抱えながら、騎士を見送り、振り向くとそこには微笑みを浮かべたヘスス・ナバスさんがいた。
「ヘスス・ナバス先生。見てらしたんですか?」
「ええ、こんな短期間でハイヒールまで使えるようになるとは、やはり聖女様は素晴らしいですね」
「短期間ですか。普通はどのくらいかかるものなんですか?」
ゲームでの魔法くらいしか知らないわたしには実感が無い。
「まず、基本の地水火風だけでなく聖属性魔法まで適性があること自体がほぼありません。そして通常初級魔法でさえ発動できるようになるのに半年以上かかります。聖女様が発動されている中級魔法をまともに使えるようになるにはさらに3年、場合によっては10年の研鑽が必要です。ですから聖女様の魔法の上達は他に比べるものがないほどと言っていいでしょう」
「そ、そうですか」
ちょっとだけホッとした。でもヘスス・ナバスさんが続けた言葉にちょっとギクリとし冷や汗が流れる。
「ただ、過去の聖女様の魔法は聖属性魔法以外でも聖属性が乗ったそうです。これからは、そのあたりを意識されると良いのではないでしょうか」
「は、はひ、頑張ります」
全ての魔法に聖属性かあ、そんなことができるんだ。どうやるんだろう。
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