再会友よ

第177話 ミーガンの商才

見透かしたようなアイノアさんからの依頼を聞いた後は、特にイベントの起きることも無く、その2日後、あたし達はミーガンさんの護衛としてクリフを発った。

辺境の英雄たちは、ついてきたがったけれど、さすがに依頼に同行させるわけにはいかない。またクリフに戻ってくるからと言い聞かせて置いてきた。


「今回は運がいいんでしょうか。アンデッドどころか魔獣の1体も出てきませんね」


クリフを出て半日、ミーガンさんが機嫌よさそうに呟いている。

あれだけ、討伐していれば、敵影も薄くなるわね。でも……。



「クリフ周辺だけだと思います。クリフでかなりのアンデッドを討伐しましたから、その影響が出ているんじゃないでしょうか」


瑶さんの言葉通り、進むにしたがってアンデッドを含む魔物との遭遇が増えた。


「この程度なら、護衛を雇っていれば普通に通行は出来そうですよね」

「何をおっしゃいますか。先ほど斃されたシークバイパーなぞ、普通のハンターや傭兵では気付いた時には、その毒の牙の餌食ですよ。この安全は朝未様の探知能力あってこそのことです。そもそもシークバイパーは普通は街道筋には出没しません。明らかに魔物たちの活動が活発になっています」


あたしがファイヤーアロー1発で仕留めた蛇も一般のハンターには難敵なのね。

そして今更のようにふと思った事があった。


「ねえ、マルティナさん。あたし達が斃した魔物や魔獣って崩れ落ちて無くなっちゃうけど、他のハンターが斃してもそうなの?」

「あ、朝未様。今更ですか。あ、いえ。そうですね、普通はあのように崩れ落ちることはありません」

「そうすると、死体はどうするんですか?」

「普通は、魔石と素材だけ剝ぎ取って、そのまま放置ですね」

「放置?いいんですか?」

「ええ、他の魔獣が処理してくれるので大丈夫です。さすがに街道近くのように人の生活圏に近い場合は焼くことを推奨されてますが、難しいですね」

「難しいんですか?」

「ええ、朝未様のように強力な魔法使いが居れば別ですが、普通は魔獣にしろ魔物にしろ十分に焼くだけの薪を集めることも難しいですし、焼いている間、その近くにとどまらないといけませんから。それに動物なら火を焚いていれば近づいてきませんが、魔獣や魔物はあまり火を怖がりませんし匂いが流れればむしろ集まってきますからね」


なるほど、1体焼いている間におかわりが来たら、終わりが無いものね。


「じゃあ、どうするんですか?」

「なので地面に穴を掘って埋めてしまうか、少し森に入って捨ててくる感じですね」


「穴を掘るのも大変そうです」


あたしがぽつりとつぶやくと、クスクスと笑いながらマルティナさんが追加で教えてくれた。


「ええ、ですから普通のハンターは街道や街の近くでは狩りをせず、森に入って狩りを始めますね。一部不心得者が街道近くで狩って、そのまま放置してくることもありますが、そういうのは大抵あとで痛い目にあいます」



そんな一般のハンターの事情を今更ながらに聞きつつ、馬車の横をついて歩く。


「ミーガンさん。今回は積み荷がとても少ないように見えるんですけど」


ふと、見ると今回積み荷がとても少ないのに気付いたので馬車に乗っているミーガンさんに声を掛けてみた。


「ええ、クリフで仕入れたのは魔石が中心でしたので場所を取らないんです」

「魔石ですか?わざわざ魔石をトランまで運んで割が合います?だいたい、魔石なんてトランのハンターが集めてくるので間に合うんじゃないですか?」


「ふふ、そうですね。普段なら朝未様のおっしゃる通りです。でも、今のトランはアンデッド対応で十分に魔石も手に入らない状態だと思うんです」


そっか、あたし達はアンデッドを苦にしないからうっかりしていたけど、普通のハンターがあのアンデッドの群れに巻き込まれたら大変よね。事実トランのハンターはケガ人が目立ったものね。


「なるほど、見落としがちな視点ですね」

「ですから、良ければ朝未様方の討伐した魔物の魔石も買い取らせていただきたいですね。ギルドに卸すよりはいい値段で買い取らせていただきますよ」


あら、これは良い話じゃないかしら。あたしは一応揺さんに視線を送り頷くのを確認してから返事をした。


「いいですね。討伐証明的に必要なもの以外はお願いします」

「討伐証明に必要な魔石以外ですか?」

「ええ、例えばヴァンパイアの討伐だったりすると魔石で討伐証明になりますので、それはギルドに持ち込みたいんです」

「なるほど。わかりました。ヴァンパイアの魔石は高品質で惜しいですが、そういう事情であればやむを得ないですね」

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