第174話 至らずの洞窟
「あと3日程でクリフから移動しようと思います」
翌朝、ミーガンさんを訪ねると、出発の予定を告げられた。
ハンターギルドで予定を話さないといけないわね。
「瑶さん、クリフ周辺のアンデッドの間引き、どうしましょう」
「護衛を優先というのが条件だったから、ミーガンさんの予定に合わせることになるね。そうだな、今日と明日間引きをして明後日は出発準備と休養に当てるくらいかな」
「わかりました。じゃあ、そのようにギルドで話してきましょう」
と言うわけで、いつものように奥の部屋に通された。
そしてこちらもいつものようにギルドマスターのアイノアさんがテーブルの向こうに座っている前で、瑶さんが事情説明をしてくれている。
「……と言うわけで、アンデッドの間引きは明日までにしたい」
「明日までか。で、実際のところどうなんだ」
「どうってのは、アンデッドの残りか?」
「それしかないだろう」
「そう、だな」
チラリとあたしに視線を向けた後で瑶さんが口を開いた。
「ここクリフのハンターは5級以上って聞いているから、森の浅いエリアに関しては、現状ではもう問題ないと思う。私達が2層と呼んでいるあたりも連鎖するほどには残っていない。問題は3層以降なんだが、現状では聖属性魔法を使えないハンターは足を踏み入れないほうが良いだろうな。もうそれほど連鎖はしないが、レイスやスペクターが出る。実体系のアンデッドを相手するだけならともかく、そいつらを相手しているところに非実体系のアンデッドが来るとつらいだろ」
「なるほど、それでもかなり改善したんだな。それでアンデッド以外の一般の魔物はどうだ?」
「普通に出るな。別にアンデッドが一般の魔物を襲うわけじゃないみたいだ。むしろ一緒になって襲ってくるぞ。私達も別に区別して斃していないしな」
「そこは、当然だな。しかし、浅いエリアだけでも入れるようになったのは朗報だな。明日までは、お前たちに出来るだけ間引きをしてもらって、明後日には浅いエリアのみ解禁とするわ」
「勝手に奥に入るやつもいるんじゃないか?」
「いるだろうな」
「なら……」
「だが、それはハンターの自己責任だ。私達ハンターギルドは、出来る限りの情報を開示する。今のような全面立ち入り禁止ならともかく、それを聞いてどう動くかまではハンターギルドでは口を出せんよ」
「ハンターは自己責任でしたね」
瑶さんは大きく息を吐き、席を立った。
「とりあえず、明日まで出来ることはやっていきます」
「ああ、頼んだ」
その日、あたし達は3層の入り口あたりを中心にアンデッド狩りを行う。
そして、そろそろ今日も終わりという頃に、あたしの探知魔法に妙な反応があった。
「瑶さん。探知に妙な反応です」
「強敵?」
「いえ、魔物の空白地帯があるみたいです」
「空白地帯……」
「そこを魔物が避けて動いているんです」
「距離と方向は?」
「えと、北東に約1500メートルです」
「気にはなるけど……」
瑶さんが見上げた空は赤く染まり始めていて、夜が近い事を示している。この時間から新しい場所に行くのは、あたしも避けたい。
「明日、同じ場所に空白地帯があったら、調べに向かおうか」
そして翌日、あたし達は昨日最後の戦闘を行った場所にきた。
「朝未。どうかな?空白地帯はある?」
「ありますね。やはり、そこを避けるように移動しているみたいです」
「連鎖を避けて、そこまで行けるルートはある?」
瑶さんの質問に、あたしはもう一度探知魔法に注意を向ける。
「完全に連鎖無しで向かうのは無理そうです。それでも、最初の頃に比べて敵影が少ないので最低限の戦闘で向かうようにルートを選んでみますね」
「辺境の英雄たちは、どうします?多分ちょっとリスクが上がりますけど」
「勿論、オレ達も行きます」
あたしと瑶さんが少し悩んでいるとレアルさんが同行の意思を見せる。
「わかりました。でも、無理はしないでくださいね」
数回の戦闘を熟しながら空白地帯に近づいていくと、洞窟のようなものがあった。
「これは、洞窟ですね」
「単なる洞窟を魔物が避ける?」
「お、おい。あれって……の洞窟じゃないか?」
「自分は話で聞いただけなので……」
「俺も見たことはないけど」
後ろで辺境の英雄たちが何かひそひそと小声で話している。
「えと、何か知っているのなら……」
「朝未様。これはひょっとすると至らずの洞窟かもしれません」
あたしがレアルさん達辺境の英雄たちに聞こうとした横からマルティナさんが教えてくれた。
「マルティナさん。至らずの洞窟って?」
「洞窟の存在自体は知られているのですが、誰も中に入ったことが無いという、いえ、正確には入ることが出来ないということで至らずの洞窟の名前があります」
「至らずの洞窟。それで魔物も近寄れないのね。どこまで近寄れるか行ってみましょう」
「お、おい朝未。危険じゃないか」
「え?どうでしょう。敵の反応は無いですし、近寄るだけなら。一応補助魔法掛けてますし、罠で一撃死はないですから。それで、マルティナさん、中に入れないのを確認した人はどうなったんですか?ひょっとして危険だったりするんですか?」
「いえ、単に入れないだけで危険は確認されていません」
補助魔法に武器防具にはエンチャントして慎重に近づく。
洞窟の入り口までは問題なく近寄れた。
「どうします?中に入ってみます?」
「いえ、だから入れないはずです」
「試すだけ試してみましょう。危険はないんですよね」
「一応今までこれで危険な目にあった人はいないそうですが……」
マルティナさんの言葉に頷き、あたしは足を踏み入れた。何か膜のような物を突き抜ける感覚のあと、あたしは洞窟の中に入っていた。
「入れましたよ。特に危険な感じはしません」
あたしが周りを見回しながら言うと。みんなも入ってきた。
「うわ、なんだこの感じ」
「ぬちゃってしたぞ」
辺境の英雄たちが騒いでいる横で、あたしは瑶さんにそっと囁いた。
「街の結界を抜ける時の感じを強くしたみたいじゃなかったですか?」
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