第161話 護衛途中

情報収集の結果、あたし達が護衛すればクリフまで街道を移動するだけなら問題ないという結論になったので、翌日早速クリフに向かって移動をしている。


「確かにあたし達が護衛についていれば問題の無い程度の危険みたいですね」

「そうなのか?」


あ、瑶さんも探知魔法を使っているはずだけど、あたしの探知魔法とは探知範囲が違うからわからないみたいね。


「そう、ですね。あたしの探知魔法にバンバンと下級アンデッドの反応があります。森に少し入ればそれこそ入れ食いでしょうね。多分ひとつの群れと戦闘に入ればアンデッドがものすごい勢いでリンクして数百って数が集まってくると思います」


実際、街道わきの空き地にまでは出てきていないけれど、あたしの探知魔法には森に入ってすぐあたりからたっぷりと反応があるもの。


「そんなに?」


ふふ、驚いているわね。でも、あたしだってビックリよ。なんでこんなにアンデッドがいるのよ。


「ええ、そんなに。だから森には近づかないでくださいね。対処できないとは言いませんけど、結構面倒だと思います。それに今はミーガンさんの護衛中ですから」

「はは、さすがに不必要なリスクはおかさないよ。それにしても、このあたりでさえそれじゃ、クリフは大変だろうね」

「ええ、それに今は昼ですからアンデッドは襲ってきませんけど、夜になったらわかりませんよね」


アンデッドと言えば夜に襲い掛かってくるのが定番だもの。


「で、朝未の探知範囲のアンデッドに統率された様子はある?」

「え?そうですね」


瑶さんの質問に、あたしはマナセンスとマインドサーチを併用して様子をうかがってみる。


「今のところ、あたしの探知魔法で感じられる範囲ではバラバラに動いている感じです。何か気になる事でもありました?」

「ハンターギルドでのヴァンパイアがいたって話。前の時もヴァンパイアが他のアンデッドを統率してたんだと思う」

「ヴァンパイアが近くにいるのならアンデッドが統率された動きをするんじゃないかってことですね」

「そう思ったんだけど、朝未の探知魔法で統率された感じがみられないなら今は大丈夫かな」


確かに統率されてもいないアンデッドなんて、あたし達にしたら鴨だもの。でも一言言っておかないとね。


「でも、夜が問題です。アンデッドと言えば夜ですし、あのなんとか男爵ってヴァンパイアが出たのも夜でしたし」


そんなあたしの言葉に、瑶さんもマルティナさんもハッとしたような顔になった。


「そう、だったね。油断しないように気を付けよう」





街道わきにある野営地でいつも通りに、夕食を作ってみんなにふるまう。

おいしそうに食べてくれるのを見ると、いつも嬉しくなるのよね。日本にいた頃から料理は好きだったけど、毎日美味しそうに食べてくれるのを見てると幸せな気持ちになる。


それにこの世界の食事はやはり中世相応なものなので、あたしが作ることの出来るもの程度でも、かなり美味しいものになるみたい。自惚れでなければミーガンさんも、以前護衛したマルタさんも、あたしの料理を気に入ってくれて、あたし達に護衛依頼を出す理由のひとつになっていると思うのよね。ハンターランクも4級になったことだし今までよりずっとやりやすいわよね。


そんな事を考えながら夜を過ごした翌日、あたしの探知魔法にちょっと嫌な反応があった。


「ミーガンさんちょっと馬車を止めてください」

「エルリ馬車をとめて。アサミ様、何かありましたか?」


すぐに馬車を止め、ミーガンさんがいぶかし気に聞いて来た。


「え、ええ。この先で誰かが戦っているみたいなんですけど……」

「けど?珍しいね、朝未がはっきり言わないなんて」


ミーガンさんには、あたしの探知魔法について多少は話てあるので、基本的に探知した内容を隠す必要がない。それなのにあたしがはっきり言わないので瑶さんが首を傾げた。


「い、いえ。戦っている人数は分かるんですけど、その相手が……」

「相手?何かおかしな相手、なのかな?」

「昨日言いましたよね。戦い始めたらものすごい数を相手にしないといけなくなるって」


全員が頷いたのを確認して、あたしは言葉を続けた。


「それをやってるみたいなんです。どんどん森からアンデッドと思われる魔物が出てきています」

「あたし達だけなら、突っ込んでもいいんですけど、今はミーガンさんの護衛中ですから。でも、ここからだとさすがに詳しいことは分かりませんし」

「戦闘が終わるのを待っていたら、いつになるのかもわからない、か?」

「はい。なのでどうしたものかと」


「朝未様。そういう事でしたら。わたしが偵察にいきます。状況確認と、場合によっては戦っている誰かと話をできるかもしれません。朝未様に補助魔法を掛けていただければアンデッド相手なら離脱も難しくありません」

「私達の中では、私が一番足が速い。行くのなら私だろう」

「いえ、瑶様は、わたし達の中で近接最強です。また朝未様は魔法での補助制圧に欠かせません。護衛途中ということを考慮すればわたしが行くのが最適かと」


マルティナさんにそこまで言われてしまえば、あたしも瑶さんも反論がしにくい。


「わかった。ただし、安全最優先でな。怪我をするくらいなら情報無しでもいいから。最悪ここで止まって魔物が居なくなるまで待ってもいいんだから」

「はい、わかりました。では朝未様、補助魔法をお願い致します」


補助魔法で底上げしたフィジカルであっという間に走り去るマルティナさんを無事を祈りながら見送った。

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