第195話 急を告げる
勇者パーティーを助けに入る少し前です
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あたし達は、ハンターギルドで手に入れた情報をもとに、再度トランルーノ聖王国に向かっている。
目的地は、トランルーノ聖王国南部の街オペド。そこでヴァンパイアによる虐殺が行われていて、勇者が派遣されることになったという情報があったためだ。あたし達は、高位ハンターならではの高い身体能力を魔力による身体強化とあたしの補助魔法で底上げし、自分たちの足で移動している。当然あたしの探知魔法で旅人の位置を確認しているので、人目に付く場所では目立たない程度の速度におとすのだけど、それでも馬車での移動に比べても何倍も速い。
そんな速さで移動していても、あたし達は普通に会話も出来る。
「男爵級ヴァンパイアと伯爵級ヴァンパイアが一緒にいる可能性があるとはね」
「一応、同時に見たという報告はないってところが救いですけどね」
「その、勇者というのは、そんなヴァンパイア2体を同時に相手出来るほどに強いのでしょうか?」
あたしと瑶さんの話に、マルティナさんが首をかしげる。
今のあたし達なら、うん、多分勝てる。でも、初めて男爵級ヴァンパイアと戦った頃のあたし達だったら?
あら?意外といけそうな気がするわね。
「朝未様?」
考え込んだ、あたしに気付いたマルティナさんが声を掛けてくれた。
「あ、いえ。初めてヴァンパイアと戦った頃のあたし達だったらどうかなと思って……」
「そう、ですね。……おそらくは、多少の苦戦はあっても負けることは無かったのではないかと思います」
「理由を聞いてもいいですか?」
「それほど難しい事ではありませんよ。まず、ヴァンパイアが脅威とされる理由ですが、邪なる力により極めて強い身体能力があり、腕のひと振りでさえ人であれば強力な防具が無ければ致命の一撃となること、その身体能力により動きが速く並みの人間では捉えられないこと、空を飛び普通の人間には攻撃が当てにくいこと、攻撃を当てても、その強靭な肉体に十分なダメージを与えられないこと。こういった理由があります。これはわかりますか?」
「え、ええ。普通に考えて規格外ですよね」
「ですが、あくまでもそれは一般的な評価です。身体能力については朝未様も揺様も負けていません。それに加えて朝未様の補助魔法があるとなれば、身体能力的にはこちらが優位と言えるでしょう。さらに空を飛び手が出せないというのも朝未様の魔法や、矢へのエンチャントを考慮すれば失当といえます。強靭な肉体による耐久性につきましても朝未様や揺様の聖属性により相性的に圧倒的に優位です。唯一の懸念材料は伯爵級ヴァンパイアが持っていた魔剣ですね。あれは少し危険だったと思います。とはいえそれでも、これらを総合的に考えあわせれば、どの程度の余裕があるかまでは言えませんが、あの頃であっても負けることは無かったと思います」
マルティナさんの予想を聞いて、ちょっとだけほっとしつつ話を続ける。
「あとは、現地でどうやって勇者パーティーと接触するかですね」
「そう、だね。おそらくは、護衛という名前でもつけて監視はついているだろうから簡単には……。いや、接触だけなら日本語で羊皮紙にメモをして渡せばなんとかなるかな」
「揺様、羊皮紙など手渡していては監視の者にきづかれると思いますが」
「手渡しならそうだろうね。私はそのメモをうっかり勇者パーティーの前で落としてしまうんだよ。そして、勇者がそれを読んでくれれば最低限の情報は伝えられると思う。あとはダミーとして商人の仕入れリストのようなものを書いておけば大丈夫だろう。あ、監視者も翻訳の魔法道具を持っていたりするとまずいかな?」
「トランルーノ聖王国国内ですので、監視の者が翻訳の魔法道具を所持していて、しかも使用しているということは無いかと思われますのでそのあたりは大丈夫だと思います」
そんな事を計画していたのだけど、馬車でなら20日は掛かる道程を3日で走破しオペドに到着したあたし達は、その計画を破棄するしかなかった。
オペドの街でまずは情報収集と街を歩いていると、騎士らしき一団が街の門から入ってきた。
「隊長、良いのですか?勇者を放置して」
「かまわん。というよりも、やむを得ないだろう。我々があそこに居ても無駄に屍をさらすことにしかならん」
「それは……」
「それに、あいつらも勇者と言われるだけあってそれなりに強いからな、ひょっとすると、相打ちくらいにはなってくれるかもしれんぞ」
それなりに声を潜めてはいるけれど、高性能になったあたしの耳にははっきりと聞こえてしまった。
横を見ると瑶さんも顔を顰めている。
「朝未、全力の探知魔法で場所は確認できないかな?」
瑶さんの指示に、慌ててマナセンスを今のあたしに出来る最大で展開する。ヴァンパイアと勇者なら探知範囲にいればそれなりに強い反応があるはず。
「あたしの魔法の探知範囲にはいません」
「朝未様の探知魔法で見つけられないのでしたらハンターギルドでヴァンパイアについてと言う形で聞くのが良いと思います。わたし達は4級ハンターです。それなりに優遇されますから、情報も手に入ると思います」
あせるあたしと瑶さんにマルティナさんが声をかけた。
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