第186話 魂の絆

翌朝、あたし達はココネさんの店に魔法の発動体を受け取りに来ている。

お値段も、ちょっとビックリする値段。この世界では、ハンターとしてかなり稼いでいるあたし達だけれど、この2日でかなりお財布が軽くなってしまった。


「シルバーメタル製の武器より高いんですね」

「そりゃそうだ。こいつには、というか魔法の発動体にはミスリルが使われているからな」

「え?じゃあ杖とか大変なことになるんじゃありませんか?」

「いや、杖なんかの場合には魔法に親和性の高い素材をベースに使うからむしろ必要なミスリルの量は少なくなる。結果として同じ性能なら杖の方が安くなるんだが、その代わりに他の武器を持てなくなるからな。アサミの場合はアクセサリータイプ一択だったわけだ」

「す、すごく貴重なものなんですね」


そして、ココネさんは細かい細工の施された小さな箱を出してきた。


「さ、ヨウ」

「え?それは朝未の発動体では?」

「そうさ、だが、指輪でもある。こういうのは近しい男がつけてやるもんだろう?」

「近しいって、いや、朝未と一番親しい男は私だとは思うが、そういう関係ではなくて……」

「ああ、もう、そういうのはいいから。だいたい、こんな可愛いアサミのどこが不満なんだ?」

「不満とかそういうのではなくてですね、朝未は、私のバディであり、被保護者で……。あ、それに年だって離れていて……」

「アサミには、どう見ても保護が必要なようには見えないぞ。それに年の差って言うが、アサミは見た感じ20代前半、ヨウは20代後半だろう。むしろちょうどいい年の差じゃないのか?」

「いや、朝未は、この国の数え方で16歳、私は50に手が届く年代ですよ」


瑶さんの言葉にココネさんは目をみはり頷いた。


「うむ、なるほどな。となればなおさらだ。お前たち高位のハンターは寿命があってないような存在になっているはずだ。そんな数十年程度の年の差なぞ関係ないくらいにな。となればむしろ、一般人を相手にするのは難しいと思うがな。まあ、いい。とりあえず今回はヨウがつけてやれ。縁起担ぎの儀式みたいなもんだ」

「縁起担ぎ?」

「ああ、近しい異性が危険に合いませんようにってな」


あ、揺さんがちょっと悩んでる。


「わかりました。発動体を貸してください」

「おう、アサミの左手の薬指にサイズを合わせてあるからな」


あ、揺さんが固まった。あたしだってドキドキしてるわよ。この世界ではどうかしらないけど、日本で左手の薬指に指輪を男の人にはめてもらう意味は知ってるもの。

あ、それでも揺さんが覚悟を決めたような顔で近づいてくる。


「朝未」


揺さんが、名前を呼んであたしの左手をとり、そっと指輪を薬指にはめてくれた。


「揺さん」


あたしの顔をきっと真っ赤になっているはず。


「これからも朝未は、私が守ろう」


「ほら、そこで、指輪にキスをして誓いの儀式は完了だ」


え?ココネさん。そこまでするの?唇じゃないだけマシ?

でも、ちょっと残念に思う気持ちがあるのは何故?

あたしが混乱している間に瑶さんがあたしの手に唇を寄せていた。


「え?」


その瞬間、指輪からあたしの中に何かが入り込んできた。


「ん、アサミ。どうやら正解だったようだな」

「正解って、どういう事ですか?」

「今の誓いの儀式。お互いの絆が強固なものであれば、ある種の祝福がもたらされると言われていてな。それによってそのアクセサリーを着けた者を守るんだそうだ」

「絆……」


あたしと瑶さんの絆。一緒に転移してきてずっと一緒に過ごしてきた。

最初は、守られるだけだったあたしに、色々な事を教えてくれて、強くなった今でも守ってくれている。

そんなことを考えているとココネさんが、とんでもないことを口走った。


「これで2人は夫婦だな」

「……」

「……」


あたしと瑶さんは顔を見合わせ、お互いに首を傾げた。


「ココネさん、いま、なんと言われました?」

「これで2人は夫婦だと言いましたが、何か?」

「いや、結婚の手続きとか本人の意思確認とかすっとばしているんですが」


何を言っているのかわからないようなココネさんの顔に理解の色が浮かび、その手を打ち合わせる。


「ああ、これはあまり一般の方は知らないんだったな」


ココネさんが説明を続けてくれた。


「確かに一般的な結婚というのは神殿に届け出るものだ。だが例外があってな。それが、魂の婚姻と呼ばれるものだ」

「魂の婚姻ですか。それはいったい?」

「詳しくは分かっていないんだが。一般の婚姻が人の手による形式的なものであるのに対し、魂の婚姻とは、魂同士の結びつきによりなされると言われている。さっきアサミに指輪をさせたときに指輪を通して特別なつながりが出来ただろう、それがその現れ方のひとつなんだ。神殿での婚姻よりよほど上位だぞ。なにしろ魂の夫婦だからな」


「あ、あたしと瑶さんが夫婦?」


あたし達は呆然として立ち尽くしていた。

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