第172話 新しい魔法

「姐御?あれ?オレ、デュラハンの剣で……。あれ?てっきり死んだと」


混乱しているようだけれど、レアルさんはちゃんと生き返った。


「レアルさん。無茶をしないでください。あたしはまだリフレクが残っていたんですから」


レアルさんはシュンとしてしまった。


「でも、ありがとうございます。助けてくれようとしたのは嬉しかったです」


あ、尻尾がブンブンと振られて、わかりやすいわね。


「身体の具合はどうですか?」

「……。大丈夫です。どこにも異常はありません」


そして、レアルさんだけではなく辺境の英雄たちのメンバー達全員があたしをじっと見て来ている。


「姐御。聖女様だったんですね」


そりゃ気付くわよね。ええ、リザレクションは聖女にしか使えない魔法だものね。あたしは盛大に溜息をついた。


「秘密にしてくださいね」


あたしの言葉にコクコクと頷く辺境の英雄のメンバーたち。


「とりあえず、今日はここまでにしましょう。みなさん大分消耗してるようですし、あたしも魔力の残りが少しばかり心もとないです。瑶さんとマルティナさんは?」

「私自身は余裕はあるけど、今日はこのくらいで引き揚げる方がいいだろうね」

「わたしは朝未様のご指示に従います」

「じゃ、今日は帰りましょ。あ、かすり傷でもなんでも、怪我してる人は言って。ここでなら治癒魔法を大っぴらに使えるから」


顔を見合わせて躊躇する辺境の英雄たちの面々をしり目に、瑶さんが近寄ってきた。


「とりあえず、腕の切り傷と胸の打撲をたのむよ」

「わたしは、背中とふくらはぎをお願いします」


どうやら瑶さんもマルティナさんもあの乱戦でリフレクは割れていくつか直撃をもらっていたようね。

軽く確認をすると、2人とも防具へのエンチャントの効果や高い身体能力で、それほど酷いケガではないけれど、久しぶりにダメージを負っていた。


「ヒール、ヒール」


穏やかな光が2人をつつむ。


「どうですか?」


「うん、完治したよ。ありがとう。いつもながら朝未の治癒魔法は凄いね」

「わたしも、違和感もなく完治いたしました。ありがとうございます」


身体を軽く動かして具合を確認した2人がニッコリと笑って返事をしてくれた。


「ほらほら。あなた達はどうなの?どこにもけがはない、なんてことはないでしょ?いくらあたしのホーリーの中にいたからってあれだけのアンデッドの中で戦ったんだから。治癒魔法を使えるのは今だけなんだからケガしたところだしなさい」


ようやく、おずおずとケガを見せてきた辺境の英雄たちに治癒魔法を掛け、周囲を見渡す。


「うん、これでみんな回復完了です。それにしても、凄い数でしたね。魔石を拾うのも一苦労かしら」


これで帰るとは言っても、斃したアンデッドの魔石は拾わないと、ギルドからの依頼料だけのになってしまうので帰る前に拾って回る。




クリフに帰り着くと、辺境の英雄たちはさすがに疲労が隠せない。


「明日は、1日お休みにしましょうか?」


ハンターギルドへ向かう道すがら、瑶さんに相談すると、瑶さんも辺境の英雄たちをチラリと確認すると頷きながら口を開いた。


「そうだね。ケガは治っても体力は消耗しているから」


そんな相談をしているあたし達に、レアルさんが口を挟んできた。


「そんな、オレ達は大丈夫です」


あたしは、思わず溜息がでた。


「あたしは嫌よ。疲れで動きが鈍ったのが原因で目の前で知り合いが死ぬのを見るのは。魔法だって絶対じゃないんですからね。それにあたしも数に対応できるように少し魔法の練習をしたいから。だから明日は休みです」


さすがに街中でリザレクションの名を口には出来ない。それにリザレクション前提でなんて怖くてたまったものではないもの。




ハンターギルドで魔石を売って家に帰ると、瑶さんが気になっているとばかりに聞いてきた。


「朝未。レアルさんに言っていた魔法の練習のことだけど……」

「ええ、何と言いますか、昔からお話の中では大量の敵の掃討は魔法の役割です。それに他の属性魔法ならともかく、今回は特に対アンデッドですからあたしの得意な聖属性魔法を練習してみたいんです」

「練習するのは良いけど、どんな魔法を考えているんだい?」

「いくつか考えているんですけど、まず、あれだけの数のアンデッド相手だと、ホーリーは少し効果が足りないと思うんです。もちろん魔力をもっと込めれば効果は上がりますけど、攻撃というより防御的な魔法の使い方になりますよね」

「そうだね。朝未が本気で使うと弱い魔物ならその場で崩れ落ちるくらい強力だけど、強い魔物相手だとホーリーだけだと、か」

「それだけじゃなくて、何というか攻撃に使うと効果の割に魔力消費が重い上に、少し頭の回る魔物だと避けてくるんです。あと、ちょっと距離があった時にはホーリーアローもデュラハンには避けられちゃいましたけど」


あれは流石に特別だと思いたい。でも、もしもの事を考えれば対策はしておかないとね。


「具体的には?」

「ホーリーアローを同時に複数撃ちたいですね。ほかにもストーンレインの聖属性魔法版とかそれを横方向に撃つとか。あと、これは出来るかどうかわかりませんけど、聖属性魔力の渦みたいなの、名付けるならホーリーストームですかね。そんなのを出来るようになりたいですね」

「それ1日で出来るようになる?」

「うーん、多分。ほらリザレクションが使えるようになったじゃないですか。あれって最上位の聖属性魔法ですから……」

「つまり、それより下位のはずの魔法ならどうにかなるんじゃないかってこと?」


あたしは瑶さんの言葉に頷いた。


「それと、庭では小規模でしか発動させられないですよね。だから実際に使いたい規模の魔法を確認したいので午後に森の浅い場所まで付き合ってください」

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