第185話 発動体
ガルシアさんが言うには、
「市場に流れる武器としてこれ以上は無い」
というシルバーメタルの武器を、家が何軒か建ちそうな金額であたし達は購入した。なんでも、これ以上となるとミスリルやらオリハルコンやらのほとんど伝説みたいな金属が必要らしい。
「ミスリル」「オリハルコン」心がざわつくわね。これが中二病?あ、あたしは中1だったけど。そう言えばこの世界に来て1年経ってるわね。え、あたし中二病?
大丈夫よね、まだ自覚できてるからきっと。それに、ミスリルもオリハルコンもこの世界では実在の金属。だからセーフ。夢想しているんじゃないからセーフよね。
「朝未、ニヤニヤして赤くなったり、顔をひきつらせたり、どうしたんだ?」
「い、いえ、なんでもありません。それよりも、さ、さあ、ミーガンさん魔法道具屋はどちらですか?」
誤魔化すあたしに、不思議そうな視線を向ける瑶さんとマルティナさんだったけれど、それ以上は突っ込んでこなかった。その辺りの機微が分かるのも助かるのよね。
「え、ええ。こちらです。しかし、アサミ様が発動体をお持ちでなかったのは意外でしたね」
「そうですか?」
「ええ、発動体無しであれだけの魔法が使えるとは、さすがは1年で4級まで上がるハンターと言うべきか、それだけの力をお持ちだからこそ上がられたと言うべきか……」
「あはは、持ち上げすぎです」
聖女とかの件はさすがにミーガンさん相手とは言え不必要に口に出来ない。
そしてミーガンさんの案内で立ち寄った魔法道具屋。ちょっと変わった物が並んでいてあたしの好奇心を刺激するのよね。
「それは、虫よけの魔法道具だな」
あたしがランタン型の魔法道具を見ているところに声が掛かった。
「え?」
「おう、驚かせたか。我は、ココネ。この店の主だ」
あたしが振り向くとそこにいたのは、見た目40歳くらいの長い銀髪を編み込みにした女性。
「ココネ。久しぶりです」
「おう、ミーガンじゃないか。今日は仕入れか?今トランは知っての通りの状況だからな、物はあるが……」
「いえ、今日はこちらのアサミ様の魔法の発動体をさがしにきたのです」
「魔法の発動体?」
ココネさんがあたしをジロジロと頭の上から足の先まで値踏みするように見てきた。さすがにちょっと居心地が悪いわね。
「魔法使いには見えないが?むしろ装備からしたらスピードタイプの前衛に見えるんだが……」
「アサミ様は、並みの戦士より剣も使えますが、本領はその強力な魔法です」
「ふーむ、まあ、良い。どの程度の魔法を使うのかは知らんが、魔法を使うというのなら発動体は効果があるだろう。で、どんなのが希望だ?」
「朝未です。主力は魔法ですが、剣もある程度使えます。なので剣を振るのに邪魔にならないタイプの発動体が欲しいんですが」
「定番の魔法の発動体は杖なんだが、剣を使うとなれば、選ぶわけにはいかんか。いくつか出してやる気に入ったものを選べ」
そう言ってココネさんが出してくれたのは、色々なタイプのアクセサリー。ピンクのバレッタ、シルバーのネックレス、虹色に光るイヤリング、金色のバングル、……、どれも色とりどりの石が、はめ込まれている。
あたしの目にとまったのは、シルバーのリングに鮮やかなブルーの石が埋め込まれた指輪。
「あ、あの、選ぶ基準とか、効果の違いとかありますか?」
「ん?それが気に入ったのか?気に入ったのならそれで構わんぞ。選ぶ基準ってのは個々人との相性だけだからな。相性の良い発動体には自然と手が伸びる。気に入ったってことは相性が良いってことだ」
「相性ですか」
「不安なら、裏に魔法の試射場がある。発動体の有り無しで試してみるといい。なんなら他の発動体も試してみるか?」
ココネさんに言われるまま、魔法の試射場に足を運ぶと、そこには以前エルリックでニコレッタさんに教えてもらっていた時に使ったのと似たような的が置いてあった。
「さ、やってみな」
ココネさんに促されて、あたしは的に向かいあう。
使う魔法はファイヤーアローで良いわね。発動速度重視で、魔力も控えめの方が分かりやすいかしらね。
最初は発動体無しで……。
「ファイヤーアロー」
「な、無詠唱!!」
後ろでココネさんの声が聞こえたけど、もうこれは仕方ない。いまさら詠唱とか面倒すぎるもの。
次は、発動体を着けて、まずはバングルで試してみよう。
「ファイヤーアロー。え?」
まるで感覚が違う。魔力の動きがいつもよりスムーズで発動が速い。威力も上がってるんじゃないかしら。
「ふふ、大分違うだろう。次はアサミが気に入っていた指輪を試してみるといい」
ココネさんの言う通りなら、この指輪を発動体として使ったら……。
あたしはごくりと息をのみ、的に視線を向ける。
「ファイヤーアロー」
さっきのバングルを使った時にも違いがはっきりあったけど、これはもっと次元が違うわ。発動の速さ、魔力の動きのスムーズさ、魔力の効率、そして……
「もたなかった、だと?」
あたしの視線の先にはファイヤーアローが貫通した的を呆然と眺めるココネさん。
「いやいや、なんでだ?今のはファイヤーアローだよな。フレアアローじゃないよな。いや、フレアアローでも耐えるはずなんだぞ。しかも破壊じゃなく貫通っていったい?」
「この発動体すごいです。スムーズで効率も上がって、楽に発動しました」
あたしは、嬉しくて頬が緩むのが止められない。
「じゃあ、明日には渡せるようにしておく」
「お願いします」
少しだけサイズの合わない指輪を、サイズ合わせをしてくれるというココネさんに預け一旦宿に戻った。
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