第187話 魂の婚姻と過剰戦力

それまで唖然としていたマルティナさんが今は満面の笑みを近寄ってきた。


「朝未様、瑶様。ご成婚おめでとうございます。しかも、魂の婚姻とは従者として無上の歓びです」

「でも、あたしいきなり夫婦って言われてもどうしたらいいのか……」

「そこは、今まで通りでよろしいかと思います」

「今まで通り?」

「はい。おふたりの関係性つきまして、わたしから見ればお子をなしてこそおられませんが、すでに事実上のご夫婦と感じておりました。ですから今まで通りでよろしいかと思います。それにハンター同士の夫婦は仕事の都合もあり、子供はある程度余裕が出来て定住するようになってからというのが多いですから不思議なことはありません」



「それにしてもココネさん、アクセサリータイプの魔法の発動体を異性がつけると、みんな夫婦になっちゃうんですか?」

「そんなわけは、ないだろうが。我も魔法道具屋を営んで20年を超えるが、見たのは初めてだ。アサミとヨウはそれほどに強く魂が結びついているということだな。神の加護とは少々違うが、お互いの魂の絆による夫婦加護とでもいうものがふたりを守ることだろう」


これは、まさかのあたしの妄想が事実になって更に斜め上の展開ね。瑶さんを見ると、何か困った顔をしているわね。


「揺さん。あたしと夫婦って言われるの瑶さんは嫌ですか?」

「嫌、と言うのとは違うよ。朝未は、可愛いし、好きとか嫌いかと言えば好きだしね。ただ、年齢のこともあるし、日本での常識も私の中にはあるからね。なんというかいきなりな展開で困惑している感じだよ」

「あたしは、瑶さんとなら嬉しいけど……」


瑶さんの戸惑う言葉につい言葉をもらして、自分の言葉に気付いたあたしはとっさに横を向いて話題を変えるためにミーガンさんに声を掛ける。


「そ、それより。これでトランで揃えられる装備は揃ったんですよね。ミーガンさん、ミーガンさんの予定はどうなってますか?」

「……。まあ、アサミ様も照れくさいのでしょうからいいですけど……。持ち込んだ魔石は売り切れました。仕入れも今日には終わる予定ですので、明日にはトランを発ちたいと思います」


「目的地はエルリックということで良いんですよね」

「はい、トランで作られた魔法道具はベルカツベ王国では良い値段で売れますからね」


「それなら。瑶さん、マルティナさん、今日の午後はトラン周辺の魔物相手に新しい装備の確認ですね」

「そ、そうだね。おろしたままの装備で強敵と戦うというのは無謀だからね。マルティナさんもいいね」


「はあ、おふたりとも、今更でしょうに。まあ確かに武器の確認は必要ですから構いませんが……」





そして今あたし達はトラン近郊の森に来ている。この森は以前なら魔物なんか出なかったらしいのだけど、最近では低位から中位のアンデッドが徘徊する森になっているとのことだった。


「朝未、どうかな?」


探知魔法を展開しているあたしに瑶さんが様子を聞いてくる。


「うじゃうじゃいますね。とりあえず、左前方のスケルトンらしき群れが手ごろだと思います」


20体ほどの群れを選んで誘導する。


「見えた。まずはエンチャント無しの素の状態で切りつける」


瑶さんが先頭を切って駆け出した。マルティナさんが続き、あたしも遅れずに駆ける。

瑶さんが剣を振るう。銀色の剣尖に3体のスケルトンが纏めてふたつに分かれた。骨の集まりのスケルトンが砕けるのではなく、切り裂かれた?


次は自分の番とばかりにマルティナさんが槍で突く。こちらも鋭い。まるで抵抗を受けていないように突き抜けた。でも、槍の場合はスケルトン相手だと砕けた方がダメージ大きそうだからちょっと微妙ね。


そして次はあたし。短剣を横薙ぎに振るう。当たっているのは間違いないのに、まるで素振りのように振り切れた。銀色の光が弧を描きスケルトンの上半身と下半身が分かれる。


「凄い。こんなに違うんですね」


揺さんも、マルティナさんもあまりの武器の性能に驚いているわね。


「これは、確認に来ておいてよかったですね」

「そうですね。いきなり強敵との戦闘で使っていたら戸惑いからスキを見せたかもしれませんね」


「次は、それぞれにエンチャントして攻撃を」


揺さんの言葉にあたしもマルティナさんも自らの武器に魔力を纏わせる。マルティナさんの魔力は聖属性ではないけど、今のうちに攻撃力アップの程度を確認しておいた方がいいわよね。


武器に魔力をエンチャントする。


「え?凄い。ものすごくスムーズに魔力が伝わりますね」

「ええ、わたしでも楽にエンチャント出来ます」


あたしが思わず漏らした言葉に、マルティナさんも同意してくれた。

そして、エンチャントした武器を振るう。するりと振り抜いたその場に、崩れるスケルトン。

うん、そのまま消える以外エンチャントの有無の差がわからない。消えるのは聖属性の力だものね。


「ねえ、瑶さん。武器の性能が高すぎて、このあたりの低位アンデッドだとエンチャントの効果が分からないことありませんか?」


群れを殲滅したあとのあたしの言葉に瑶さんも苦笑しつつ頷いてくれる。


「かといって、明日からミーガンさんの護衛ってことを考えれば、あまり奥に入るのも考え物だからね」


瑶さんは少し考えるそぶりのあと諦めたように口を開いた。


「このあたりで確認できることはもう無さそうかな?」

「あ、瑶さん、待って。あたし、まだ魔法を撃ってません。ココネさんのところで的に向けて撃って威力が上がっているのは間違いなさそうだって事だけはわかってますけど、せめてホーリーをどこかで使ってみたいです」


最終的に、あたしが最小限で使ったホーリーは20体を超えるアンデッドの群れを一瞬にして魔石の山に変えたのを確認して、あたし達はトランに戻った。

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