第188話 隠し部屋

「えええ、あたしの防具だけ全部ですか?」

「そうだ」

「なぜです。前衛の瑶さんが一番怪我をするリスクが高いじゃないですか」

「いや、やはり優先すべきは朝未の生存率向上だよ」


ミーガンさんをエルリックまで護衛したあたし達は、護衛契約の更新をせず、一旦クリフに戻った。そこで、今のうちに防具をという事になったのだけど、何故か瑶さんが、あたしの防具だけを全てシルバーメタル製のものに替えると言い出した。


「むぅ、あたしだけ特別扱いは嫌ですよ」

「もちろん、全員の防具を揃えられるのなら、それが最善だよ。でも、残念ながらそれだけの資金はさすがに無いからね」

「だからって……」


「もしもの時、朝未さえ生きていてくれればやり直せる可能性があるからね」

「あ、リザレクション……」

「リザレクションだけじゃないよ。リザレクション以外の治癒魔法も朝未の聖属性魔法は隔絶した能力がある。だから朝未は行動不能になってはいけない、絶対に死んではいけない」


「でも、瑶さんやマルティナさんに目の前でもしもの事があったら冷静になれる自信ないです」

「それでも、だよ。そこで冷静でなくても朝未が生きているだけで可能性が残るんだからね」

「そんな……」


「もちろん、私だって死にたいわけじゃない。生き残るための現状の最善が朝未の防御力を高めることだってことなんだよ」


そんなやり取りの結果、あたしの防具は全てシルバーメタル製に更新され、素の状態でさえ、ちょっとした魔物の攻撃は通らなくなった。当然そこにあたしのエンチャントが入れば、更に言うまでもない。今なら、あの伯爵級ヴァンパイアの攻撃も躱す必要さえないかもしれない。




そんな準備を進める傍ら、あたし達はクリフ周辺のアンデッドの討伐をしつつ、至らずの洞窟の探索を始めていた。


「これも空ですね」


槍の石突で宝箱のフタを開け確認したマルティナさんが溜息と一緒に呟いた。その際に何かが飛び出してきたのだけど、あっさりと躱して大したものじゃないという雰囲気なのは流石ということかしら。

毒耐性とか考えたらあたしか瑶さんが開けるのが良いと言ったのだけど、


「これはわたしの役目です」


とマルティナさんが譲らなかった。


至らずの洞窟にはところどこに宝箱が置かれていて、いかにも何かありますという雰囲気を醸し出している。

一応、事前情報で、それらは以前の勇者と聖女のペアが確認済というか回収済という事だったのだけど……。


「数十年の時を経ても復活するものでは無いって事だね」

「さすがにゲームの宝箱とは違って復活はしないみたいですね」

「有用なアイテムだったそうだから、残念ではあるけどね。それでも、最奥まで踏破済みとうわけでは無いようだから、奥にある宝箱に期待しようか」

「そうですね。それにしても魔物は復活するのにアイテムは1度きりって思うようにはいかないものですね」


そこで瑶さんがこちらに来て1年、未だに壊れずに動いてくれている腕時計に目を向けた。


「あと、枝道1本くらいかな?」


瑶さんの言葉にあたしとマルティナさんが頷く。ここ多分ダンジョンだと思うのだけど、外の様子が分からないから時間の感覚がおかしくなるのよね。あのごつい腕時計には助けられているわ。


「それなら、本道に戻って100メーグくらい進んだところの枝道がちょうどいいと思います」


あたしは、ギルドで受け取ったマップを見ながら答えた。瑶さんとふたりだけならメートルの方が分かりやすいけど、マルティナさんも一緒なのでこの世界の単位に換算して話している。

あたし達は、まだ浅い場所ということで魔物というか魔獣はホーンラビットしか出てこない通路を確認していく。このホーンラビットというのは見た目はそのまま角のある兎。大きさも50センチくらいであまり強くない。マルティナさんが言うには角が何かの薬の材料になるほか、肉も珍しく食べられるらしい。珍しく聖属性魔法が効かないのが地味に面倒くさいけど……。

そして、今日最後と決めた枝道の最奥で、あたしの探知魔法に反応があった。


「あら?珍しくグラウンドセンスに反応があります」

「グラウンドセンスに?でも、もう行き止まりだよ」

「ええ、見た目は確かにそうなんですけど……、このあたりの向こう側に空間があるみたいなんです」


あたしは、そう言いながらガントレットを付けた拳でコンコンと叩いて音を確認する。


「多分、グラウンドセンスの反応からするとこのあたりに……」


そしてガントレットに多めの魔力をつぎ込んでエンチャントをして、壁を殴ってみようと振りかぶった、そのあたしの腕がグイと引き留められた。

見ると、苦笑した瑶さんに掴まれている。


「朝未、いくらエンチャントしたからって無駄に装備を消耗させるのはいただけないよ」

「でも、武器で殴ったらもっと傷みますよね」

「いや、朝未なら魔法があるよね。ストーンミサイルあたりなら良いんじゃないかな。それに、その空間に敵の反応は?」


瑶さんに指摘されて、あたしはポンと手を打った。


「あはは、つい攻撃魔法ってあたしの場合、聖属性と火属性の先入観があってうっかりしてました。それと空間にはマナセンスにもマインドサーチにも反応ありません」


瑶さんに返事をしたうえで、魔力をどのくらい込めるか少し考える。

あまり強い魔法をぶつけて崩落とかしたら嫌だもの。少な目が良いわね。


「ストーンミサイル」

「びくともしないね」


あら?いくら普段あまり使わない魔法と言っても発動体を装備したあたしの魔法を弾くとか、これ普通の壁じゃないわね。

それでも、さっきより少し多め大体倍くらいの魔力を込めてストーンミサイルを放つ。

今度は、大きめの穴をあけることに成功した。


「ちょっと広めの空間に、石像?」


穴から覗くとバスケットコートくらいの広さの空間にこちら向きで椅子に座ったような石像が確認できた。大きさは座ったままの状態で高さ2メートルくらいかしら。

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