第184話 装備更新

ギルドでの情報収集を済ませ、あたし達は今、宿で打ち合わせをしている。


「とりあえず、今すぐに勇者達と接触するのは難しそうだけれど、多少の時間はありそうだね」

「ええ、2カ月程度でしたか」


「おふたりが勇者救出に動きたいというのは理解しましたが、ミーガン殿の護衛はどうされるのですか?」


あたし達の話を聞いたマルティナさんが、当たり前の疑問を向けてきた。


「もちろん安全な町までは護衛は続けるよ。恐らくエルリックまで行けばひと息つけるだろうから、そこからかな」


うん、あたしもここまで友好関係にあるミーガンさんに不義理はしたくないもの。現状でならエルリックまで護衛をして、そこで一旦わかれて勇者達を開放するように動くのが現実的だと思う。


「わかりました。それなら結構です。ハンターが依頼を途中で放り出すのは信用にかかわりますので、そこだけが心配だったのです。エルリックまで護衛したうえでというのであれば十分ともいえるでしょう」


マルティナさんも一応納得してくれたのでホッとした。


「あと、本当は装備も強化しておきたいところではあるんだけど、時間がないな」


瑶さんが心配しているのもわかるのよね。あたし達の装備はクリフに拠点を定めたときにグライナーで揃えたもの。悪くは無いし、エンチャントを使えるようになった今なら、かなりのものではあるけど、最高ではないのよね。当時まだお金の問題でこれ以上のものは買えなかったから。


「ならば、武器だけでも探してみてはいかがでしょうか?防具はそれぞれの身体にあったものを作る必要がありますが、武器ならば良いものが売られていればそれを手に入れても良いと思います。幸いと言ってはなんですが、ここトランはトランルーノ聖王国の聖都です。かなり良いものが手に入る可能性があります。それと、朝未様はずっと短剣のみ装備されていますが、これを機会に魔法の発動体を持たれるのも良いかもしれません」

「魔法の発動体、ですか?無くても、あたし魔法使えてますけど、必要ですか?」


マルティナさんの提案にあたしは首を傾げた。魔法使いの杖的なものよね。


「ええ、わたしは魔法使いではありませんので詳しくはないのですが、魔法の発動が楽になるとか、発動が速くなるといった効果があると聞きます」

「へえ、魔法使いの杖みたいな感じなのかしら?」

「そう、ですね。多くは杖ですね。ですが、朝未様の場合、剣も使われますのでアクセサリー型の発動体がよろしいかと思います。剣の柄に仕込む場合もあるようですが、それですと剣を手放すと効果が無くなります。せっかくなら剣を失っても効果があった方が良いですから。特に動きの邪魔にならず、活動時に引っかかったりしないという意味で指輪型があれば一番かと」

「指輪型の魔法の発動体……」


一瞬、瑶さんに指輪を着けてもらうのを想像して心臓の鼓動が跳ねた。

違う、その指輪はそういう意味じゃなくて、あたしの魔法を補助してくれる物。そう武器防具の一種よ。


「朝未様、大丈夫ですか?お顔の色が……」

「だ、大丈夫です。なんでもありません」


あたしは、横を向いて火照った顔を手で扇いで冷やす。


「でも、武器屋さんとかわからないですよね」


そして、ちょっと動揺したのを隠すのも兼ねて話題も少し変えてみた。


「そこはミーガンさんに紹介してもらえば良いんじゃないかな?本職じゃなくても商人だから多少は知ってると思うし。ほらエルリックでも紹介してくれたよね」




「そんなわけで、武器や魔法の発動体を扱っているミーガンさんお勧めのお店を紹介してもらえませんか?」

「突然ですね。みなさん今でも十分にお強いじゃないですか」

「今までは、確かに十分だったと思います。でも、最近のアンデッドの出没状況を鑑みるに、出来る限り強化しておいた方が良いかと思いまして。お金は魔物から身を守ってはくれませんから」


同じ宿ということもあり、夕食はミーガンさんと一緒に食べているので、その席でちょっとお願いをしてみた。


「まあ、余裕があるうちに強化するのは悪くない考えだとは思います。わかりました、何軒か心当たりもあります。明日にでもご案内しましょう」

「助かります。ところでミーガンさん、魔石の売れ行きはどうですか?」

「ええ、ええ、おかげさまで飛ぶように売れています。しかも普段の数倍の値段でですからね。今回は大儲けです。それも皆さんが護衛についていただいたおかげです」


「あ、それと、あたし達の髪の色を変えた染粉ですけど、あれって簡単に手に入るものですか?」

「え?染粉ですか?あれは特定のルートじゃないと手に入らないですが、私が懇意にしている人間に頼めばすぐに手に入ります。何かで必要ですか?アサミ様もヨウ様も色が抜けた感じもありませんが」

「すぐではないですけど、ちょっと使う事になりそうな感じがあるものですから。3人分手配をお願いします」

「あ、朝未。3人分じゃなく私達の分もあった方がいいよ。というわけで、ミーガンさん6人分をお願いします」


そして翌日、武器屋、鍛冶屋をミーガンさんに案内してもらった。2軒目までは在庫にあったのは残念ながら今のあたし達の武器より下のものばかり。


「申し訳ございません。さすがは高位のハンターの武器ですね。中々在庫で持っている店が無くて。次にご案内させていただく武器屋は、少々値段は張りますがトランではかなり良いものを置いている店です。こちらに無ければトランで在庫として置いてある武器としては手に入らないと思います」


そんな話を聞きながら入った3軒目。


「おはようさん。ガルシアいますか?」

「おや、ミーガンさんじゃないですか。お久しぶりです。アンデッドが出るってんで商人さん達は出入りできないでいるって聞いてたんだけど、大丈夫なんですか?」

「ええ、腕利きのハンターパーティーに伝手がありましてね。3人のパーティーなんですが、護衛を頼めたんですよ」

「それはそれは。なら儲けたんでしょう?ふふふ」

「まあ、それなりに?」

「で、今日は武器を仕入れに?」

「いえ、その護衛についてくれているハンターが武器の良いのが無いかってことでして、案内してきたんです」

「ほう、ミーガンさんが腕利きと認めるハンターが護衛途中で武器を?」

「いやいや、3人とも現状の武器でもその辺のアンデッドには十分、それこそヴァンパイアも斃してきているんですけどね、アンデッドの動きが不穏だということで、出来るうちに戦力強化をってことです」

「ほう、良い心がけですね。金があるなら、武器防具は出来るだけ良いものにしておいた方が良い。で、後ろにいるのがそのハンターって事かい?」


「はじめまして。4級ハンターパーティー暁影のそらの瑶です。長剣を使います。こちらが、メンバーの朝未。短剣と魔法です。そしてそちらがマルティナ。槍を使います。それぞれの武器をグレードアップできたらと思い、ミーガンさんにご紹介をお願いしました」


軽く頭を下げ、瑶さんが挨拶をしたので、あたしとマルティナさんも頭を下げる。


「ふーん、ハンターにしちゃ随分と行儀が良いじゃないですか。いいよ、見繕ってあげよう。とりあえず、今使ってる武器をみせてくれるかい」


あたし達が、それぞれの武器を見せると、ガルシアさんが眉を上げた。


「これは、ふーん。グライナーでオーダーメイドしたのか。そりゃ並みの武器屋じゃ在庫にこれ以上のものなんておいてないさね」

「え?それじゃあ」

「うちは別だよ。良さそうなのを出してやるからちょっとまっててくれるかい」


奥に入っていったガルシアさんは数分後に武器をいくつも抱えて出てきた。


「これらは、シルバーメタル製の武器だよ。市場に流れる武器としてはこれ以上のものは無いだろうね。それぞれにいくつか持ってきたから手に馴染むのを選んでくれるかな」


あたし達は、それぞれに武器を持って、振ってみたり、エンチャントをしてみたりして具合を確かめ、気に入ったものを選んだ。


「おいおい、ヨウって言ったか、男のあんたはともかく、そっちの女2人。見栄を張って選んじゃいないだろうね。そいつらは女が扱うにはちと重いよ」


あたし達は顔を見合わせて苦笑しつつ答える。


「問題ありません。十分に扱える重さです。それと、こちらには魔法の発動体はありますか?」

「魔法の発動体?あるにはあるけど、うちにあるのは杖だよ。剣を持ちながら使うには無理があるだろう」

「アクセサリータイプは、扱ってないんですか」

「うちは武器屋だからね。そういうのは魔法道具屋に行った方がいいよ」


「それじゃ、これらを買います」


そして、提示された金額はちょっと驚く金額だった。

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