第173話 身体強化

「姐御。これ、オレ達必要ですか?」


崩れ落ち魔石に姿を変える大量のアンデッドを目の前にしてレアルさんが引き攣った顔で呟いた。


「あたしの魔力だって一応有限ですし、実戦では初めて使う魔法なので効果もわかりませんでしたから」

「それに強敵に私達がかかりっきりになった場合、それ以外を受け持ってもらうことも考えると、ある程度以上強いハンターの手数を増やすのは状況のはっきりしない現状では安全確保のために必須ですね」


あたしの言い訳に続けて、瑶さんがあたしの魔法ホーリーレインの脇を抜けてきたベン・ミーアを一刀両断しながらレアルさん達辺境の英雄たちが必要な理由を説明してくれた。


昨日1日掛けて練習した魔法はホーリーレイン、ホーリーストーム、ホーリーレイの3種類。


ホーリーレインは、聖属性魔力の刃が雨のように降り注ぐ範囲魔法。ホーリーのように長時間は持続しないけれど、ホーリーアローの何分の1かの攻撃力のある聖属性魔力の刃が大量に降り注ぐ、らしい。使って見た感じ実体非実体関係なく押し寄せるアンデッドを殲滅するのにはとても効果的。ただ、その性質上敵がまばらな状況では効率が悪い。


ホリーストームは、聖属性魔力の嵐?のような感じ。ウィンドストームを参考に作ってみたんだけど、使って見た感じ効果が微妙。聖属性魔法の特性として物理的な攻撃力が無いので吹き飛ばすとかいった部分が無いから使う魔力の割に効果が少ないのよね。


ホーリーレイは、聖属性魔法のレーザーね。それも結構な貫通力がある。強い個体1体に集中させるても良いし、振り回して範囲攻撃にも出来る、でも、貫通するのに少し時間が掛かるので使いどころはちょっと難しいかも。


そして、なによりこの3つの魔法は聖属性魔法だけあって人間には無害なところが嬉しいのよね。こんな世界でフレンドリーファイアなんてシャレにならないもの。


「朝未、実戦で使った感じはどうかな?端から見ている分にはよさそうだけど」


アンデッドの襲撃が一時的に途絶えたところで瑶さんがたずねてきた。


「そう、ですね。ホーリーレインは威力も使い勝手も思った以上ですね。ホーリーレイは威力は申し分ないですけど、ちょっと使う場面を選ぶ感じでしょうか。ただどちらも消費が少し重いのであたしの魔力でも乱発はしにくい感じです」

「もうひとつ渦を巻くようなのも使ってたよね、あれは?」

「あー、ホーリーストームですね。あれは正直今のところ使い道が考え付きません。ダメージが低いのに消費だけはレインやレイと同じくらい重いんですよ。ところで、揺さんとマルティナさんも何かしてましたよね」

「うーん、私達のほうは、まだなじんでないからか、うまくいったようないまいちのような感じだね。」


「何をやっているんですか?」

「う、うん、前にフリードリヒ・フォン・バイエルンって伯爵級ヴァンパイアと戦った時の事を覚えているかな?」

「え?ええ、騎士に成りすまして近づいてきて、あたしが危うくやられるところだったやつですよね」

「その時に、朝未が魔力を身体に巡らせていたのを思い出してね。あの時、朝未の動きがいつもより鋭いように感じたんだよ。だからひょっとしたらと思ってね」


「魔力による身体強化?」


「そう、攻撃魔法こそ使えないけど、私もマルティナさんも魔力自体は感じられるからね。ましてや自分の身体に巡らせるだけなら出来るんじゃないかと思ってね」


「うまくいったんですね?」

「まだ身体を激しく動かすと身体強化への意識が薄れて解除されることもあるけど、概ね成功したよ。あとは慣れかな」

「どのくらいの効果があるんですか?」

「そうだね、今の段階で身体強化をしていないときの3倍くらいの重さの物を持ち上げることが出来たよ」

「え?揺さんブルドーザーいらずですね」

「さすがに重機扱いはひどいなあ」


瑶さんがあははと笑った。


「マルティナさんは、どうです?」

「わたしは、2倍に届くかどうかですね。効果に個人差があるようです」

「朝未の補助魔法もきちんと上乗せされているのも感じるから、私とマルティナさんの攻撃力が倍になった感じかな。防御力の方は分からないけれどね」


「いえ、さすがにそれは効果の確認のために攻撃を受けるのは違うと思うので……。あたしも余裕のある間にやってみた方がいいでしょうか」

「そこは、朝未の場合は魔法も使うから魔力消費との兼ね合いかな。ただ、身体強化での魔力消費はかなり軽い気がするので保険のために使っておくのも様子をみながら試してもいいかもしれないね」


近づいてきたグール2体をまとめて切り払いながらの瑶さんの言葉に、あたしは自分の身体に魔力を巡らせる。


フリードリヒ・フォン・バイエルン伯爵との戦いでの感覚を思い出しながら身体に魔力を巡らせていくと、ふっと抵抗が無くなったように感じた。その瞬間、身体が軽く感じ、感覚が研ぎ澄まされる。


「これ、力だけじゃなくて全部の能力が上がっているわね」


あたしは、ぼそりと呟いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る