第170話 やはり胃袋を掴むと強い(強すぎる?)

あれから2日。あたし達は、第1層のアンデッドを問題の無いレベルまで殲滅し、今は第2層を目指している。


「瑶さん、この辺りがよさそうです」

「よし、じゃあ打合せ通り、私達3人が奥に向かって構える、辺境の英雄たちは、後ろで広がるのではなく丸くなるようにして、後方からの乱入への備えをたのむ。接敵時には朝未がホーリーで覆うから、その光の中から出ないように」

「あの、事前の説明でも聞いていましたけどホーリーの光の中にいればアンデッドからは安全度が高いというのは理屈ではわかります。でも、ホーリーの光の中にオレ達5人が入るのは無理がありますよね」


レアルさんが、申し訳なさそうに聞いてきたわね。うっかりしていたわ。高位の神官でも普通はそんな広い範囲を覆うホーリーは使えないのよね。

その言葉に首を傾げながら、瑶さんがあたしを見てきた。


「大丈夫ですよ。あたしを信じてください」


ここは、そう言うしかない。


「も、もちろんオレは姐御を信じてます」


慌てたように答えるレアルさんが、なんか可愛いわね。

あたしはクスリと笑うと、まずは補助魔法とエンチャントを掛けていく。そして、一番近い群れのアンデッドの1体に魔法を放つ。


「いきます。ホーリーアロー」


群れの1体を斃されあたし達に向かってくるアンデッド達。その瞳に知性の光こそないけれど、仲間を斃されたことであたし達への攻撃意識は高い。

距離の離れているうちに辺境の英雄たちのためにホーリーを唱える。


「ホーリー」


少し多めの魔力で範囲を広げたホーリーは直径10メートルほどの範囲を青白い光で満たす。


「え?!」

「これがホーリー?」

「こんな大きくてはっきりした?」

「神官が使うホーリーと違いすぎる!!」

「これなら確かに……」


後ろで何か言っているけど、もう戦いは始まっているのだけどホーリーの中だから大丈夫よね。


最初は森の外での戦いと一緒。森の奥から出てくるアンデッドをあたし達が引き受ける。

そして、1層のアンデッドはかなり斃したけれど、さすがに残りがいたようで、しばらく戦っていると後ろから低位のアンデッド、ゾンビやスケルトンがパラパラと襲ってくるようになった。

とは言っても少数のそれも低位の実態系アンデッドならホーリーに守られた辺境の英雄たちの敵ではなく、あっさりと斃されていく。


森の奥からはついに非実体系のアンデッドが現れ始めた。シャドウやレイスが数体単位で迫ってくる。それでも、聖属性の魔力をエンチャントしたあたし達の武器の前に斃れ、その場に魔石のみが残し消滅していった。

ここでも数回の補助魔法とエンチャントを掛けなおし連鎖したアンデッドを斃していると、さすがに連鎖がとまった。


「さすがに、森の中だと連鎖も多いか。朝未、魔力の残りはどうかな?」


さすがにこの場所だと魔法を節約すると逆に効率が悪すぎたので、ホーリー系の魔法をそこそこ使った。それでだと思うけど、瑶さんが気にかけてくれる。


「大丈夫です。この程度なら魔力自体は問題ありません。ただ……」


あたしは、後ろにいる辺境の英雄たちにチラリと視線を向けた。まだ元気ではあるけど、少しばかり消耗し始めているようにみえるのよね。


「そうだね。無理をする必要もないし、一旦森を出て昼食がてら休憩をしようか」


軽く頷いて瑶さんがそう言ってくれた。

あたし達は、地面に散らばる魔石を拾い集め、森の外に移動する。




「いやあ、強いのは知ってましたけど、想像以上ですね。ゾンビやスケルトン程度ならオレ達でもそれなりに斃し続けられると思いますけど、グールやスケルトンナイトにシャドウやレイス、それに最後は、スペクターやベン・ニーアもいましたよね」


そうなのよね、以前の調査だと3層で出てきたアンデッドまでズルズルと連鎖して出てきたんだもの、驚いたわ。


「それだけじゃないでしょ。アサミの姐御のホーリー。あんなの見たこともありませんよ。わたし達もそれなりに経験を積んできているので色々と見てきているんですけど、かなり高位の神官の使うホーリーでも2人が入れれば良いくらいの大きさですし、あんなに光も強くないです」


レアルさんだけじゃなくケヴィンさんまでが興奮で顔を真っ赤にしている。


「えーと、一応そのあたり内密にお願いしますね」


あたしが頼むと、辺境の英雄たちの面々はハッとしたように首を縦に振ってくれた。


「というところで、食事にしましょう」

「え?姐御、街に戻って昼飯にするんじゃないんですか?」


森を出てしまえばクリフまで普通に歩いても1時間程度だものね。でも、その片道1時間、往復2時間が後で問題になりかねないから食事はここですると瑶さんとも打ち合わせしてある。ただ、状況次第で変わる可能性もあったので辺境の英雄たちには伝えていなかった。


食料は持ってきているでしょうけど、そんな普通の携行食料で我慢させるなんとことはしませんよ。


「ここで食事にします。ここなら森から魔物が出てきても余裕をもって対応できますし、昼食後すぐにまた森に入れます」

「わかりました。おい、飯だ。食料を……」

「食料は、あたし達が持ってきています。味気ない携行食料よりずっとマシなものを食べさせてあげますよ」


あたしは、マジックバッグから事前に作っておいた昼食を取り出しそれぞれに配る。

自信作のパンとハンバーグ、それに具たっぷりのスープ。そして食後のお茶。あたしのマジックバッグには時間停止の機能はないので冷めてしまっているけど、あたしには魔法がある。生活魔法のヒートを少しアレンジしてそれぞれを丁度いい温かさにして渡す。


「はい、あたしの自家製です。多めに作ってきたのでお代わりもありますよ」

「え?」


辺境の英雄たちは目を白黒させているわね。ふふふ、ここで更に胃袋も掴めるかもしれないわね。


「さ、魔法で温めたから、また冷めないうちに食べてください。食後にはお茶もあります。温かいお茶と冷たいお茶どちらにも出来ますよ」


慣れた様子でくつろぎ食事を始めた瑶さんとマルティナさんを見て、辺境の英雄たちも恐る恐る口に運び始めた。


「う、美味い。姐御、これ本当に姐御が作ったんですか?」

「ええ、あたしの自信作。口に合ったようで良かったです」


「強くて、すごい魔法も使えてる美人で、こんな料理まで……。姐御一生ついていきます」


え?それはちょっと重すぎるんだけど。

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