第200話 勇者装備を渡す

「それじゃあ、さっそく始めるね」

「ええ、お願い」


夕食の後、あたしと雪ねえは最初の見張りについていた。

寝ている皆の迷惑にならないように小声で話すように気をつけている。遮音結界なんてものもあるけど、野営でそれはちょっとマズイ。音が聞こえないなんて襲ってくれって言っているようなものだものね。

そして、今あたしは、闇属性魔法のマインドサーチを雪ねえが着けさせられている隷属の魔法道具に向けて発動させ探っている。


「うん、やっぱり呪いみたいな感じね。ただ、単純な呪いじゃないから聖属性魔法にあるリムーブカースを単にぶつけるだけじゃ多分ダメかな」

「え?だめ?」

「普通のリムーブカースだとね。でも、この世界の魔法って分かっていれば割と融通が利くから、リムーブカースを少しずつ改造しながら適切な魔法を作ってみるね」


雪ねえが、絶望しそうな顔をしたので、慌てて説明する。


「え?改造?作る?魔法を?」

「雪ねえもファンタジー小説読んでたでしょ。その中で魔法っていくつかパターンがあったと思うの」

「パターン?そりゃ色々あったけど……」

「古典的な魔法は、魔法使いが呪文を唱えて発動に成功すると決まった効果が得られるでしょ、そこからの派生で、呪文の短縮や詠唱破棄?無詠唱?での発動があるけど、これは全部発動する魔法は効果が固定されるタイプ。でおそらく雪ねえが教えられたのもこのタイプだと思うの」

「そう、ね。大体そんな感じに教わったわ」

「一般的には、その通りらしいけど、少なくともあたしの魔法は違うの。もっと自由度が高くて、そして少し危険ね」


あたしは、これまでにあたしが使ってきた魔法について雪ねえに説明した。


「魔力を多く込めれば威力が増して、イメージすることが出来れば効果を変えることもできるの。ただし、この方法で魔法を使うと限界以上に魔力を込めることも出来てしまう。あたしも何度か必要に迫られて限界を超えて魔法を使った事があるの」

「限界を超えるとどうなるの?」

「そのまえに、この世界では魔力が不足した場合に魔法を使おうとするとどうなるか雪ねえは知ってる?」

「単純に魔法が使えないってきいているわ」

「そうね。あたしもエルリックでニコレッタさんにそう言われたわ。この世界での常識ではそうなっているらしいのだけど、あたしは何度か限界を超えて魔法を使って事があるって言ったでしょ。そうすると、眩暈や虚脱感、それに吐き気、そういったものに襲われるの。さらに無理をしたときには……」

「したときには?」

「意識を失ったわ」

「え?」


「幸い、命を失うまではいかなかったけれど、ひょっとすると程度によっては危ないかもしれないの」

「朝未、そんなことまでしてきたの?危ないじゃないの」

「でも、やらなかったら間違いなく死んでたもの。やるしかなかったの」

「やらないと死ぬって、朝未、いったいどんな生活してきたのよ」

「どんなって、さっき話した通りよ」

「さっき話した通りって、さっきの話じゃ、チート貰ってはっちゃけたようにしか聞こえなかったわよ」

「そう?うーん、じゃあ危なかった場面を中心に体験を話すね」


ろくな武器もなく山奥で戦った巨大ウサギ、スリーテールフォックス狩りに行ったのにナインテールフォックスを狩ることになって、ゴブリンやオークの編異種と戦ったり、救援に入った相手に裏切られたり、騎士に偽装した伯爵級ヴァンパイアに腕を掴まれたなんて話をしてたら、雪ねえの顔が引き攣ってきた。


「朝未、それってどう考えても絶対普通じゃないからね。たまたま朝未が聖属性魔法で回復出来たから5体満足で生き残っただけじゃない。普通なら死んでるわよ。なんでそんな無茶をしたのよ」

「なんでって、この世界に地盤の無いあたし達は急いで力をつける必要があったんだもの仕方ないじゃない。お金も稼がないといけなかったし」


あたしの言い分に雪ねえも言葉に詰まった。


「でも、もうそこまで無理する必要は無いんじゃないの?」

「一般人やハンター相手なら十分だけど、まだ国や貴族、それに神殿を相手に出来るところまで来てないから、まだ強くならないと自由が無くなる可能性があるの。せめて3級ハンターまでは上がらないと」

「そ、そうなんだ」

「人権なんてない世界だから、自分の身は自分で守れるようにならないとね。っとおしゃべりはこのくらいで、そろそろ魔力を練り上げる感覚を覚える練習をしよう」


あたしは雪ねえの手を握りゆっくりと魔力を流していった。




翌朝、3人に1日分の食料と水を渡し、朝も明けきらないうちにオペドに戻った。


「じゃあ、今日も森を探索してることにして雪ねえたちのところに戻るって事でいいんですよね」

「そうだね、ただ、多少は狩りをして魔石も確保するからね。そして夕方には勇者の装備を見つけたことにしてハンターギルドに渡すよ」

「あ、そうですね。魔石をギルドで換金しないと疑われますね」


そうして夕方、魔石と一緒に雪ねえ達が装備していた武器防具をハンターギルドに持ち込んだ。


「こ、これは?」

「森の奥で見つけた。周辺は、かなり激しい戦いの痕跡があった。一緒にこの大きめの魔石もあったから相打ちになったか、それとも複数の魔物と戦ったのなら……。あとは、わかるよな」

「となると、勇者パーティーはヴァンパイアに負けたということでしょうか」

「この大きさの魔石となれば相手はヴァンパイアの可能性が高いと思うが実際の戦いを見たわけじゃないからな、そもそもこの装備が勇者パーティーの物なのかもわからないしな。私達は高級そうな装備だから持って来てみただけだから」

「そう、ですね。わかりました。その辺りはギルドが確認しておきます。それで引き続きヴァンパイアの探索はしていただけるんですよね」

「当然だな。資料からすれば3日もあれば遭遇できるだろう」

「お願いします。あ、魔石の買い取り金はこちらになります。装備のほうは確認終了後に換金か、引き取りかになります」

「換金で良い。中古の装備ってだけなら別に気にもしないし、武器屋や防具屋で並んでいたのならまあ、そういうものだとも思うが、明らかに負けた人間の装備ってのはちょっと使う気にならないからな」

「わかりました。では、明日の午後には買取金額をお渡しできると思います」

「頼む」


そんなやり取りをして、あたし達はハンターギルドを後にした。




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200話到達です。

到達ですが200話記念SSは少々お待ちください。

ちょっとネタが浮かばなくて困ってます。

201話としてでなく、少し後になるかもしれませんがそれでも頑張って書きます。

しばらく猶予をください。

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