第197話 暴露
あたし達は、問題なくヴァンパイアを斃した。でも、問題はこれからね。
「瑶さん」
「うん、わかっている。急いでここを離れないとね。そこの男性は私が背負っていこう」
「あたしは、向こうで気を失っている魔法使いの女の人を背負っていきます」
「なら、わたしは朝未様が治療をした女性ですね。騎士団が気付いて戻ってくる前に」
そして、あたし達は、3人を背負ってその場を離れた。高性能になって身体能力、魔力による身体強化、それに補助魔法を上乗せし街道を走る。
「ここまで来れば、しばらくは時間を稼ぐことが出来ると思う」
「瑶さん。その人をそこに寝かせてください。こちらの女の人はとりあえず命に別条なさそうですので、そこの木にもたれさせて休ませておきます」
マルティナさんも背負ってきた女の人を木にもたれかからせて休ませている。ここにいるのは召喚勇者とあたし達だけ。探知魔法の範囲には人の反応はない。なら大丈夫ね。
あたしは、瑶さんが寝かせた男の人のそばに立つ。戦いの汚れで、人相も分からないけれど、聞いた話では10代半ばから後半くらいの若さらしい。こんなことで殺されるなんて理不尽すぎる。他の2人の女の人も血と埃にまみれて酷い有様。でも、せめてこれからは隷属の魔法道具からは解放してみせる。
ただ、その前にすることがある。あたしは魔力を練り上げる。あたしの周りを光が舞う。魔力がまるで竜巻のように渦巻き周囲の木の枝がしなり木の葉が舞う。
「リザレクション」
聖属性の魔力を伴った光が男の人に集まる。致命傷となった傷がふさがり頬に赤みがもどる。そして男の人が呼吸を始めた。
急激な魔力の消耗に僅かにふらついたあたしを瑶さんがそっと支えてくれる。
これで一安心ね。あとは翻訳の魔法道具に偽装した隷属の魔法道具を解呪すれば……
そんな事を考えていると、どこかで聞いたことがある声がした。
「だ、大地。私がわかる?」
「あ、ああ。ここは?俺は死んだんじゃ?」
「大地さん?」
まさか?よく見れば汚れてはいるけれど見知った顔に見える。
あたしは、深呼吸をして魔法を唱えた。
「クリーン」
あたしのクリーンで汚れの落ちた3人は良く知った顔だった。
「雪ねえ、マーねえ、それにラグビー兄さん」
あたしが名前を呼ぶと3人が驚いたようにこちらを見る。
「その呼び方……。まさか朝未?でも朝未は私達より年下で、それに髪の色も……」
「この世界で1年ハンターとして生きてきた結果よ。一番いい時代に成長したり若返ったりするらしいの。髪の色はこれで変えたの」
あたしは、ミーガンさんに用意してもらった染粉を3人に渡す。
「それを手に取って、自分のなりたい髪色をイメージしながら髪にこすりつけると魔力の作用で色が変えられるの。日本にあったカラーリングと違って、魔力で変えるからずっとその色を維持できるわ。この世界で黒髪は、あまりに目立つから髪色は変えた方が良いわね」
あたしの言葉に、3人はおそるおそる染粉を髪に擦る付けていく。
雪ねえは、少し明るい青に、マーねえは紫に、ラグビー兄さんは緑に染めた。
3人はお互いの髪色の変化に驚いているわね。
「朝未、3人とは知り合いだったのかい?」
「ええ、瑶さん。日本での年上の幼馴染というか、ご近所のお姉さんと、その友達です」
「紹介してくれるかい?」
「そう、ですね紹介します」
あら?ちょっと緊張感が漂っているわね。みんな良い人達だけど、こんな状況だとそうなるか。
「えと、こちらの髪を青く染めた魔法使いの女の子は、日本でご近所で幼馴染の雪ねえ、じゃなくて安原小雪さん」
「安原小雪です。よろしくお願いします」
「で隣の紫髪の女の子は雪ねえの友達で、最上真奈美さん。剣道をやってたんですよ」
「最上真奈美です。よろしく」
「それで、最後にそちらの男の子は大見栄大地さん。高校でラグビー部所属でポジションはどこでしたっけ?」
「大見栄大地です。よろしくお願いします。ラグビー部でのポジションはプロップです。朝未ちゃん忘れるなんてちょっと寂しいな」
「えと、それで、こちらのオレンジ髪の槍使いの女の人はマルティナさん。こちらに来てから色々とあって一緒にパーティーを組んでもらってます」
「マルティナです。よろしくお願いします。朝未様には言葉に出来ないほどお世話になっております」
「最後に、そのこちらの男の人は影井瑶さん。この世界に一緒に転移して、ずっとお世話になってる人、です」
「影井瑶です。よろしく」
「あたし達3人で暁影のそらって名前の4級ハンターパーティーで活動してます」
「4級?凄いじゃない。あ、でも伯爵級ヴァンパイアをあんなにあっさり斃せるくらいだから不思議でもないのかな?」
それからはしばらくお互いの近況について話していたんだけど、雪ねえがちょっとニマニマと笑いながら口を開いた。
「で、朝未。影井さんとはどんな関係なの?」
「え?あ、あの、えと」
あたしは雪ねえと目を合わせられない。あたしと瑶さんの関係?なんと言ったらいいのかしら。こちらに転移したばかりの頃は、バディと言ってくれていたけれど完全に保護者だったわよね。しばらくして、力をつけて本当のバディに成れたと思う。そして今は?
「朝未様と瑶様は、ご夫婦ですよ」
後ろからマルティナさんが直球で言い放ってきた。
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