第183話 新たな情報

「お待たせしました」


聞かれてもいい雑談を15分ほどしていると、ドアが開いてさっきの受付のお姉さんに案内されて、ひょろりと背の高い男の人が入ってきた。この人がギルドマスター?イメージが少し違うわね。


「ご紹介します。ハンターギルドトラン支部ギルドマスターのセルヒオ・ロペスです」

「セルヒオ・ロペスだ。セルヒオと呼んでくれ。こう見えて元4級ハンターの火属性の魔法使いなんだぜ」

「ご丁寧にありがとうございます。私達は……」

「いい、知っている。4級ハンターパーティー暁影のそら。おまえがヨウ、でそっちのがマルティナか。で、その……?1人入れ替わったか?情報と少し年齢が」

「こちらが朝未で間違いありません。成長期なので情報の差異があったのではないでしょうか?」


瑶さんが説明すると、右の瞼をピクリをさせたものの、セルヒオ・ロペスさんは納得したように頷いた。


「それで、護衛依頼のための情報が欲しいと聞いているんだが、間違いないか」


そう言いながら、セルヒオさんはテーブルの上に1枚の紙を出してくる。

そして、その紙には、メッセージが書いてあった。


『この部屋は国の上層部により盗聴されている。口に出す内容に気をつけろ』


その内容にあたし達は思わず息を飲んだ。


「ええ、完全にアンデッドを避けることは難しいでしょうが、それでも出来るだけ安全に依頼人を護衛したいですから」


瑶さんは、口で当たり前の返事をしながら、用意されていたペンをとり、紙に本当に聞きたい内容を書いていく。


『なぜハンターギルドの部屋を国が盗聴を?』

『ハンターギルドには強力な戦力になるハンターが多数存在する。その動向を知っておきたいのだろう』

『ギルドは盗聴を認めているのですか?』

『認めてなどいない。勝手に設置されていただけだ』

『国が勝手に設置したのに気付いた?』

『ああ、国は私が魔法使いだという事を失念していたようでな、火属性とは言え魔力の動きは分かる』

『なら何故ここに呼ぶ前に教えてくれなかったのですか?』

『実は、この部屋以外にもギルド内あちこちに盗聴結界が仕掛けられている上に来客者の中にも国の犬が混ざっている。そのせいで話すことが出来なかった』

『なぜ、盗聴結界が張られるのを阻止できなかったんですか』

『先代のギルマスター時代に設置されたらしいんだが、当時のギルマスターは純粋な戦士で魔力感知が出来ず気付かなかったらしい。私がその時にいれば、そんなことをさせはしなかったんだが』

『セルヒオさんなら阻止出来たという根拠は?』

『火属性とは言え、私は魔法使いだ。これだけ堂々と設置していれば魔力の動きで気付く。それに、それはそちらも一緒だろう?』

『なぜ、そう思うのですか?』

『私は魔力の動きを感じられると言っただろう。さっき巨大な魔力の動きがあった。あれはお前たちの仕業だじゃないのか?』

そして言葉による上辺の会話でカモフラージュしつつ筆談でいくつか知りたかった情報が分かった。

まず、トランルーノ聖王国は、あたし達を取り込みたがっている。これに関してはセルヒオさんが他国を拠点にするハンターが偶々立ち寄っただけであり、実質的に不可能と返事をしてくれたそうだ。

その時にあたし達の実力を知りたがった国には別の5級ハンターパーティーを派遣して5級ハンターパーティーの実力はこの程度だと示して誤魔化してくれたとのこと。


そしてさらに国はハンターギルド、傭兵ギルド等の独自組織を良く思っておらず、どうにかして配下に置こうと常に策略を巡らしてくるらしい。あの盗聴の結界もそのための情報収集に使われているのだろうということ。壊さないのは、油断させておくためなんだって。


あと、ハンターがトランを離れたのはセルヒオさんが、そうなるように誘導した結果とのこと。


そして、あたし達にとって重要な勇者の情報もいくつか教えてくれた。

勇者パーティーは異世界から召喚された黒髪黒瞳の3人の若い男女。聖剣を扱う勇者、召喚された直後から聖属性魔法を使えた聖女、そして長大な剣を自在に扱う女性剣聖。勇者と剣聖は騎士が束になってもかなわず、聖女は聖属性魔法だけでなく他にも強力な属性魔法を行使するとか。


気になったのは3人ともこの世界の言葉が話せないため、翻訳の魔法道具を常時装着しているらしいんだけど、戦い等の激しい動きで紛失を避けるためとの理由でその翻訳の魔法道具はチョーカー型をつけていると言っていたことね。


そして、先日の対男爵級ヴァンパイア戦では討伐こそ成功させたものの、聖剣以外の装備をほとんど破損させ疲労困憊でトランに帰ってきたらしい。

今は、失った装備を揃えるのと消耗した身体を休めるため宮殿で過ごしているとのこと。


さらに、準備が整い次第南部の街オペドに現れた別のヴァンパイア討伐に向かわせられるだろうと言っていた。

そのヴァンパイアについては、はっきりとした情報は無いけど、男爵級より上位の可能性が高そうだそうだ。




「瑶さん、チョーカー型の翻訳の魔法道具って」

「ああ、ミーガンさんが絶対に使うなって言っていたあれだね」

「となると、やっぱり隷属の魔法道具……」

「その可能性が高そうだね」

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