第167話 ハンターギルドクリフ支部からの依頼

翌日からあたし達は、朝一番にミーガンさんと話をして、その後ハンターギルドで状況を聞いて、その後はギルドの訓練場での訓練に時間をつかうことにした。

そして3日目の朝、パオラさんから森のアンデッドについて話を聞きにギルドに行くと奥の部屋に呼ばれた。


「あの、あたし達はアンデッドの様子を聞きに来ただけなんですけど、なんでここに呼ばれたんでしょうか?」


嫌な予感がよぎる中パオラさんに聞くと


「アンデッドが弱くなった?」

「単体としての強さは変わらないようですが、これまで連携じみた動きがあったのが、それが無くなって戦いやすくなったそうです」

「そうなんですね。じゃあ、クリフも安全性が高くなりましたね。なおさらあたし達がここに呼ばれた理由が分からないんですが」


あら、パオラさんちょっと憂鬱そうな顔になったわね。


「その、戦いやすくはなったそうなんですが、これまで森から出てこなかったアンデッドが、森の外まで出てくるようになってきたようなんです。しかもシャドウやレイスまで」


あ、これはよろしくない流れね。


「そ、そうなんですか、大変ですね。情報ありがとうございます。あたし達はこのあたりで失礼し……」


あたしが席を立とうとしたところで、あたしの肩が後ろから掴まれてしまった。


「まあ、そう慌てて帰ることもないだろう。お茶くらい飲んでいきなさい」


振り向くと、そこにはギルドマスターのアイノアさんがいい笑顔で立っていた。


「遅かった」


あたしがため息をつく間にアイノアさんはテーブルにつくとパオラさんに視線をむける。


「パオラ、お茶を入れて来てくれ。一番いい奴だ。あとお茶請けな」

「はい、あの準備しておいたあれですね」


とりあえず本当にお茶は出してくれるらしいわね。って、パオラさんの返事からすると待ち構えていた感じ?


「まあ、そう嫌そうな顔をするな。お前たちが護衛依頼の途中だってこともわかっている。そう無茶なことは言わないよ」

「アイノアさんのその言葉が既に無茶ぶりするって言ってるように聞こえるんですが」

「まあまあアサミ、そう言うな。普通のハンターになら無茶ぶりでも、お前たちにならそうでもない話だ。まずはお茶とお茶請けでも食べて落ち着いてくれ」


さすがにここから逃げるわけにもいかないので、勧められるままにお茶とお菓子をくちにする。


「あ、美味しい」


お茶もお菓子もこの世界に来て口にした中では一番美味しいかもしれない。


「どうにか、気持ちを落ち着かせてくれたようだな」

「はあ、まあいいです。今更逃がしてはくれないんでしょう?とりあえず、お話を聞かせてください」

「すまんな。とりあえずクリフの現状はパオラから聞いたな」


あたし達が頷くのを見てアイノアさんは続ける。


「まず前提として、ここクリフにいるハンターは5級以上なんでな、ゾンビだろうがスケルトンだろうが、上位のグールだろうが、対応できる。数が少なければベン・ニーアでもな。まあ、さすがにヴァンパイアとなると対応できるハンターがいるかどうか怪しいが、今はいいだろう」

「なら、あたし達の出番は……」


出番はないと言おうとしたところをアイノアさんが首を振って遮った。


「今言ったような実体のあるアンデッドだけなら問題ないが、これが非実体系のアンデッドだと低位のシャドウでさえ手に負えないんだ」

「つまり、あたし達に非実体系のアンデッドを何とかしろと?」

「まあ、ありていに言ってしまえばそうだな」

「その関係の事は秘密にしておきたいって言いませんでしたっけ?」

「大丈夫だ、そのあたりハンターをギルドに集めて、お前たちが見られないようにしておく。一般人は元々壁の外には出ないからそれで大丈夫なはずだ。門の出入りも一時的にお前たち以外は禁止にする。あと、一応5級ハンターパーティーの辺境の英雄たちをサポートにつけるつもりだ。あいつらなら大丈夫だろ?」


え、そんなことも知ってるの。いったいどうやって……。


「お前たちがやらかしたのは、ギルドの訓練場でだろう。あそこは危険防止の意味も含めてギルドマスター室から見えるようになってるんだ」


あ、なるほど、見られていたわけね。


「一応、ミーガンさん、護衛の依頼主です。そのミーガンさんの許可をもらってからにしてもらえますか?」

「大丈夫だ。既に話はついている」


いつの間に……。


「明日の朝から頼むな」


アイノアさんの声を背中に、あたし達は、がっくりと肩を落としてハンターギルドを後にした。


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