第169話 アンデッドとは相性勝ち

「来るよ」


30を超えるアンデッドが続々と森から姿を現す。しかもその後ろも続いてきている。探知魔法の反応からすれば100体を超えるアンデッドが動いているはず。

瑶さんが、1歩前に出た。あたしは、瑶さんの右斜め後ろ、マルティナさんが左斜め後ろで武器を構える。

初手はあたし。


「ホーリーアロー」


アロー系の魔法は魔力消費が少ない。聖属性のホーリーアローを後続と分断するように適度にばら撒く。

そして先頭が瑶さんの間合いに入った。


その瞬間、瑶さんが動く。瑶さんの魔力をエンチャントされたロングソードが閃いた。1撃で動きを止め崩れ落ちるゾンビ。瑶さんは、そのまま動きを止めない。次から次へと寄ってくるゾンビやスケルトンに剣を振るいどれも一刀のもとに切り伏せている。

あたしの反対側ではマルティナさんが、槍のリーチを生かして刺突を繰り返す。あたしの聖属性魔力をエンチャントした槍は、やはり、ゾンビやスケルトン程度なら一突きで打ち倒す。

あたしも、ショートソードで切り伏せ、距離を置き回り込もうとするアンデッドは魔法で斃す。


「す、すげえ」

「強いとは思っていたけど、想像以上だ」


後ろで待ち構えているレアルさん達辺境の英雄たちが思わずといった感想を口にしている。


「まだですよ。まだまだ序盤。どんどんお代わりがきますからね」


続々と襲ってくるアンデッドを切り伏せ突き刺し魔法で焼き払う。さすがに数が多く、後方の辺境の英雄たちも剣を振るう。


「うわ、すげえ。なんでこんなに切れる?いや、切れるというより当たった端から崩れていく?」


さすがに1撃とはいかないようだけど、後ろに漏れたアンデッド程度ならサクサクと処理している。

補助魔法と武器防具へのエンチャントを再度行い、体感で30分程の時間が過ぎた頃、さすがにアンデッドの連鎖が終わり、最後のスケルトンナイトを瑶さんが切り伏せた。


「朝未、後続は?」

「とりあえずは、これで一旦終了みたいです。探知魔法にこちらに向かってくる反応ありません」


「ふー、結構な数だったわね。非実体系のアンデッドが居なかったぶん楽だったけど」

「いや、この数をあっさり斃しきる姐御達って……。5級なんですよね?」

「あ、言ってなかったわね。あたし達は4級に上がったんですよ」

「4級……。姐御達は、ハンターになってまだ1年くらいって言われてましたよね。いったい何をしたらこんな短期間で5級から4級に上がれるんですか?」

「ふふ、ちょっとね。護衛依頼の途中で男爵級ヴァンパイアに襲われたんですよ。その討伐と、それに伴う情報提供を評価されて、ですね」


あ、レアルさん固まったわね。そっか領軍がヴァンパイア相手に潰走したのを知っているんだったわね。


「あ、あの、ヴァンパイアって、あのヴァンパイアですよね」

「ヴァンパイアは、ヴァンパイアですよ。他にヴァンパイアってあるんですか?」

「い、いえ、ありません。ありませんけど、領軍が500の兵力で負けたのに……」

「ふふ、そこは相性ですね。ヴァンパイアくらいになると、数だけ揃えても攻略出来ないんですよ。レアルさんも見たのでしょう?一般兵の攻撃が何の役にも立たなかったのを」

「ええ、だからこそ驚いているんです。いったいどうやって」

「あたし達は相性が良いって言ったでしょう。ヴァンパイアもアンデッドです。それも実体のある、ね。聖属性の攻撃は効果的ですし、ヴァンパイアの耐久力を超える物理攻撃を当てれば、それでも斃せるんです」


あら、レアルさんをはじめ、辺境の英雄たちのメンバーみんなが口をパクパクさせて何も言えなくなってしまったわね。一応口止めもしておきましょ。


「ハンターギルドには報告してあるけど、秘密にしておいてくださいね」


「も、もちろんです」


レアルさん達が首が取れるんじゃないかっていうくらい激しく縦に振ったのを見て、にっこりと笑ってあげた。





「さあ、おしゃべりは、そのくらいにして、これからの予定をきめようか」


瑶さんが、そろそろと止めに入ってきた。


「予定って言っても、まずは、さっきと同じようにして森の表層部分のアンデッドの間引きをするんですよね。かなり連鎖するので大変は大変ですけど、探し回って斃すよりやりやすいんじゃないですか?」

「そこは間違いないね。私が言っているのは、その次の段階の事だよ」

「次、ですか」

「ああ、このかんじなら表層部分のアンデッドは問題なく森の外におびき出して殲滅討伐できると思う。今回見ていても少し奥のアンデッド。そう、私達が2層と呼んでいる部分のアンデッドは森の外に出てきていない。となれば、ある程度、討伐が進んだところで森に入る必要があると思うからね、その時についてだよ」

「え?森の中ってだけで同じようにやれば良いんじゃないですか?」

「森の中だと、多少後ろからの攻撃にも備える必要があるからね。まったく一緒というわけにはいかないと思うよ」

「そう、ですね。でも、その代わり森の中ならあたしが魔法を使ってもクリフの街から見られることはないですよね」


あ、珍しい、瑶さんが目を見張っているわね。


「そう、だったね。うん、今回朝未の魔法を制限しなきゃって事ばかり考えていたからうっかりしたよ。なら2層からは朝未の魔法も解禁で、ただし魔力の消耗に気を付けるようにね」

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