第190話 戦利品

ゴーレムを斃したあと、あたし達は、しばらくの間様子を見ていた。


「これ以上は様子を見ていても意味が無さそうだね」


そう言いながら、あたしに視線を向ける瑶さんに、ちょっとだけあたしは溜息をついた。


「はいはい、ストーンミサイル。あまり広がりませんね」


少しだけ広がった穴に、ちょっとだけ面倒くささを感じて、あたしは少し魔法を弄る。


「ふたりとも少し下がってもらっていいですか?ええ、そのくらいで。ストーンレイン」


ふたりが安全な場所まで下がったところで魔法を撃った。

ガガガと大量の石のつぶてが壁一面にぶつかり広い範囲を削っていく。

地属性のストーンレインを少し弄ってみたら出来たわね。これは言うなれば普通のストーンレインが、上から勢い良く石を投げ落とすのに対して、範囲を絞って、その方向を横に向けた魔法。


「朝未、今の魔法は?」

「ストーンレインを横方向に降らせてみました」


あたしの言葉に瑶さんもマルティナさんもちょっと頬を引き攣らせているわね。


「魔法のアレンジってそんな簡単なんだ……」

「まあ、この辺りはイメージで……。暴風雨だと雨だって横殴りになるじゃないですか。そのイメージですね」


瑶さんの言葉に、返事をしながら魔法で大きくなった穴に近づいていく。


「朝未、待った」


穴から隠し部屋にあたしが入ろうとしたところで、瑶さんのストップが掛かった。


「え?何かありました?」

「何かじゃないよ。初めての場所に無警戒に入ろうとするなんて危ないからね」

「むぅ、無警戒じゃありません。探知魔法で魔物や悪意のある存在がいないことは確認してますよ」

「朝未の探知魔法は優秀で、頼りにしているけど、例えば落とし穴はグラウンドセンスで分かるか。そうだね、例えば侵入すると矢を射掛けてくる罠があったらわかる?」


瑶さんの言葉に、あたしは言葉をとめた。


「わからないかもしれませんけど、矢が飛んで来れば避けられると思います。避けられなくてもリフレク掛けておけば……」

「うん、朝未の能力なら多分避けられるし、リフレクの効果もあるね。でも、それは矢が1つだけだった場合じゃないかな?朝未の避けられないような矢が3本5本と飛んで来たら?罠だったらありうるからね。そこでケガをしたり、あまつさえ意識を失ったら?私達もポーションを持ってはいるけど、朝未の治癒魔法程の性能はないからね。そういう意味でも、そこでリスクを引き受けるのは私の役目だよ」

「瑶様、むしろそこはわたしが……」

「いや、マルティナさんより私の方が耐久力がありますから、これは私の役目です」


そう言うと瑶さんは、まず手だけを出して様子をうかがい、何も起きないのを確認すると、次は慎重に入っていった。


「瑶さん、大丈夫?」


瑶さんは、あたしの声に軽く手を振って応えながら、周囲を見回している。


「うん、多分大丈夫。2人とも入って来ていいよ」


一通り確認して、手招きする瑶さんに、あたしとマルティナさんは素直に隠し部屋に入った。


「何もない?」

「パッと見たところ、目に付くのはゴーレム自体以外には、ゴーレムが座っていた石くらいですね」

「あ、向こうにドアみたいなものがありますね」

「どうやら、本来の入り口はあちらだったようだね。それを朝未の魔法で裏口から押し入ったような感じになったわけだ。あとで一応ドアは確認しておこうか」


瑶さんがドアを見やりながらつぶやいた。


そしてマルティナさんがゴーレムを槍の石突で突いている。

そちらはまかせて、あたしは罠を警戒しつつゴーレムが椅子にしていた石を確認にむかう。


「朝未、罠が無いと決まったわけじゃないから、くれぐれも慎重にね」


瑶さんが、あたしの横に来て注意をしてきた。


「はい、でも、あとはあの石を調べるくらいしかないですよね」


調べようと石に近づいていく。


「朝未!!」

「え?」


突然瑶さんがあたしを抱き寄せた。


「な、え?瑶さん、こんなところで急に……」


混乱するあたしに瑶さんが床を指さした。


「そこの床が、他と違う」


ビックリしたわ。ドキドキと高鳴る胸をおさえ、瑶さんが指摘したところをよく見ると、石を調べるのにちょうど立つと思われる場所を囲うように細い線が見える。


「罠?」

「わからない。でもそのつもりで行動した方がいいだろうね」

「こういう時には罠に詳しい人がいてくれると助かるんですけどね」

「まあ、この辺りは少人数パーティーの弱点だね。私達のように色々秘密を抱えていると簡単にパーティーメンバーを増やすのも難しいからね。とりあえず、そこは踏まないようにして調べようか」

「はい」


見ていくと、石には横にまっすぐ線が見える。


「瑶さん、これは……」

「フタ、かな?」

「開くかしら?」


「さすがに、これが罠はないかな?朝未、そっちをもって。私がこっちを持つから開けてみようか」

「はい」

「マルティナさん、見ていてくれるかな。何かおかしなことがあったらすぐに言って欲しい」


そして、あたしと瑶さんで持ち上げた下は、箱になっていた。そこにあったのは、


「盾、だね」

「盾、ですね」


1メートル弱の元の世界でならカイトシールドと呼ばれる盾が1つ収められていた。

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