第182話 盗聴
「こちらでお待ちください」
あたし達が部屋に入るとお姉さんはそう言って部屋を出ていった。他のギルドでもそうだったけれど、ギルマスターと話をする時には裏にある部屋に案内されるのよね。
あ、そういえばあのお姉さんの名前聞いてないわね。
「こういう時に案内される部屋はどこのギルドも似た感じですね」
窓が無くて、置いてあるのはちょっと高級な感じのテーブルセット。奥には魔法道具の簡易キッチン。天井には魔法道具の灯り。重厚な感じの壁は盗聴防止かしらね。好奇心にかられてあたしは探知魔法を展開する。
「え!!」
「朝未、どうかした?」
「朝未様、なにかありましたか?大丈夫ですか?」
「え、ああ、瑶さん、マルティナさん。大丈夫です。ちょっとびっくりしただけです」
「いきなり朝未が驚くって何に驚いたの?」
「え、ええ」
あたしはちょっと口にするのにためらいがある。それでも、これは情報共有しておいたほうがよさそう。でも、この状況でどうやって……
「あ、そうだ」
以前使った遮音結界。あれは風属性魔法だったけれど、あれを応用して、他の属性でも結界を張る。
風属性の遮音結界で音を遮断。聖属性のマナ結界、これでマナの状態を隠蔽。闇属性のマインド結界、これで感情の動きを隠す。火属性のサーモ結界、これで熱の動きでの視覚を遮断。
「このくらいすれば、多分大丈夫です」
「朝未、いきなり真っ暗になったけど、いったい何をしたの?」
あ、そうね、このままじゃ光も遮断しているから暗いわね。
「ライト。これで大丈夫です。いくつか結界を張りました。即席なのであまり性能はよくは無いと思いますけど、簡単に盗聴はできないはずです」
「盗聴?朝未、いきなり物騒だね」
瑶さんが珍しく驚いている。
「ええ、この部屋全体が魔法道具になっているんです。その情報を共有しようと思いましたので」
「魔法道具?朝未様、この部屋が盗聴の魔法道具ってことですか?そんな大掛かりなもの聞いたこともありませんよ」
マルティナさんが知らないとなると、かなり特殊なのかしらね。
「盗聴だけじゃないです。盗聴防止と盗聴の両方です」
「え?それは矛盾して……」
「いえ、矛盾していません。基本的には遮音による盗聴防止。ただ、その遮音の結界に流れを作って特定の場所?人かしら、に音が流れていくようになっています。あたしが感知したのは遮音結界だけでしたけど、念のため複数の結界で盗聴防止にしました。これが共有したかった情報です」
「つまり、この部屋での会話は誰かに聞かれている?いや、状況からすればギルマスターか。それともギルドに秘密で国が仕掛けた?」
さすが瑶さん。驚きながらもすぐに次の事を考えてくれる。
「まあ、そんなわけで、結界を張ってから説明しようと思ったんです」
「分かった。あとはその盗聴結界を張ったのがギルドか国か、それともそれ以外……。いやさすがにハンターギルドの中に中途半端な組織がそんなものは無理か……。朝未、ありがとう。ギルマスターと話すのは私に任せて欲しい。少なくともこの結界を張った存在が把握できるまでは」
「え、ええ。いつも通りに交渉事は瑶さんにお願いします。マルティナさんもそれでいいですよね」
「もちろんです。揺様を信頼しております」
「話がまとまったところで、朝未の結界は解除しておこう」
「え?覗かれちゃいますよ」
「覗かせるんだよ。相手は覗けると思っている。それが遮断されたら不信に思うだろう。だから覗かせる。あとはこちらの情報を与えないように気をつけてしゃべるだけだよ。場合によっては相手に偽の情報を与える事も出来るからね。あとは、ギルドマスターが仕掛けたのか他の誰かが仕掛けたのかだね。ギルドマスターなら良い。でも、他の誰かなら……」
あたしは頷いて結界を解除した。
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