第181話 ハンターギルドトラン支部へ

「結局、新しい情報はありませんでしたね」


3日、あたし達は街を歩き回って情報を集め、状況を確認していった。そしてマルティナさんの言った通り新しい情報はなかった。どこに行ってもハンターが去った、物が入ってこない、勇者と騎士団が頼りだ、そんな話ばかり。


「なに、それはそれで成果だよ」

「ええ、瑶さん新しい情報が何も無いのに?それが成果ですか?」

「そう、少なくとも庶民の間の情報や状況が、市場での情報と差異がなかった。つまり少なくとも庶民側の情報としては正しかったということになるからね」

「そういう、ものなんですか?」

「そういうものだよ。出来るだけ広い範囲で情報の整合を確認するのは大事さ。あとは……」

「あとは?」

「あとは、国の上の情報が手に入れば最高だけど、さすがに限度があるだろうね」

「国の情報ですか」

「まあ、その辺りは、ハンターギルドで少しくらいならって感じかな」


「瑶様、いかにハンターギルドとはいえども国の機密情報までは、さすがに手に入らないと思います」

「わかってるよ。それでも、庶民よりは上層部に近いからね。なんとなくの動きの噂位は期待してもいいんじゃないかと思ってる」

「それで、瑶さん。トランルーノ聖王国の様子を調べてどうするの?あたし達一介のハンターよ。国にどうこうするのは無理でしょ?」

「ん?朝未が言ったんじゃないか。トランルーノ聖王国に召喚された勇者を助けたいって」

「あ……」


瑶さんの言葉にあたしは目を見張り、思わず口に手を当てて声が出るのをこらえた。


「でも、瑶さんは反対したじゃないですか」

「あの時はね。今なら立場も4級ハンターならそれなりだし、この1年で私達もそれなりに強くなったからからね。もちろん無理をするつもりはないし、状況次第なところはあるよ。それにそもそも勇者達がどうしたいかによっても違うからね」

「勇者達がどうしたいか、ですか?」

「そう、ひょっとすると今の待遇が凄く良くて、そのままトランルーノ聖王国の勇者として留まりたいって言うかもしれない。まあ、噂を聞く限りではその可能性は低そうだけどね。あとは私達が手出しを出来るタイミングがあるかどうか、かな」


そして、あたし達はハンターギルドトラン支部に向かった。




ハンターギルドの中は閑散としていて、受付のお姉さんもぼんやりと空中を見上げている、なんてことはなく、なんかあわただしい。


「だから、今は無理なんです。ハンターがみんな出払っていて、護衛に回すどころか、トラン周辺の魔物狩りさえできていない状況なんです」

「そんな事言われても、こっちだって仕入れに出られなければ死活問題なんだ。1人や2人いるだろう。なんとかまわしてくれよ」


目の前の受付だけでなく、あちこちの窓口で似たようなやり取りをしているのが伺える。



「なんか、ハンターが居なくなったっていうのは本当みたいですね」

「そうみたいだね。まあ、ハンターとしても実力に見合った場所でなければリスクばかり増えてわりに合わないだろうし、かといって稼がなければ食べていくことも出来ないからね。拠点を変えてしまうのはやむをえないだろうね」


あたしが瑶さんとそんな話をしていると、ようやくあきらめたのか1人が窓口から離れ、窓口が空いた。


「ちょっといいかな?」


瑶さんが声を掛けると、受付のお姉さんが胡乱気な視線を向けてきた。


「なんと言われても、今護衛に回せるハンターは居ませんよ」

「いや、私達自身がハンターなんで、護衛を探しに来たわけじゃない」


瑶さんがハンター証を見せると、お姉さんの態度が豹変。


「え、ハンター?しかも4級?見かけない顔ですが、どちらから見えたんですか?いえ、どこから来たにしても現状で動きの取れるハンターって事ですよね。お仕事なら割のいい護衛依頼がいくらでも選び放題ですよ」


手にもった依頼書の束を振り回し、なんか必死さが伝わってきて可哀そうになってくるわね。


「いえ、私達は護衛依頼の途中で寄っただけです。護衛をしていくにあたって何か情報が無いか聞きに来ただけですから」

「そうなんですね。そりゃそうですよね。わざわざ高ランクのハンターが意味もなく今のトランに来るわけないですもんね」


瑶さんの対応に、落胆を隠さないお姉さんにあたし達は、思わず苦笑を浮かべた。

それでも、お姉さんは一通りの情報をあたし達に伝えてくれた。

それは街を散策して耳にした情報が間違いなさそうだという事を補強する情報。


「ありがとうございました。参考にさせていただきます」


そう言ってあたし達が席を立とうとしたところに声が掛かった。


「あんたら、誰かの護衛をしている4級ハンターなんだってね。倍出すから俺の護衛をしてくれないか?」


見るからにいやらしい感じの男性。


「倍じゃ合わないな。ハンターとしての信用、これからの仕事。そういうものを全てのっけるんだから」

「な、なら4倍いや5倍でどうだ?」

「500倍。それ以下で受ける気はないな」

「な、いくらなんでも吹っ掛けすぎ……」

「だから受ける気はないと言っている」


「ちょっとドンウクさん。依頼受注済みのハンターにそういうのはやめてくださいといつも言っていますよね。出入り禁止にしますよ」

「ふん、たかが受付嬢ごときに我の行動を制限するなどできんわ。無理にというのなら我がイ商会を敵に回すと思え」


うわぁ、面倒くさい。どんな商会の人間か知らないけど人を人と思わないタイプの人ね。


「私からの情報ですと、今程度です。ですが、ギルドマスターならもう少し知っているかもしれません。ギルドマスターとお会いしますか?」


あらお姉さん、もうドンウクって人がいないようにあたし達に声を掛けてきたわね。


「ええ、よろしければお願いします」


あ、瑶さんも知らない顔で返事をした。


「では、ギルドマスターをご紹介いたします。こちらへどうぞ」



--------------------------------------------------------------

私用により明日は更新できないかもしれません。

その際は「作者間に合わなかったね」と緩く許していただけると嬉しいです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る