第196話 生きてますか?
あたし達は、目立たない範囲で急いでハンターギルドを目指した。
「4級ハンターパーティー暁影のそらの瑶だ。最近この辺りでヴァンパイアが出るという話を聞いてきた。情報があったら教えてもらいたい」
瑶さんがシルバーのプレートを受付で提示しつつ情報を求めると、受付のお姉さんは歓喜の笑顔を見せ、あっという間に周辺地図を広げ、これまでの目撃地点について教えてくれた。
「このところヴァンパイアによる被害が許容範囲を超えているんです。そろそろギルド本部に救援依頼を出さないといけないかという話も出ているところだったんです。そこに4級ハンターパーティーが対応してくれるなんて……」
ということで、感激されてしまった。これは目立つ?
「ありがとう。とりあえず、現地を確認してくる」
瑶さんの声に、はっと気づき後に続く。
街の門を出たところで打ち合わせを始める。
「目撃情報は、あの森に入った辺りに集中している。まずは、そこに向かおう。朝未は探知魔法を……」
「はい、もう最大でマナセンスを展開しています。補助魔法も掛けますね」
「頼む。今までの傾向からして、ヴァンパイアに近づくと大量のアンデッドとの戦闘が避けられないと思う。消耗を抑えつつ速度優先で動くよ」
「では、わたしが露払いとして先行します」
「いや、マルティナさんは朝未の護衛に……」
「いえ、今回の場合、おふたりの消耗を抑えるのが最重要と思います。ですのでわたしが先鋒を務めさせていただきます」
マルティナさんが、珍しく強い主張をしているわね。そのあまりの強い圧に瑶さんが目を閉じ少し考えるような様子を見せた。
「わかった。マルティナさん先鋒を頼みます」
ハンターギルドで聞いた場所にむかってあたし達は急いだ。とは言っても、到着してすぐに戦闘があるのが予想される現状なので息を切らさずに済む程度の速さ。それでも、今のあたし達なら最高速度で走る馬よりも速い。
数分でヴァンパイアが目撃されたとされる森の近くに着いた。ここまで来れば最大で展開しているマナセンスに反応がある。
「森の奥、あちらの方向に大きな反応が5つあります。マナの揺らぎ具合からして既に戦闘に入っているようです。あ、1つ反応が消えました。消えたのは恐らくは男爵級ヴァンパイアと思われます」
「ふむ、とりあえず、2体の高位ヴァンパイアを相手にして、男爵級ヴァンパイアを斃せる程度の強さはあるか。なら間に合うかな。マルティナさん先鋒を」
「はい、かしこまりました」
瑶さんの言葉に、マルティナさんがシルバーメタルの槍をその手に疾く駆け始める。あたしと瑶さんも、すぐにその後ろに続いた。
「マルティナさん、このまままっすぐ行くと大きな群れにぶつかって時間をロスします。少し右へ、……はい、その方向でお願いします」
あたしが魔物の影の薄いルートを探し、マルティナさんがその少ない魔物を槍で蹴散らす。既にあたし達にとって障害にならないとはいえ、戦闘を行えば、それなりに時間をロスするので戦闘を最低限にいどうする。
「3人の反応がどんどん小さくなっています。特に1人は危ないかもしれません」
「く、まずい。マルティナさん急いで。朝未も魔法を使って構わない。ここまで来て全滅してましたじゃ話にもならない。朝未のリザレクションも初日ならともかく日が経つと成功率さがるんだよね」
「はい。リザレクションの成功率は時間が経つとどうしても下がります。それに魔力の消費も大きいので他の魔法はともかくリザレクションとなると今では1日に1回が限度です」
「急ぎます」
マルティナさんが今までより移動速度を上げた。あたしも要所で魔法を使い魔物を排除する。
「見えた。あそこ。まずい、あのヴァンパイア、とどめを刺そうとしている。朝未」
「はい。ホーリーレイ」
どうにか魔法が間に合った。間に合ったわよね。
「生きてますか?」
瑶さんが声を掛けるけれど既に反応する余裕もないみたい。魔法使いの女性はぐったりとしているけれど、マナセンスの反応から命に別状はなさそう。もう1人の女性は、まずい。片腕を失い両足を潰されている。
もう1人の男性は、マナセンスに反応がない。
「あたしは、まず応急処置をします。その間、あいつをこちらにこさせないでください」
まず、重症の女性に治癒魔法を使う。
「ひどい。すぐに治します。エクストラヒール」
エクストラヒールの効果で全身のケガが癒えるのを確認し、地に伏せる男性に視線を向ける。完全に事切れている。ここでの回復は諦めるしかないわね。
瑶さんとマルティナさんの戦いに視線を向けようとしたその時、男性の横にある剣が目に入った。あれはひょっとして。
男性に近寄り、剣に触れ魔力を送る。反応が違う。これがひょっとすると聖剣?
「お借りしますね」
倒れ既に事切れている男性に、それでも一言告げて、あたしは聖剣を手に瑶さんに声を掛ける。
「瑶さん、この剣を使ってみてください。瑶さんなら使いこなせるかもしれません」
「朝未、これは?」
「多分聖剣です。あたしの予想が正しければ瑶さんが魔力をエンチャントすれば強力な剣になると思います」
瑶さんが聖剣を手に持ち魔力をエンチャントする。聖剣が通常のエンチャントとは違う白い光を帯びた。間違いなさそう。
「く、これは際限なく魔力を吸うな」
え?それはまずいんじゃない?見ると光がどんどん強くなっていく。
「瑶さん、魔力のエンチャントを途中で止めてみてください」
あたしの言葉に、瑶さんがエンチャントを止めたのだろう、光の増幅が止まる。
「これでも、十分に強そうだね」
そう言うと瑶さんは聖剣を一閃した。軽く振ったように見えたその1撃はヴァンパイアの片腕を簡単に切り飛ばした。問題無さそうね。ならこの戦いを終わらせよう。
「ホーリーレイン」
聖属性魔法なら遠慮なく使える。聖属性魔法の刃がヴァンパイアを切り裂く。あたしがエンチャントした槍でマルティナさんがヴァンパイアの胸を突く。瑶さんの持つ聖剣がヴァンパイアの四肢を切り飛ばす。
初手ホーリーレイで吹き飛ばし状況を把握させることなく瑶さんとマルティナさんが切り刻んだヴァンパイアは、何をすることもできず地に伏せた。
-----------------------------------------------
あけましておめでとうございます。
旧年中は拙作「JC聖女とおっさん勇者(?)」を応援いただきありがとうございます。
頑張って書いていきますので、本年もよろしくお願いいたします。
2021年元旦
景空
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます