第158話 ???????
「アンデッドですか?」
この世界に召喚されてそろそろ1年。フィアン・ビダルさんによると、どうやら最近この国ではアンデッドによる被害が広がっているらしい。
「ええ。ほとんどは兵士や騎士にとって脅威ではありませんが、一部に少々面倒なアンデッドが混ざっておりまして」
フィアン・ビダルさんは、辺りは柔らかいけれど、日本の普通の高校生でしかなかった私にはお腹の中が読めない警戒すべき相手。そう警戒すべき相手ではあるのだけど、最近持ってくる話はその持って来かたもあって中々に拒否がしにくい。正直言って私はこの人が苦手だ。というより、この人を得意としている人は居ないんじゃないだろうか。
そんなことを思いながらも返事を返す。
「面倒な相手と言いますと?」
「どうやらヴァンパイアが混ざっていたようなのです。1体は商人の護衛をしていたハンターが斃したようなのですが、アンデッドの大量発生自体はおさまっておりません。そのため、各地の農作物や商品を運ぶ商人に被害が多発している状況です。その状況のため商人の護衛に特に上位ハンターがとられ、ハンター不足が発生しています。結果通常はハンターによりもたらされる素材も不足するという状況となってきているのです」
これは中々に厳しそうな状況ね。
「フィアン・ビダルさんは、いえトランルーノ聖王国は、私達に何をしろと?」
「さすがは、剣聖様。察しがよろしくて助かります」
「お世辞は結構です。それで私達は何をすればいいのですか?」
「勇者様方の力をもってヴァンパイアを討伐していただきたいのです」
そのフィアン・ビダルさんの言葉に私は思わず眉をひそめてしまう。
「さきほどヴァンパイアはハンターが討伐したといわれましたよね?」
「ええ。間違いなく男爵級ヴァンパイアを5級ハンターパーティーが討伐しました。証拠の魔石もありましたので、それは間違いありません」
しれっと言ってきたわね。
「なら……」
「しかし、より上位のヴァンパイアがいる可能性が高いことも同時にわかったのです」
「その根拠は?」
根拠も無しにわたし達を動かすということはさすがに無いと思うから、なんらかの理由はあるとは思う。でも、その根拠が気になるわね。
「何、単純な事です。ハンターが斃したヴァンパイアが”主”なる存在を口にしたということなのです」
「え、ヴァンパイアが?ヴァンパイアって魔物ですよね。しゃべるんですか?」
「うむ、高位の魔物の中には人の言葉を操るものもいるのは過去の文献などにも記載されている」
「つまり、そのハンターが斃したのはそんな文献に載るようなレベルの魔物だったということでもあるわけですね。しかもそれよりも上位の魔物。わたし達に斃せるでしょうか?」
「なに、ヴァンパイアを斃したのは4級ハンターパーティーだということです。勇者様方ならば余裕でしょう」
「その4級ハンターパーティーと話をすることはできませんか?場合によっては模擬戦で力試しをしたいのですが?」
「ふむ、ハンターギルドに依頼してみましょう。何、我が国の意思を無視できるハンターなぞ居はしません」
数日後、私達は5級ハンターパーティー虎狼の風のメンバー5人とテーブルを囲んでいる。
「あなた方が、ヴァンパイアを斃したハンターパーティーということですか?」
私が聞くと、彼らはきょとんした顔を見せた。
「え?俺たちは5級ハンターパーティーではあるが、ヴァンパイアを斃したことなどないぞ」
「え?わたし達はヴァンパイアを斃したハンターパーティーと話が出来ると聞いていたのですが……」
彼らを連れてきた人に視線を向けると何か驚いた表情をしているわね。
「あ、あの申し訳ございません。そのあたりはフィアン・ビダル様がご説明されると思いますので、少々お待ちください」
ま、案内してきただけの人を責めても何にもならないわね。
「ま、いいわ。私達は、この国に勇者として召喚されたの。私は最上真奈美、よろしく」
「俺は大見栄大地だ」
「わたしは安原小雪。よろしくね」
「え、勇者様?お、俺、いえ、あ私は虎狼の風のリーダーでリシャールといいます。武器は大剣使ってます」
「オレは、弓使いのダミアンです」
「あ、あのアルバンといいます。槍を使います」
「スカウトのギヨームです。ぶ、武器は短剣です」
「俺はジョルジュ。バスタードソードを使います」
「わかりました。で、あなた方は5級ハンターパーティーだけど、ヴァンパイアを斃したハンターパーティーとは別なのですね。では、ヴァンパイアを斃したハンターパーティーと知り合いだったりしますか?」
「い、いえ。ヴァンパイアを斃したハンターがいるということは噂では聞いていますが、直接の知り合いではありません」
フィアン・ビダルさんが彼らを呼んだ理由がますます分からないわね。あ、ひょっとして。
「あなた方は5級ハンターパーティーとしてどのくらいの位置にいるのかしら?」
「そ、そうですね。トップとは言えませんが、わりと上の方にいると思っています」
なるほど、ヴァンパイアを斃したハンターパーティーを捕まえられなかったのね。代わりに同クラスのハンターパーティーを連れてきたってとこかしら。
私が、そんなことを考えているとドアをノックする音がした。
「どうぞ」
「失礼します」
入ってきたのは、フィアン・ビダルさん。
「ああ、よく来てくれました。私はフィアン・ビダル。王宮付の司祭長をしています。あなた方が虎狼の風ですね」
「は、はい。よろしくお願いいたします」
フィアン・ビダルさんが声を掛けると、虎狼の風のメンバーが畏まって跪く。
「ああ、そんなかしこまらなくて結構。おすわりください」
フィアン・ビダルさんが椅子に腰かけるのを待って虎狼の風の面々も椅子に腰をおちつけた。
「フィアン・ビダルさん、それで彼らを呼んだのは?話を聞くとヴァンパイアを斃したハンターパーティーではないようですけど」
「申し訳ございません剣聖様。ヴァンパイアを斃したハンターパーティーは既に国を出てしまっておりまして、招集が出来ませんでした。ですので代わりと言っては失礼ですが5級ハンターパーティーの実力を見ていただければと、彼らを呼んだのです」
「では、せめてもの模擬戦のお相手ということでよろしいでしょうか?」
「はい、そのつもりで呼びました」
「わかりました。しかし、小雪の魔法やそちらの弓使いダミアンさんと言われましたかは、模擬戦には向きませんね。そのほかの方々と模擬戦をさせていただけますか?」
「お、俺たちが勇者様たちと模擬戦を?」
虎狼の風のメンバー達は驚きに口をパクパクとするばかり。
それでも、練兵場での模擬戦の申し入れには喜んで受け入れてくれた。
まずは1対1。その後私と大地の2人対虎狼の風の弓使いを除いた4人でのパーティー戦を行った。
結果は、どちらも圧勝とまでは言わないけれど、危なげなく私達が勝利した。
「す、すごいですね。俺達4級ハンターパーティーと模擬戦をしたこともあるんですが、その時はもっといい勝負でした。さすがは勇者様です」
模擬戦での怪我を小雪の魔法で治療されながらリーダーのリシャールさんが驚いたように感想を口にしてきた。
「ということは、勇者様方予想通りは4級ハンター並以上と考えてよさそうですね。ヴァンパイアを斃したハンターパーティーは5級だったそうですから、勇者様方なら十分斃せると考えて良いのではないでしょうか」
「そうですね」
フィアン・ビダルさんの言葉に、多少の不安は感じながらも私達は頷いた。
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