第176話 ????????
今私達3人は騎士団の護衛のもとトランルーノ聖王国西部の街トレルダに来ている。
「勇者様方、またしてもヴァンパイアと思われるアンデッドの出現が報告されました。これを討伐して勇者様のご威光を示していただきたい」
と、フィアン・ビダルさんに言われたからだ。
トレルダに到着して、まずは情報収集と思ったのだけど、そこは国からの依頼だけあって手に入る情報は既に集められていた。そこで、提供された情報の整理と行動方針の決定と馬車での旅で疲れた身体を休めるため、宿をとってもらった。
こういう時は国がついているのは楽だけど、逆に監視されているともいえるのよね。
「それで、どう思う?」
早速とばかり大地が資料と地図を引っ張り出してきた。
「大地、せっかちね。あんまり早いのは女の子に嫌われるわよ」
いや小雪も、それって男の子に言うセリフじゃないと思うのよね。
「ま、他にすることもないし、するべきことはしてしまいましょう。まずは情報の整理からね」
とりあえず、2人をスルーして資料を読みはじめる。
「真奈美も少しは乗れよ」
「真奈美スルーは寂しいよ」
大地と小雪が苦情を言ってくるけどこれもスルー。
それでも、命に係わる情報だということは分かっているからか大地も小雪もそれぞれに資料を手に読み始めた。
でも、情報と言ってもそれほど多くは無いため、大した時間も掛からず、全員が読み切った。
「うーん、一応目撃情報は北の森に集中しているのか?」
「そうね。全部で12件の目撃情報だけど、だいたいここと、ここと……。4か所に集中している感じね」
「どこも、それなりに距離があるように見えるけど、何か理由があるの?」
「この地図だと特徴がわからないわね。とりあえず、明日全部周って状況を確認しましょ」
この世界の地図は、かなりアバウト。地形なんかの記載も無いうえに、場合によっては距離さえ合っていない。目星だけつけたら実際に見に行くしかないのよね。
「明日は、とりあえず準備と下見ね。装備は、国から良い物を支給されたから、そういう面での不安は少ないけど、初の高位の魔物との戦いだから、思いつく準備はしておいた方がいいわよね」
「ああ、そうだな」
「うん、準備は大事ね」
「と、言うわけで小雪、アイディアを出して」
「え?わたし?」
「だって、小雪がファンタジー世界に一番詳しいじゃない。大地は脳筋だし、私はファンタジーより恋愛小説だったから。こんなことになるなら、小雪の勧めてくれたファンタジー小説もっと読んでおくんだったわ」
うんうん唸って小雪が出した準備を整え翌日朝から目撃情報のあった場所にむかった。
国から支給された装備は、大地はシルバーメタルという特殊な金属でできている部分鎧に同じく盾としてナイトシールド、武器は聖剣を手にしている。私はスピード重視なので同じ金属鎧でも少し簡略化した部分鎧にシルバーメタルの長剣。小雪には魔物素材のローブに魔法の発動を補助するワンドを持っている。
「特に変わったところは見当たらないな」
最初の確認地点についたところで大地が周りを見回して呟いた。
「そんな見てわかるような違いがあったら資料に載ってるでしょ。周辺を探索してさがすのよ」
「うへぇ。俺そういうの苦手なんだよなあ」
「わかってたけど、口に出されるとイラッとくるわね。まあいいわ。調査は私と小雪でやるから。大地は私と小雪の護衛ね」
「護衛って、おまえら護衛必要か?」
「いいから、周辺を警戒しておいて」
「へーい」
そんなやり取りの後、私は小雪と並んで周囲を調べていく。
「ねえ、真奈美、ここなんだけど、地図にはのってない。抜け道かもしれない」
「本当ね。これが当たりかしら?入ってみるしかないわね」
呼びかけてきた小雪の指さす先には岩と岩が支えているような隙間があった。普通の人なら2、3人並んで通れるくらいの隙間だけど、この世界の地図に載せるほどではないんでしょうね。
「大地、先頭ね。真奈美は後ろでお願い」
「え?私も前衛なんだけど」
小雪の指示にちょっと疑問が湧いた。
「余程大丈夫だとは思うけど、後ろから襲われることも考えておかないといけないから。ただ、真奈美の剣をここで振るには、ちょっと狭いけど……」
「うん、そういうことね。わかったわ。後ろは任せて。狭いのも上があいているし、なんとかする」
そして進むこと、しばし、私達は岩の隙間を抜けた先で、藪の陰からちょっと開けた場所をうかがっている。
「あの真ん中にいるのがヴァンパイアか?」
「多分そうね。ここなら奇襲攻撃ができるわね。小雪、作戦は?」
「……相手の数が多いから広いところだと囲まれて不利だから、さっきの岩の割れ目近くまで引いて迎撃が良いと思う。まず、わたしがホーリーで先制、普通の魔物相手だとちょっとした行動阻害程度だけど、アンデッド相手なら効果は高いと思う。そして向かってくる相手に火属性の魔法で攻撃しつつ少しずつ下がる。近接したら大地と真奈美で近い敵を攻撃。わたしは、離れた敵に魔法で牽制を兼ねて攻撃。岩のところまで下がったら後ろを気にしなくてよくなるから、そこで迎え撃つ。そんな感じで。あ、岩場に張り付いたら逃げ場が無くなった演技も忘れないようにね。ヴァンパイアは知恵がまわるそうだから」
ファンタジー小説やゲームが趣味の小雪のほうが、こういうところは得意なので任せた。
「わかったわ。大地もいいわね」
「おう、しっかりぶった切ってやるぜ」
「いや、そうじゃなくて……」
「うん?」
「まあ、いいわ。突っ込まないでよ。少しずつ下がるんだからね」
「おう、わかってる。岩場で切りまくれば良いんだろ」
ホッ、一応理解はしてくれていたらしい。
そして、小雪のホーリーが戦端を開いた。
「す、すごいな。さすがは聖女様だ」
大地の感嘆するのもわかる。聖属性魔法ホーリーの威力は素晴らしく取り巻きのアンデッドが数体ずつ崩れるように消えていく。以前小雪が漏らした「聖女じゃない」という言葉が勘違いでは無いかと思えるほど。
そしてじりじりと後退した私達は、岩場を背にした。
「くははは、どうした。もう後ろは無いぞ」
「ホーリー」
ヴァンパイアの言葉に小雪の魔法が被り最後の取り巻きが崩れ落ちた。
「はん、そういうてめえだって取り巻きはもういないんだぞ」
あ、ばか大地追い詰められた演技を忘れている。
「愚かな人間どもよ。ゾンビやスケルトンなぞ我1人分の戦力も無いわ。それを今から味わうがいい」
そう言うと、一気に距離を詰めてきた。
「は、速い」
最初に狙われたのは、やはり小雪。大地と私がなんとか間に入ろうとしたけれど、わずかに妨害が出来ただけだった。
「ドゴン」
すさまじいい破壊音がして岩が飛び散った。
「こ、小雪!!」
振り向いた先では、ヴァンパイアの攻撃を辛うじて避けた小雪が転がりながらも杖をヴァンパイアに向けていた。
「ホーリー」
「チッ」
ヴァンパイアは、それでもホーリーの直撃は嫌だったらしく舌打ちと共に跳び退った。
そこに大地が斬りかかる。
「ドス」
死角からの不意打ちだったその斬撃は、多少の傷をつけたものの決定的なダメージにはならなかった。
「なんつうタフさだ。物理でも斃せるってのは本当なんだろうな」
そんな大地にヴァンパイアの腕が振るわれる。
とっさに構えた盾で防いだものの大地は数メートル吹き飛んでいった。
「重騎士数人のアタックでもびくともしなかった大地が飛ばされた?」
それでも、意識が大地に向いている今がチャンス。私も長剣を振るう。
まともに決まったと思えたその斬撃はヴァンパイアの肩の肉をわずかに傷つけただけ。
やはり物理でも斃せるとは言え、ヴァンパイアのタフさは頭抜けている。
今度は無造作に見える動作で私に向かって腕を振ってきた。
咄嗟に下がったものの掠めただけで新しい防具が大きく傷ついた。
それでも私も大地もダメージを与える事は出来ている。問題は、ヴァンパイアの攻撃があまりの強く速いこと。大地は盾で受けても吹き飛ばされ、私も避け切れない。
「フレアランス」
そこに小雪が火属性の上位魔法を放った。
避け切れないとヴァンパイは腕をクロスさせ急所をかばう。
小雪の魔法が直撃した腕は焼け焦げ、私や大地の攻撃よりはダメージを与えている。
「雑魚共と思っていたが、マンフレート・フォン・ハプスブルク男爵に手傷を負わすとは、ハンス・フォン・ゼーガース男爵を殺したのは貴様たちか」
そこから、私達とマンフレート・フォン・ハプスブルク男爵と自称するヴァンパイアとのギリギリの戦いが続く。
大地と私が斬り、小雪が魔法を放つ。ヴァンパイアの攻撃を大地が盾で受る。
ヴァンパイアの攻撃にそれぞれの支給された防具は既にボロボロで、防具で守られてたいはずの身体に多くの傷をうけてしまっている。
それでも少しずつ与えたダメージにヴァンパイアの動きが少しずつにぶってきていた。
「ピアースアイシクルジャベリン」
小雪が今までの違った魔法を放つ。
動きの鈍ったヴァンパイアは、それをまともに受け胸が大きく抉れ、ようやく大きなダメージを負わせることに成功した。
「はあ、はあ。どう、聖属性に次ぐ弱点属性の上位魔法をまともに受けた気分は」
どうやら小雪は、これを狙っていたらしいわね。
「ぐ、ま、まだだ。このマンフレート・フォン・ハプスブルク男爵がこの程度で……」
大きなダメージに動きが大きく鈍ったヴァンパイアに私と大地が剣を振り降ろす。
その手ごたえは、これまでとまるで違い、普通の魔物に切りつけたようで、その首を飛ばすことが出来た。
「死んだ、よな」
大地が、慎重に手にした聖剣で地に伏せるヴァンパイアをつつく。
「大丈夫でしょう。さすが首を飛ばしても生きているとは思えないから」
「念のため早めに魔石を回収しよう。魔石が無くなれば絶対大丈夫だって聞いてるから」
小雪の提案に大地が解体用のナイフを手にした。
盾はひしゃげ、鎧はズタズタで既に防具のようをなしていない。それは私も小雪もそうだった。
小雪が残り少ない魔力で治癒魔法を使い、私達は辛うじて自分達の足で帰途についた。
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