第180話 ハンターと聖国と勇者と騎士団と

「今はこういう輩が蔓延っている状態だな」

「でも、武装しているハンターに刃物を向けるとか考え無しにしか思えないんですけどね」

「ん?なんだ、あんたもハンターなのか?」

「ええ、これでもあたしもハンターなんですよ」

「そんな可愛らしい見た目でハンターとはな。あいつも運がなかったな」


今は駆け付けた衛兵に男を引き渡し、店主?と話している。


「それにしても以前は、こんなじゃなかったですよね」


瑶さんが話を引き継いでくれた。可愛らしいとか言われるのは嬉しいけど、反応に困るのよね。


「さすがに半年以上もの間、まともに荷が入らないとなればな。それでもここまで悪化したのはここ最近だぞ。そうだな、以前あんたらが来て少ししてからだ。噂じゃヴァンパイアがアンデッドを使役しているとか言われているな」

「ヴァンパイアが……」


噂になっているのね。あたし達はそれを実際に知っている。ほとんど知能のないアンデッドの群れを統率して、辺境伯領領軍さえ撃退する戦力に仕上げている。


「でも先日、勇者様がヴァンパイアを討伐してくださったそうだ。これからはきっと良くなるさ」

「でも、ヴァンパイアにもランクがあるそうです。勇者様が討伐されたのは?」

「男爵級ヴァンパイアだそうだ。貴族級のヴァンパイアを斃すなんて凄いことだぜ。きっとすぐにトランルーの聖王国内のヴァンパイアを根絶やしにして、もと通りの生活ができるようにしてくれるさ」


どうやらここトランでは勇者達は庶民の希望らしいわね。恐らくはあたし達と同郷の勇者達。特別な力を持っているのならヴァンパイアを斃せても不思議はないけど、もし……。



「……へえ、あんたらが護衛してきた商人が大量の魔石を持ち込んでくれたのか。そりゃありがたい。トランじゃ何をするにも魔石が無いと不便で仕方が無いからな。おっと、こうしちゃいられない。魔石を仕入れられるってんならチンタラここで商売してる場合じゃねえ。今日はこれで店じまいだ。急いで商業ギルドに行かなきゃな。いい情報をありがとうよ」


あたしが物思いにふけっている間に、瑶さんは店主と情報交換を済ませていた。

その後、数か所で同じようなやり取りをして、市場での情報収集は終わり。


「市場はこのくらいにして、食事にしようか」

「はい、前に来た時のレストランがいいですね」


あのお店なら、仕入れが悪いなりに美味しい物を出してくれそうだものね。




「いらっしゃいませ。あら、あなた達は、いつかの」


ドアを開けて入ると、さっそく女将のジュリーさんが声を掛けてくれた。


「1回しか来てないのに覚えていてくれたんですね」

「そりゃそうですよ。印象的な人達ですからね」

「私達が印象的、ですか?」

「そりゃそうですよ。美男美女だけの混成ハンターパーティー。しかもあの頃の普通のハンターって大体どこかしらケガをしていたのに、遠くから護衛でトランに来たばかりだっていうのに誰一人ケガらしいケガをしていない凄腕のハンターなんて、忘れるわけないです」


そういえば、あの頃のトランのハンターって確かにケガ人ばかりだったわね。


「ん?あの頃?最近は違うんですか?」


瑶さんの問いかけにジュリーさんは大きな溜息をついた。


「ええ、最近のハンターはケガをしてないですね」

「それは?急にハンターの実力が上がるとは思えないんですが。もちろん慣れというものはあるでしょうけれど」

「それならよかったんですけどね」


瑶さんが首を傾げ、何かに気付いたように目を見開いた。


「ハンター達が依頼を受けなくなった?いえ、ひょっとしたらトランから拠点を移動?」

「そうなんです。危険ばかりが増大し実入りが割に合わないとハンター達が移動してしまって……」



「え、じゃあ今トラン近くの防衛は?」


思わずあたしも声をあげてしまった。アンデッドがこれほど出没する状況でハンターがいなくなったら……


「一応今のところは、勇者様を先頭に騎士団が対応してくれているんですが、どうしても……」

「勇者の実力は知りませんが、なんにしてもそれでは手数が足りないでしょうね」


「あ、こんなお話ばかりですみません。ご注文も聞いていないのに。何になさいますか?」







「国のとる手段は、頭を潰す……かな?」

「瑶さん、宿に戻るなり物騒な言葉ですね」

「瑶様の言う通りでしょうね」

「マルティナさんまで!!」


午後、あたし達は街を散策してトランの街の雰囲気を見て回り、夕食前に宿に戻ったのだけど、瑶さんが部屋に戻るといきなり物騒な言葉を口にした。



「朝未、私が言っているのは国としての対応だよ。実際にアンデッドを含む対魔物の戦力としてはハンターが最も適しているのは間違いない。ハンターが去った理由は様々だとは思うけど、結果としてそのハンターがトランから激減したということはそのまま防衛戦力の減少を意味するんだ。そして恐らく騎士団だけではトラン周辺全域をカバーするには数が足りない。となれば少数で効果を上げることが出来る作戦となれば、アンデッド集団の核となっていると思われるヴァンパイアの討伐しかないだろうね」


「それが勇者による男爵級ヴァンパイアの討伐?」

「そう、ただ男爵級ヴァンパイアを斃せても……」

「男爵級って事は、上に子爵、伯爵、侯爵、公爵、そしてひょっとしたらその上も?」

「男爵がいて、先日私達は伯爵を斃した。より上位のヴァンパイアがいて、全体をコントロールしていると考えるのが自然じゃないかな。それでも勇者達が、本当にその名に見合った力を宿してこの世界に召喚されていれば勝ち目はあるんだろうけど……」

「けど?」

「瑶様、例の目撃証言ですか?勇者達が男爵級ヴァンパイア討伐から戻った時にケガこそ無さそうだったけれど装備を着けていなかったという」

「ええ、普通ヴァンパイアの討伐という目的を勇者の肩書を持つ者が成したなら装備に身を包んで煌びやかに凱旋しそうなものだと思うんです。単に成長途中だったり経験不足から装備を失っただけならいいけど、もし十分な力を持たずに召喚されていたなら……。まあ、だからといって私達に何が出来るというわけでもないのだけど」


あたし達は、ため息をついて顔を見合わせた。

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