第166話 クリフの現状

家に戻って瑶さんとマルティナさんにレアルさんから聞いた話を伝えた。

とたんに、瑶さんが顔を顰めたわね。


「瑶さん。どうかしたんですか?」

「そんな状態で、何故クリフは無事なんだ?」

「え?それは、街自体が壁に囲まれているし高位ハンターが大勢いて……」

「それはわかるよ。わかるけれど、あの男爵級ヴァンパイアでさえ朝未の探知魔法でも至近距離で違和感程度、伯爵級ヴァンパイアに至っては一緒に行動しても向こうが攻撃してくるまで分からなかったんだよ。クリフの中に入ってくるのだって簡単じゃないかな?」


言われてみれば、その通りなのよね。なりふり構わず潰しに来ていれば……。


「あ、ひょっとして……」

「何か気付いたことがある?」

「え、ええ。でも、そんな理由で?って内容なんです」

「それでもかまわないよ。事はこれからの私達の安全に関わりかねない事柄だからね」


瑶さんはそんな風に言ってくれるけど、とても現実的じゃないのよね。それでも瑶さんなら馬鹿にはしないとは信じられるから話してみることにした。


「今まで出会ったヴァンパイアって2体ともプライドが高そうだった気がするんです。それで、コソコソ隠れて攻撃するのをよしとしないのかもって思って。ほらハンス・フォン・ゼーガース男爵にしても、フリードリヒ・フォン・バイエルン伯爵にしても、こっちが気付く前に問答無用で攻撃してくれば、あたし達だってもっと苦戦したと思いませんか?」

「フリードリヒ・フォン・バイエルン伯爵は、いきなり朝未の腕を掴んだけどね……。ま、あれは攻撃というより捕まえるためか。それでも攻撃自体はしてこなくてもクリフの内情の偵察くらいはしている可能性もあるかな。そういう意味ではあそこでフリードリヒ・フォン・バイエルン伯爵を斃せたのは幸運だったかもしれないね。それにしても最初は男爵で次がいきなり伯爵かやっぱり公爵とか王族とかもいるのかな?」

「どうでしょうね。この世界のヴァンパイアの階級がどうなっているのかはわかりませんけど、地球ではあまり王族って言い方は無かったと思います」

「じゃあ公爵で打ち止めかな。せめてそうだと良いんだけど」

「いえ、地球では貴族の上に真祖と呼ばれるヴァンパイアが設定されていました」

「真祖。もう名前からして危ない気配がプンプンするね。出てこないでほしいなあ」


瑶さんは肩を落として本当に嫌そうな顔で呟いた。でも……。


「瑶さん、それフ……」


口にしたら本当にフラグになりそうだから途中でやめたけど、あたしも本当に出てきてほしくない。




翌日、朝一でミーガンさんのところに顔を出し、あとは自由時間。


「瑶さん、何しましょう?」

「ミーガンさんが他の街に移動するまではやることがないね」

「なら、ギルドに行ってみてはいかがでしょう?」


あたしと瑶さんが、今日の予定を決めかねているとマルティナさんがギルドを勧めてきた。


「え?あたし達ミーガンさんの護衛中だから依頼を受けるわけにはいかないですよね」

「ええ、依頼を受けるためではなく、今受けている依頼のために情報収集をするのはどうかと思いまして。ギルドなら日々変わる周辺のアンデッドの様子をある程度把握していると思いますので、それを確認するのは役に立つのではないでしょうか?」

「なるほど、確かに多くのハンターからの情報が集まるギルドが、そういったものを一番把握している可能性が高いですね。朝未、マルティナさんの言うようにギルドに行って話を聞くのがよさそうだけど、朝未はどう思う?」

「あたしも、それが良いと思います。特にあたし達がフリードリヒ・フォン・バイエルン伯爵を斃してから変化があるかどうかを聞きたいですね」

「それが、わかるのにはちょっと早いとは思うけど、毎日少しずつ聞いてくるようにしようか」


話合いの結果(?)、あたし達はギルドに向かった。

割と早い時間だけど、ハンターが狩りに出るには少々遅めの時間。この時間ならギルドの窓口は比較的空いているはず。

そして、向かったのはいつもの受付のお姉さんパオラさんのもと。


「おはようございます。パオラさん」

「おはようございます。朝未様、瑶様、マルティナ。今日は、どのようなご用件でしょうか?」


にっこりと良い笑顔パオラさんが迎えてくれた。


「あたし達しばらくクリフを離れていたじゃないですか。護衛依頼の途中でもあるし、最近のこのあたりのアンデッドの状況がどうなっているのか教えてもらえませんか?ここなら、ハンターから情報集まりますよね」

「なるほど、護衛のための情報収集ですか。わかりました。今のところの状況をご説明しますね」


そう言うと、パオラさんは1枚の簡易の地図を持ち出してきた。


「皆さんがクリフを離れる前は、このあたりの森にだけアンデッドが出没していたのは覚えておいでですか?それが、その後しばらくして……」


パオラさんの説明によると、

あたし達がクリフを離れて少しした頃からアンデッドの出没範囲が広まりだして、あっという間にクリフ周辺の森全域にアンデッドが出没するようになったとのこと、それもはじめの頃が単に出没範囲が広がっただけだったのが、暫くすると群れと群れの間隔が絶妙になって、ひとつの群れを攻撃すると次々に寄ってきて数十体のアンデッドにたかられる様になった。領軍がクリフに来たのがこの頃なんだって。そして、レアルさんの話の通りの事態に領軍が撤退。その後は何故か森から出てこないアンデッドを森の浅い部分でハンターが間引きするのが精いっぱいだとのこと。


「それは、今日も続いているんですか?」

「今日、ですか?」

「ええ」

「あの、朝未様、今日の情報が入るには少々この時間は……」


あ、まだ朝だったわね。


「ご、ごめんなさい。ちょっと焦りすぎました」

「いえ、最新の情報が欲しいのは分かりますので」


そんな情報をもらって、あたし達は家に戻った。

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