第198話 偽装

マルティナさんの言葉にその場は沈黙に包まれる。マルティナさんはとても嬉しそうな笑顔なのがまた頭が痛い。

直後に雪ねえの悲鳴のような声が響いた。


「あ、朝未。夫婦って。あなたまだ13歳、いえ1年経っているから14歳よね。それなのに結婚したの?」


あたしと瑶さんは頭を抱えた。わかってる。こっちの常識ではあたしと瑶さんの関係は夫婦と見られて当たり前。

でも、


「はあ、マルティナさん。誤解を招くようなというか、こちらの常識の無い召喚者にその言い方は勘弁してください」


あたしが苦情を言ってもマルティナさんはキョトンとしているだけ。


「常に行動を共にし、閨を共にしお互いに信頼し助け合っている。これで夫婦で無いとは朝未様達の世界は不思議な世界なのですね」

「きゃあああ。閨を共にって朝未ってばいつの間に大人の階段を登っていたのね」


ぐっ、マルティナさん、嘘じゃないけど、嘘じゃないけど、誤解を招く言い方……。


「ちょっと、雪ねえ、マーねえ、ちょっと待って。説明するから」


あたしは、これまでの経緯と瑶さんと一緒に寝ている理由を説明した。


「なーんだ、残念」

「残念って、雪ねえ、あたし達も生きるのに必死だったのよ」

「それでも、夜は一緒に寝てるのね」


雪ねえが、何か女の子がしてはいけない笑顔でいるのが気になるけど、これ以上はやめておくことにした。


「ま、おふざけはこのくらいにして、それよりも、これからの事を話そう?」

「これからの事?」

「3人は、隷属の魔法道具を外したいわよね」

「もちろん」


とは雪ねえ。


「出来るの?」


ちょっと心配そうなのはマーねえ


「当たり前だろ」


当然だろうと、言い切るのはラグビー兄さん。

3人の性格の出ている返事ね。


「ただ、初めての事なのでどのくらい時間が掛かるか分からないの。しばらく、ここで野宿してもらうことになるけど、いい?」


「そのくらいなら」


3人が頷いたので、瑶さんに目を向ける。頷いてくれたのでマジックバッグから野営用のテントを2つ出す。


「あと、私達はハンターギルドで偽装する必要があるからね。私達がオペドに行っている間、3人はここで待っていてもらうことになる。3人の強さならこのあたりの魔物は脅威じゃないだろう」


そう言って瑶さんはあたしに頷いた。


「これ、あたし達が以前使っていた武器。とは言ってもきちんと使えばヴァンパイアだって斃せる武器よ。ま、お古で悪いけど、しばらくは我慢してね」


そう言ってあたしは、マジックバッグから以前使っていたレッドメタルの長剣とブルーメタルの短剣、それにレッドメタルの穂先の槍を取り出した。防具はサイズが合わないので出さない。あれ?合わないかな?一応出してみることにした。


あたしが以前使っていた防具を雪ねえが、マルティナさんのお古をマーねえが少し合わないなりに使えた。


あたしの手渡した武器の具合を3人、いえマーねえとラグビー兄さんの2人が確認している。なのであたしは今のうちに雪ねえと話をすることにした。


「雪ねえ。雪ねえは魔法を使えるのよね。使える属性とどのレベルまで使えるか教えて」

「え?地水火風聖の5属性が使えるわ」

「闇は?使えないの?」

「分からないのよ。闇属性だけは教えてくれる人がいなかったから」

「教えてくれる人がいなかった?トランルーノ聖王国の聖都で?」


これは当たりかしら。


「ええ、それに戦いでは必要ないからって言われて」

「うーん、あ、ひょっとして。雪ねえ探知魔法は使える?」

「探知魔法?どの属性にあるの?」

「雪ねえ、全部の属性に探知魔法ってあるのよ。あと、魔法に込める魔力の量のコントロールは?出来る?」

「え?前属性に探知魔法?込める魔力のコントロール?な、何それ?聞いてない、教わってないわよ」

「念のため聞くけど、魔力は感じられるよね」

「え、ええ。魔法を使うと集まっていく感じのするあれよね」

「そっか、この世界の魔法使いから教わっただけだから……。でも雪ねえ、ファンタジー小説読んでたよね、魔力を多く籠めたら魔法の威力が大きくなるって考え付かなかったの?」

「そ、その魔法の威力自体は一緒で威力を上げたければ上位の魔法を使うしかないって教わったから、この世界の魔法はそういうものかと思って……」


あたしは頭を抱えてしまった。


「と、とりあえず、探知魔法を教えるね。その後で魔力を込める量をコントロールするトレーニング方法を教えるから」



その日夕方まで掛けて、雪ねえに探知魔法と魔力量をコントロールするトレーニングを教えた。


「と、とりあえず、これで最低限の探知は出来るから、あたし達が戻ってくるまでここで待っててね」

「ええ、わかったわ。どのくらいで戻ってくるの?」

「多分3時間くらい?あと、これ」


あたしはマジックバッグから布の袋と陶器の瓶を取り出した


「これは?」

「パンと水よ。3人分ね。クリーンを掛けてあるから安心して食べて」

「ありがとう。お腹空いてたから助かるわ」




「朝未、準備はいいか?」

「はい、大丈夫です。行きましょう。マルティナさんも」


そうした再度あたし達はオペドに戻り、ハンターギルドを訪れた。


「いらっしゃいませ。ハンターギルドオペド支部にようこそ。ご用件はなんでしょうか?」

「暁影のそらだ。ヴァンパイア探索初日の報告にきた」

「あ、ありがとうございます。どうでしたか?こちらでは勇者パーティーが戻らないという噂で大変なんですが」

「残念ながら、今日は発見できなかった。また明日探索に向かうつもりだ。とりあえず、宿を紹介してくれ。高くてもいいから信用の出来るところを頼む」

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