第191話 途中報告

「揺様、その盾は揺様が装備されてはいかがですか?」


見つけた盾を見てマルティナさんが提案してきた。確かにあたし達の中で盾を装備するのなら瑶さんだとは思う。

でも、魔法のある世界なのよね。呪いもあるんじゃないかしら。


「ありがとう。一応専門家に見てもらって、私が装備して問題無さそうならそうさせてもらうよ」


さすが瑶さん。マルティナさんの好意を認めたうえで、危険は回避したわね。


「今回の成果は、この隠し部屋の発見とその盾でいいですよね。トランルーノ聖王国の動きも気になりますし、そろそろ一度クリフに戻りませんか?」

「そうだね、この至らずの洞窟にもぐり始めて10日ほど、ギルドに頼んである情報収集も気になるし、一度戻るのも良いかな」


ハンターギルドを始め各ギルドの持つ魔法道具。ギルドはその魔法道具で物こそ運べないものの情報のやり取りは出来るとのこと。4級ハンターとなったあたし達は、比較的自由にその魔法道具を利用した情報収集をハンターとギルドに依頼できる。

今は、トランルーノ聖王国でのヴァンパイアの動きについて情報を集めてもらっているところ。それなりにお金は掛かるけれど、自分達で聞いて回るより早いし、ギルドの情報ということで信頼性も高い。それに調べてもらっている時間を自分達のために使えるのが大きいのよね。





「パオラさん。ただいま」

「あ、アサミ様。おかえりなさい。ヨウ様もマルティナも。10日ぶりくらいですね。今日は換金ですか?」

「ええ、それと例の場所の探索の途中報告です」

「あ、それじゃこちらへどうぞ。ギルマスから皆さんがみえたら奥に案内するように言われていますので」


そしていつもの部屋に案内された。


「では、ギルマスを呼んできますので、少々お待ちください」


そういうとパオラさんは、あたし達をおいて部屋を出ていく。


「あたし達がトランを離れて1月半。そろそろトランで動きがあっても良いころですよね」

「そうだね。ギルドにどんな情報が入っているか……」

「少なくとも、何かあったからこの部屋なんですよね」

「だろうね、情報が無ければ、まだ無いって言えばいいだけだからね。それに……」

「それに?」

「この部屋で話すってことは、表ざたに出来ない情報が混ざっているのかもしれない」

「え?ちょっと不穏なんですけど」

「まあ、他にもまがりなりにも、私達はお金を払っているんだからね、その情報が他の人に伝わらないようにって配慮からかもしれないかな」


そんな話をしながら待っていると、ノックの音が聞こえた。


「どうぞ」


瑶さんが返事をすると、ドアが開き優男風の人が入ってきた。ギルドマスターのアイノアさん。この人これでも女性なのよね。

あたし達は立ち上がって迎える。


「こんにちは。暁影のそらのみなさん。待たせて悪かったね」

「いえ、お忙しい中、対応ありがとうございます」


いつもの通りこういう対応は瑶さんにおまかせ。


「まあ、とりあえず、座ってくれ」

「失礼します」


あたし達は一礼してアイノアさんの向かいの席についた。


「まずは、報告を聞こうか」


瑶さんがあたしたちに目配せをしたので、軽く頷いてお願いをする。


「では、私から説明させていただきます。まず、クリフ周辺の魔物の状況ですが、前回私達が確認した時とほぼ同じ状況ですね。むしろクリフのハンターが頑張ってくれたからでしょうか、少しばかりアンデッドの減少が感じられました」

「ふむ、それは他のハンターからの報告とも一致する。安心材料のひとつだな。それでもうひとつの方はどうだ?」


もうひとつの方。至らずの洞窟の件ね。


「以前、勇者と聖女が探索した部分のおよそ7割程度を再探索しました」

「ほう、思ったより進んでいるな」

「その部分での魔物は記録にあったものと一致しました。それと記録にありました宝箱は全て空のままでしたね」

「ふむ、普通のダンジョンであれば、ある程度の時間経過で宝箱は復活するのだが、あそこは少しばかり違うようだな。となると、あとは過去に探索された残りを確認したうえで、その先か……」


「いえ、それ以外に隠し部屋を発見しました」

「隠し部屋だと⁉」

「正確には、探索済みの通路の壁の向こう側に別の部屋があったということですが。別の場所に扉があったので正規ルートでの場合はその扉から入るものだと思います」


そこで、部屋での出来事を簡単に説明するとアイノアさんは眉をしかめた。


「隠し部屋と盾か。その盾は、持ってきているか?」


アイノアさんの質問にあたしは、マジックバッグから見つけた盾を取り出して見せる。


「ほう……」


盾の確認をするアイノアさんに、少し緊張をして待っていると、満足したようにアイノアさんが盾をあたし達に返してきた。


「どんなものかわかりますか?」

「いや、銘も紋章なんかも無いし、なんとなくマジックアイテムぽくはあるが、それ以外は私の見たことの無い材料で作られているとしかわからんな」

「そうですか。この盾を鑑定するというか、これがどういうものかを調べることの出来そうな方を知りませんか?」


アイノアさんが少し考えこんだ。


「そう、だな。紹介状を書いてやるからグライナーの鍛冶師ジョヴァンニと魔法道具制作者のフェデリカに相談してみるといい」

「ありがとうございます。今のところ私達から報告できるのはこの程度ですね」

「うむ、わかった。これからも時間のある時で構わないから探索を進めてくれ」


「それで、私達が依頼していたヴァンパイアの動向については?」


瑶さんが口にした言葉に、アイノアさんが渋い顔で口をひらいた。

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